69話 大いなる力
加護の力を使うとき、人を覆うように光が見える。正確には見えているわけではないのだが、少しわかりずらいが、「見えているように感じる」といった具合だ。
とにかく俺はその光を、人がいるはずのない遺跡の奥に対して感じていた。
「…何だ…?」
加護の光と似ているようで何か違う。何が違うかはよくわからないが…。
そうだ、何というか動きが無いのだ。加護の光というのは、個人差はあれど常に揺れ動いている。しかし、あれは全く動かない。まるで生物ではないかのように。しかも──
「危ない!!」
「──ッ! うわっ!?」
ジェシカが俺を掴んで飛びずさる。直後、光線が先ほどまで俺が立っていた場所に突き刺さり、凄まじい爆発を引き起こした。魔王が剣を振り下ろしたときに発生した衝撃波だ。
「何してんの!? こんな時に呆けてるなんて、正気!?」
「あ、ああ、悪い、助かったよ、ありがとう」
礼を言いながら、後ろを振り返る。俺が先ほどまで立っていた場所の真後ろの壁は、人間大の穴が開き、所々赤熱している。あと一瞬遅かったら消し飛んでいただろう。
「ホントに感謝だ…! 感謝ついでにジェシカ、皆と協力して少し時間稼いでもらえないか!?」
「時間…? 一体何を──」
「詳しく説明してる暇はないけど、あっちの祭壇の向こうに行きたいんだ! もしかしたら、この状況をなんとかできるかも──!」
ジェシカは俺が指さした方を見て、何かを見ようとするかのように一瞬顔をしかめる。が、すぐに俺に向き直り、嘆息気味に言った。
「時間稼ぎも何も、どの道アイツを何とかしないとここから出られないじゃない。言われなくてもとっととアレ倒しちゃうから、それまでの間隠れてるなり探し回るなり好きにしなさい」
「ああ、助かる。皆にもよろしく言っといてくれ。…じゃあ、頑張れよ」
俺は最後に励ましの言葉をかけ、魔王の攻撃を警戒しつつ、足早に祭壇の先へと走る。ルゥフたちは、すでに魔王との戦闘を再開しているようだった。
だが、劣勢だ。全員すでに加護を限界まで上げているというのに、それでも魔王には大きく及ばない。
なんとかしなければ──と、焦燥感に心を削られながらも、無我夢中に走る。幸い、遠目に見たよりも近かったようで、目的の光はもうすぐ近くだ。
「──! ここだ! ここに、この奥に──」
──何も、ない。
いや、何もないわけじゃない。あるのは、何の変哲もない壁だけだ。
「いや、でも…」
光は、この壁の向こうから確かに感じる。ということは、この壁に、何らかの仕掛けがあるのか。それとも、どこか他の道があるのか。
しかし、他の道を探しに行く時間はない。今は一分一秒でも惜しいのだ。
「くそっ、どこかに何か──、スイッチでもあれば…。…ん?」
よく見ると、壁の上方に球体を埋め込んだような突起があるではないか。もしや壁の仕掛けを作動させるためのスイッチか、そう思い俺はその突起を力強く押し込んでみる。だが。
「反応なしか…! 押し方が違うのか? それとも別の仕掛けが…!?」
やけくそ気味に壁に埋め込まれた球体を叩こうとしたその時だった。
「これは…小さな光か…?」
そう、光だ。加護の光が見えたのだ。といっても、さっきからずっと存在を主張している大きな光ではない。まるで壁に埋め込まれるようにして、無数の小さな光が存在しているのだ。壁の奥にある光があまりにも大きすぎて今の今まで気が付かなかったというわけだ。
そして、気付いたことはもう一つある。それらの小さな光と、最初に見つけた壁に埋め込まれた球体との間に、糸のような繋がりができているのだ。そう、加護の力を体外に取り出した時のように。
となれば、やることは一つ。
「この光を球体の中に戻せば…」
小さな光たちを球体に戻す。人間の加護を操る時のように、すんなりと操作することができた。そして、カチッ──と、鍵を開けるような音が響く。
「やった…!」
大仰な音を立て、壁が動き始める。どうやら推測通り、仕掛けが作動したようだ。
それにしても、この壁の仕掛けは俺の加護でなければ解けないだろう。つまり、大昔にこの仕掛けを作った何者かは、俺と同じ力を持っていたということに他ならない。何とも不思議なことだ。
と、そんなことを考えている間に、どういう仕掛けか壁は地面の下に入り、奥の空間への道が完全に開けていた。相変わらず真っ暗で何も見えないが、手が届くほど近くに、途轍もない力を秘めた何かがあるということだけは確信できる。
暗闇に足を踏み入れる前に、後ろを振り返る。後方では、圧倒的な力を持つ魔王に、ルゥフたちが何とか食いついている様が遠目に見えた。
今はまだ堪えているが、長くは持たないだろう。
俺が、何とかしなくては。そう思い、俺は決意と共に暗闇の中の光に向かって手を伸ばした。




