61話 もう一仕事
「うおおおおおおおおっ!!」
「英雄様のお帰りだー!」
四天王ソローティアとの戦いを何とか勝ち抜いた俺たちがギルドに入ると、空気が震えるほどの歓声に迎え入れられた。なぜ四天王に勝ったことを知っているのかと一瞬疑問が浮かんだが、おそらく教会に悪魔を届けるところを冒険者の誰かが見ていたのだろう。
俺たちの姿を一目見ようと、入り口に冒険者達が殺到する。皆相当緊張していたのか、その分歓喜に沸いているらしい。
とにかく彼らは一斉に席を立ち、こっちに向かって押し寄せてきた。皆体格がいいだけあって、このままでは押しつぶされそうだ。
と、その時、俺の前に立っていたジェシカが、近づいてきた冒険者を蹴り飛ばした。
「邪魔…。私たち疲れてるんだけど。椅子に座らせないつもり?」
「は、はぁっ! すいませんジェシカさん! 特等席を用意してますんで、こちらにどうぞ!」
ジェシカに蹴り飛ばされた冒険者は頭を下げながら奥のテーブルを指す。卓上にはやたら豪華なご馳走が置かれている。
「よぉ、よくやってくれたな!」
「お前はやる奴だと思ってたぜ!」
怖くてジェシカに近づけない分、余計に俺の周りに集まってきた冒険者達がバシバシと肩や背中を叩く。鍛えられた体でぶっ叩いてくるのはやめてほしい。
俺は人混みをかき分け、何とかして職員のところまでたどり着いた。
「お疲れ様でした、サイさん。報酬は期待しておいてくださいね」
「ええ、どうも。それより、他の悪魔たちの様子はどうなってるんです?」
俺がそう質問すると、職員は歯切れの悪い返答をする。
「そ、それが…実はまだわからなくて…。皆さんにも全ての状況がはっきりするまでは騒がないようにと言っていたのですが…‥。相当不安が溜まっていたようで、それでこの騒ぎで‥‥」
「‥‥そうですか。ありがとうございます」
他の悪魔を狩に行った人たちがどうなったかは不明か…。少し不安だが、今は祈るしかない。しかし場合によってはまたジェシカに出動してもらう必要も出てくるかもしれない。
周りの冒険者達も大分落ち着いてきたようなので、俺はジェシカの隣に座った。
「ジェシカ、悪いけど‥‥」
「はぁ~‥‥。準備しとけってんでしょ? 酒は飲まないようにしとくわよ」
ハイペースで料理を頬張りながら面倒くさそうに答えるジェシカ。疲れてはいるようだが、怪我は粗方治ってるようだし多分大丈夫だろう。
とにかく今は焦っても仕方がない。何か進展があるまで俺も食事でもしておくか。
そう思い、俺が料理に手を伸ばしたその時。
「皆! 大丈夫か!?」
扉が勢いよく開き、外から数人の冒険者達が大慌てで転がり込んできた。彼らの登場にあれだけ騒がしかったギルドが静まり返る。
「ど、どうした‥‥? 何かあったのか!?」
ギルドの空気に気圧され、焦った顔を浮かべる冒険者──レイ。
帰ってきたレイやルゥフらに、近くにいた男が興奮した面持ちで質問する。
「レ、レイ‥‥。北の街の四天王は…?」
「あ、ああ、そいつなら倒したが‥‥。それより、王都にも悪魔が──」
その瞬間。
「「うおおおおおおおおっーー!!」」
緊張していた冒険者達が再び一斉に歓声を上げる。まるでお祭り騒ぎだ。
「待ってくれ! 誰か状況を教えてくれ! どうなってるんだ!?」
レイは熱狂する冒険者を押さえつけながら職員から話を聞く。
「ありがとう。じゃあ戦況が分からないのはソードレットが向かった所だけか…。人手も余裕が出てきたし、様子を確認しに──」
「その必要はありませんよ。四天王でしたら、無事討伐しましたので」
レイの声に被せるように後ろから声がかけられる。見ると、人が密集したせいで開けっ放しになっていた扉の向こうに、ヒートが立っていた。
彼女の姿を見たことで、その場がまた一段と盛り上がる──と思いきや、彼女が引きずっているモノを見て皆騒然とする。
「あ、あの‥‥ヒートさん、それは‥‥?」
「これですか? ご主人様ですよ。生きてますから安心してください。四天王に魂を売って悪魔になったらしいので、焼いて教会に持ってこうと思ったのですが遠くて…。だれか代わりに運んでくれませんか?」
そう言って、ヒートは黒焦げになった悪魔らしきものを投げ捨てた。地面に叩きつけられたそれはわずかに呻き声を上げる。
「そ、その‥‥ソードレット…さん…ですよね? い、一応ギルドの方で預かりますので‥‥」
「そうですか。じゃあお願いします」
ヒートはドン引きする職員にソードレットを任せ、近くにいたルゥフに何やら話しかけ、こちらに歩いてくる。そういえば四天王が来る前に二人だけで話をしてたみたいだが、結構仲良くなっているらしい。
俺は立ち上がり、二人に手を振る。
「二人とも、無事だったか! よかった、心配したよ」
「うん! サイも、四天王と戦ったんだって? 何にもなくてよかった…」
嬉しそうな笑顔を浮かべるルゥフ。が、ジェシカを見て動きが止まる。
「おや? サイさん、その人は?」
ヒートがジェシカを興味深げに見ながら聞いてくる。そういえばジェシカが来た時ヒートはいなかったから知らないのか。
「こいつはジェシカ、俺の幼馴染だ。ジェシカ、ルゥフとヒートだ。ほら、ちゃんと挨拶して」
ジェシカはわずかに顔を上げ、ひらひらと手を振る。そしてまた食事に戻った。
「ほぉ…。幼馴染ですか。ルゥフちゃん、これは手強いですよ?」
「ん!? なな何がっ!?」
二人が何やらこそこそと話していると、本日何度目か、またギルドの扉が勢いよく開く。
だが入ってきたのは、今度は冒険者ではなかった。白い衣に身を包んだ男性。教会の神官だ。
「‥‥教会の方とお見受けしますが。冒険者ギルドになんのご用ですか?」
悪魔になったソードレットを隠しているからか、それとも元々仲が悪いのか、職員がいつもより冷ややかな声で問いかける。
神官は特に気に掛けず、手に持っていた紙に書いてあったことを読み上げた。
「先ほど拘束した悪魔の一匹が魔王の居場所を吐きました。冒険者の方々には、すぐにでも討伐に行ってもらいたい」
その言葉に、浮ついていた空気が、冷や水を浴びせられたかのように静まり返る。
「‥‥それで魔王はどこに?」
「西の街ランドウェスト‥‥。300年前の、勇者生誕の地だ」




