表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/73

62話 不器用


 西の街ランドウェスト。勇者生誕の地として有名で、街のどこかに今なお勇者の聖剣が隠されていると一時期話題になったとかならないとか。

 旧世代の街並みや古城など多くの観光資源を保有し旅行客に人気な一方で、古代遺跡やダンジョンなどを目的に、冒険者もよく訪れることがある。



「魔王は西の街郊外の古代遺跡に隠れているらしい。遺跡には密かに結集した悪魔や魔物も潜んでいるそうだ」


 神官は淡々と説明を続ける。話している最中も真顔で、何を考えているのかよくわからない。


「ランドウェストの古代遺跡ですか‥‥。確かに、あの辺りは最近魔物が強くなってきているという報告が何件か届いてますね。そのうち調査依頼を出そうと思っていたのですが、まさか魔王がいたとは」


「四天王が全滅した以上、魔王とて何らかの行動をとらざるを得ないだろう。そこを叩け」


 確かに、本当に魔王がいるのだとしたら、これ以上勢力を拡大する前に討伐したいところだ。しかし、


「でも、そりゃ悪魔が言ったことなんだろ? 信用できるのか?」


 冒険者の一人が疑問を口にする。時間稼ぎや罠として悪魔が嘘の証言をしている可能性もあるのだ。彼の質問に、神官の人も悩ましそうに答える。


「嘘を見抜く魔道具を使ったから、信頼性においては十分…といいたいところだが、実のところ悪魔に対しての効果は不明だ。不安なら偵察でも送った方がいいだろう」


「しかし偵察と言っても、本当に魔王がいる可能性も考えるとそれなりの戦力が必要となりますね…」


「S級を中心に組むとして‥‥念のため、王都の護衛組も残しておいたほうがよさそうだね」


 流石に慣れてきているのか、着々と話が進んでいく。皆さぞ疲れているだろうに、大したもんだ。


「できるだけ早く出発したいところですが‥‥皆さん今日はお疲れでしょう。今夜はしっかり休んで明日出発ということでどうでしょう」


「そうだな。こんな状態で急いでも危険が増すだけだ。休息をとるべきだろうな」


 どうやら話がまとまったようだ。宴会がお預けになって落ち込んでる冒険者も中にはいるが、俺としては早く寝たいと思っていたから丁度良かった。

 さて、明日は早いみたいだし、さっさと宿に戻ろう。そう思い、席を立つ。


「おや、サイさん。もうお戻りですか?」


「おー、明日早いからな。お前らもしっかり休めよ」


「うん、おやすみ~」


 ルゥフとヒートとジェシカに軽く声をかけて、宴会気分が抜けきってない冒険者に気づかれないよう、静かにギルドを立ち去る。ここでつかまったらいつまで付き合わされるかわかったもんじゃない。


 こっそりと扉を開け、外に出る。中の熱気に当てられていた体が、心地よい涼しさを持った夜風が包み込んだ。


 はあ、新鮮な空気が美味い。俺は、いつも借りている宿へ戻ろうと、ゆっくりと歩き出した。

 普段なら夜でもそれなりの活気がある王都だが、今夜ばかりは不気味なほどに静かだ。皆、緊急警報を聞いて室内に閉じこもっているのだろう。

 あの活気を取り戻すためにも、早く魔王を倒さないとな。まあ、俺が倒すわけじゃないんだけど。


 そんなことを考えながら、ぼんやりと歩いていると。ふと背後に妙な気配を感じた気がして、なんとなく後ろを振り向く。


「‥‥‥うおおおいっ!?」


 俺のすぐ後ろに怪しい誰かが──!? 


「…ってなんだ、ジェシカかよ…。びっくりさせんなよ‥‥」


 当たり前のような顔をして、なぜかジェシカが俺の真後ろに立っていた。周りがいつもより静かだというのに、全く気付かなかったな‥‥。足音すら聞こえなかったぞ。

 そんな俺の反応をまじまじと見て、ジェシカは首をかしげる。


「なに?」


「こっちのセリフだよ! ‥‥はあ、まだ何か用か?」


 俺の質問には特に何も答えず、彼女は黙って後ろに回り、俺の後頭部の髪をかき上げる。


「ちょ、何!? 怖い怖い、何ですか!?」


「この前、怪我させたなって思って」


 ジェシカはいつもと同じような口調で話す。

 怪我…? この前…? 後頭部…。あ、もしかして、コイツがギルドに来た時の、壁に叩きつけられたやつか?


「あれならもう、とっくに治してもらったけど…」


「そう。ならよかったわ」


 そう言うと、困惑する俺をよそに、ジェシカは踵を返して歩き始める。彼女はそのまま振り返ることもせず、軽く手を振った。


「それじゃまた明日ね。おやすみ」


「え? お、おう、おやすみ」


 小さくなっていくジェシカの背中を見つめながら、俺は何となく考える。

 あいつ、元々人と接するのが得意なほうじゃなかったが、何か悪化してないか? ずっと高圧的な態度をとってたせいで人付き合いがめっちゃ苦手になってるんじゃあ‥‥?


 …普通に生活送れるようになるには、時間がかかりそうだなぁ…。


 まあいいか、後で考えよう。今はとにかく睡眠をとらなくちゃ。もしかしたら明日、魔王と戦うことになるかもしれないんだからな。


 俺はそう思いふらふらと、静かな道を宿に向かって歩いて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ