63話 いざ西の街へ
朝。いつにもまして静かな朝だ。
街の建物の隙間から、痛いほどの朝日が差し込んでくる。何もなければ踊りだしたくなるような気持のいい朝だ。
普段なら街が動き始めるこの時間だが、今日に限ってはいっそ神秘的なほどの静けさに満ちている。日の差し込まない部屋に点いた明かりが、かろうじて人々の目覚めを告げていた。
どうやらお偉いさん方は、四天王の討伐をまだ国民に告げていないらしい。魔王がどう動くかわからない以上、下手に安心させるよりもこのまま危機感を持ってもらっていたほうが安全だという判断だそうだ。
「静かだねー」
「そうだな‥‥変な気分だ」
いつの間にかすぐ近くに立っていたルゥフに声をかけられる。
閑散とした街とは対照的に、冒険者ギルドは活気に満ちていた。結局、今日西の街に行かない冒険者の大半は、昨日から徹夜で宴会を続けていたらしい。色々とごたついていたというのに大した神経だ。そのくらい図太くないと冒険者などやってられないということらしい。
「それでは皆さん、転送の準備を始めるので集まってください!」
職員から招集がかかる。今回は捜索を兼ねているのと、色んな街から冒険者が集まっていることもあり、かなり大人数での作戦になるそうだ。A級以上のパーティーはほぼ全て参加している。
戦うタイミングもまだわからないため、四天王の時のような支援魔法もなし。すでに西の街のギルドとの話もついているようだし、あとは転送魔法の準備が終われば即出発だ。
「ではこれから転送しますが、人数が多いので時間がかかります。できるだけ動かないようにしてくださいね」
足元に展開された魔法陣から光と魔力が漏れだす。転送魔法を使うのは初めてだから少し緊張する。
「‥‥準備完了しました。それでは…ご武運を!」
周囲が光に照らされ、景色がぶれる。あまりの眩しさに思わず目を閉じてしまう。
そして、再び目を開けると。
「おお‥‥すげえ…」
周囲を見回すと、見慣れない光景が目に飛び込んでくる。見たことのない街並みに、知らない空気。一瞬の間に、本当に別の場所に移動していた。
どうやらここは街の広場の中央のようで、道行く人々が興味深げに視線を向けてくる。
他の冒険者達も無事転送に成功したらしく、キョロキョロとあたりを見回していた。
「ね、ねぇ、何かおかしくない?」
と、ルゥフが何か違和感に気づいたようで、不安そうに話しかけてくる。
「ん? どうかしたのか?」
「ここって、魔王がいるかもしれないんだよね? なんで皆普通そうにしてるのかな…?」
そう言われて改めて見ると、確かに人影がまばらというわけでもなく、何かに怯えている様子もない。精々俺たちが急に現れたことに少し驚いている程度だろうか。
王都ではほとんどの人が家に閉じこもっているというのに、この街はまるで何事もないかのように普通だった。
「まだ知らないんじゃないですか? 魔王の居場所がわかったのは昨日の夜ですからね」
いつの間にか横に立っていたヒートも話に混ざってくる。
「でもなぁ…全く伝えないってのは流石に危険すぎないか? いつ戦場になるかもわからないのに」
俺たちがそんな話をしていると、周りで見ていた野次馬の一人がこっちに向かって歩いてくる。そして冒険者達を面白そうに見回しながら笑いかけた。
「やぁ、もしかしなくとも王都から来た冒険者共だな?」
整った顔立ちをした、背の高い、体格のいい男だ。格好からしてこの街の冒険者だろうか。
彼の質問に、レイが代表して答える。
「いかにも、俺たちは王都の冒険者だ! 君はこの街の冒険者か? 俺はレイ! よろしくな」
「私はアスター、この街に残った冒険者だ。お前たちをギルドまで案内するよう言われている。ついてくるといい」
アスターと名乗ったその男は、そう言うなり俺たちに背を向け、ギルドへ向かい始める。
冒険者達も互いに目を合わせ頷き合い、アスターについていくことにした。
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「皆さん、よくいらっしゃいました。お待ちしていましたよ」
俺たちがギルドに入ると、職員らしき男が満面の笑みを浮かべて待っていた。冒険者が王都に集まっているせいか、ギルドの中にはあまり冒険者はいないようだ。
「私はこのギルドで受付をしているリックという者です。皆さんは王都から遥々いらっしゃった冒険者の方々ですね?」
「ああ、そうだ。早速話を聞かせてくれ」
「ええ、それでは…。と、その前に皆さん、どうぞ近くの席におかけください」
そう言われ、とりあえず一番近くの椅子に座る。他の皆も次々と座り始めた。元々人が少ないから席には困らなそうだ。
皆が席に着いたころ、リックは再び口を開いた。
「さて、それでは事情を軽く説明しましょう。…といっても、それほど話すこともないのですが」
ごほん、と大きく咳ばらいをし、リックは話を始めた。




