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68話 光明


「うおおおおおおっ!?」


 光が、剣閃が、影が、恐ろしいほどの速さで飛び交っている。全く何が起こっているかわからない、かろうじて残像が見えるだけだ。

 対して、レイ、ルゥフ、ジェシカの三人の攻撃を捌く魔王は、その場を殆ど動かない。体の僅かな傾きと両手に持った短剣だけで猛撃を防いでいた。

 ヒートも魔力を練っているが、如何せん三人の動きが速すぎて攻撃のタイミングを掴めないでいる。下手に魔法を撃てば、味方を巻き込みかねないのだ。

 加護も皆前回まで強化しているし、俺にできることは何もない。


「まあ、あくまで戦いは、ってことだけど──」


 俺は魔王の攻撃を警戒しながらも空間の中を見渡す。幸いにも祭壇に灯されたかがり火のおかげで周囲はそれなりの明るさが保たれていた。

 よく見れば周りはかなりの惨状が繰り広げられている。壁はヒビだらけ、床にはクレーターのような窪みが無数にできている。それに、点々と血の跡も見える。


 血痕を辿って壁際に視線を巡らすと、数人の冒険者達が倒れているのが見えた。急いでポーションを取り出し、彼らに近づく。


「大丈夫ですか!? …よかった、まだ息はある…」


「う…」


 近づいてみれば、どこかで見覚えがある人達だ。たしかS級の、『影の衣』だったか、そんな名前のパーティーだ。全員仮面をつけているのが印象的で何となく覚えている。

 倒れているのは三人、皆まだ命に別状はないようだ。


「大丈夫ですか? 少し我慢して下さいね」


 仮面を少しずらして回復ポーションを口に流し込む。完全に回復するほど強力なものではないが、まあ何もしないよりはるかにマシだろう。それに、少しでも動けるようになれば彼ら自身が魔法やら何やらで勝手に回復してくれるはずだ。


「ぐ…お前は…」


 ポーションを飲ませた仮面の男がよろめきながら立ち上がる。そして彼の影から伸びた手が彼の傷口を覆い始めた。血の流れが止まっているところを見るにどうやら治療をしているらしい。よくわからないが便利な力だ。

 そして少し経つと、彼は大体回復したのか、影の手は他の仲間の傷口を覆い始める。


「助かった、少年、礼を言おう…。私はシャドという。お前はたしか…」


「サイといいます。ご無事でなによりです」


 血を拭いながら俺に礼を言うシャド。流石に体力までは全快していないようだが、傷はほとんど塞がったみたいだ。

 そして彼は余裕の表情で攻撃を捌いている魔王の方を睨みつける。流石はS級というべきか、まだやる気は十分のようだ。俺はとりあえず彼の加護を強化する。


「…これは…? そうか、そういえばお前はそんな力を持っていたな…」


 力を強化されたシャドは、ゆっくりと手を持ち上げ、魔王を指さす。すると──


「む…?」


 魔王の周囲の影から大量の手が伸び、まるで蛇のように魔王の身体に巻き付いた。

 全身を拘束され、一瞬動きが止まる魔王。しかし、いくら加護で強化されているとはいえ、魔王にとってはそんなもの大した障害にはならない。精々数秒動きを止めるのが限界といったところだ。


 しかし、彼の周りにいる冒険者達にとって、数秒というのは、相手を仕留めるのには十分すぎる時間である。


「シィッ──」


「ガァアッ!!」


「うおお…!」


 もっとも、それは相手が普通の敵であった場合であり、今回の相手には「普通」は通用しないわけだが。


「──えっ!?」

「な──」


 魔王の背中から、2対の巨大な翼が生える。それらが指のように蠢き、影の手を器用に取り払っていく。そして、元々生えていた翼を解放し、都合6枚の翼が3人を迎撃する。

 あの状態から反撃がくるとは思っておらず、全力の攻撃態勢を取っていた3人は、なすすべもなく翼に薙ぎ払われ吹き飛ばされた。


「面倒な力だ…。先に片付けたと思ったが、まだ生きて──」


 影の力を目障りに感じた魔王はシャドに視線を向ける。が、すぐにその視線を別の物へと向ける。

 ──そう、彼の頭上に突如として現れた、小さい太陽へと──


「さっさと、くたばって下さい」


 ヒートがそう呟くが早いか、圧縮された魔力と熱量の塊が魔王へと直撃する。地面に着弾したそれは、凝縮されたエネルギーを解放すべく、物凄い威力を伴った大爆発を起こす──かと思われたその瞬間、周囲の物体を巻き込みながらよい小さな球体へと圧縮される。


 魔王が魔法を吸収でもしたかと思ったがそうではなく、どうやらヒートが何かしたらしい。暴発寸前の魔力を圧縮し、中にいる獲物を確実に焼き尽くす、いっそ残酷ともいえるほどの強力な魔法だ。


 灼熱の球体は爆発と圧縮を繰り返しながら少しずつ小さくなり、そして──


「っ! 伏せて下さい!」


「えっ!? ──おわっ!?」


 大爆発。今まで上層に響いていた揺れとは一線を画す衝撃が遺跡全体を震わせた。


 灼け付くような熱を持った暴風が吹きよせ、たまらず地面に伏せる。

 そして、ようやく熱風と火花が収まったころ。


「う…どうなった?」


 噴煙の上がる祭壇の様子を遠目に見る。あれだけの魔法をまともに受ければ、いくら魔王とて無事では済まないと思うが…。


「…あれは何だ?」


 俺と同じく魔王の様子を確認しようとしていたシャドが呟く。

 煙の晴れたそこには、ドーム状の黒い物体が鎮座していた。


「なんだ…。バリア…?」


 見慣れない物体に警戒を高める。だが、次の瞬間。

 ドームが開き、無傷の魔王が現れる。どうやら翼で壁を作り、魔法を防いだらしい。


「ふむ、今のは中々悪くなかった。が、──」


 魔王の身体から黒い魔力が噴き出す。そして魔王の右手に集まっていき、まるで剣のような形をとる。


「今ので限界というのなら、そろそろ終わらせてしまうか──」


 魔王は現れた黒い剣を頭上へと掲げる。

 俺は慌ててジェシカたちの状況を確認すると、3人ともダメージは大きいが、何とか立ち上がることはできているようだ。


 俺はこの場にいる全員の加護を、できるだけ強化しようと目を瞑り、集中する。そして、気付いた。

 遺跡の、祭壇のさらに奥。松明の光も届かず、暗闇に閉ざされているその場所に。

 何か、不思議な「光」を感じることに。

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