49話 占い
王都周辺に悪魔の気配があると。その一報は冒険者ギルドの緊急警報により、すぐさま王都中に知らせられた。
今回は王都の近くということで、冒険者の招集だけでなく、住人たちの避難誘導も含めた放送だった。
冒険者達は半分は周辺の見張りに充てられ、半分は例のごとくギルドに集められた。住人たちの避難誘導は騎士団がやっている。
俺は元々ギルドにいたのと丁度休憩時間だったため、そのままギルドに残って詳しい話を聞くことにした。
ギルドの中は物々しい空気が漂っている。それも仕方ないことだ。今までは弱い冒険者達は危険な討伐戦に駆り出されることはなかったが、今回は残念ながらそうはいかない。
敵の狙いが王都だとすれば、どこにいても危険なことに変わりはないのだから。
おまけに今はS級パーティー二組が別の街で戦闘中であり、王都に残っているS級パーティーは嫌われ者の『紅蓮の刃』だけ。これで不安になるなという方が無理な話だろう。
そんな中俺たちが待っていると、ギルド職員がこれまた見たことない魔道具らしきものを持ってやってきた。
「皆さん、集まりましたね。では早速ですがこれを見て下さい」
そう言うと、職員は箱の上に水晶玉がのったような魔道具を起動させる。すると、その魔道具の上の空間に布で顔を隠した女性が現れた。
「なんだ…? また転移魔法の魔道具か?」
「いえ、これは映像です。直接話して貰った方がはやいと思いまして」
「映像…?」
話には聞いたことがある。写真や絵の動く奴か。しばらく映像の人物は消えたり点いたりしていたが、次第に安定してくる。
「──あ───あ────あ、あーあー、聞こえますかー? これ、聞こえてます?」
と、遂に映像が安定し、声が聞こえてきた。顔は見えないが、声からして女性だろうか。
「聞こえてますよ。では、冒険者の皆さんに説明をお願いします」
職員は映像に向かって話しかける。どうやら双方で意思疎通がとれるもののようだ。
「はいはい‥‥冒険者の皆さん、御機嫌よう。私のことは占い師さんと呼んでくださいな」
「占い師さんは予見の加護を持っていて、人の居場所や未来が見えるんですよ。今回は彼女に魔王軍の居場所を占ってもらっていたんです」
職員が占い師さんのことを紹介する。そういう加護もあるのか。名前を伏せるのにはどういう意味があるんだろう。まあ危険な力だし正体がバレると狙われるとかだろうか。
「まあ私の力も万能じゃないんでねぇ。力の強い者を見通すには時間がかかるんですよ。それで今ようやく成功したところでさ」
「それで‥‥王都の近くにいる悪魔ってのは? そいつはもしかして──」
「ああ、そりゃ、四天王さ。間違いないよ」
占い師さんが何でもないことのように言い放った言葉に、冒険者達は身を固くする。予想していたとはいえ、いざ本当に来るとなると緊張もするだろう。
「北の街に出現した悪魔と今王都周辺にいる悪魔‥‥残りは一匹ですか‥‥それは今どこに?」
「どこって、だから王都ですよって」
「え? いや、私が聞いているのは王都の近くにいるものとは別の──」
「あー、言い方が悪かったね。王都周辺にいるのは残りの四天王二匹だよ」
「…‥は?」
誰かがかすれた声を出す。冒険者達は、まるで時間が止まったかのように誰一人として動けないでいた。
しかし占い師はお構いなしとばかりに話を続ける。
「今北の街にいる奴は領主に化けて住人を騙したみたいでねぇ、見事半分くらいは悪魔になっちまったよ。まあ討伐隊の連中ならなんとかなるだろうけどねぇ。お前たち、北の街の奴らを見捨てて冒険者を王都に集めたろう? それが吉と出ましたねぇ。あっちにいたのは精々B級、A級が数人いたらいくらアイツらでもきつかったろうさ」
皆がフリーズしている間に、占い師は次々と爆弾発言を続ける。
「は、半分‥‥!?」
「な、冒険者を招集したのは、まさか…!?」
しかしそのおかげというのもおかしな話だが、凍り付いていた冒険者達は次第に正気に戻っていく。
「アイツらも悪魔は生きたまま捕らえようとしてるし、まあ全滅はするまいよ。よかったじゃないか」
「あ、あんたのせいじゃないか!?」
占い師が慰めにもならない慰めを言うと、冒険者の一人が突っかかる。北の街出身なのか、怒りが抑えきれない様子だ。
「あんたがもっとはやく、ノースが襲われる前に占ってれば──」
「ふん、知りませんよ、そんなこと。私は精一杯やってんだからね、誰が悪いって言うなら、そりゃ間に合わないような力を与えた神様ってもんさ」
「なっ‥‥!」
占い師はとんでもなく罰当たりなことを言い放つが、しかし今はそんなことより確認しなければならないことがある。
「それで、王都周辺にいる四天王は具体的にどこにいて、何をしようとしてるんだ?」
俺は占い師に気になっていたことを聞く。
「一匹は王都の南、森の中。もう一匹は王都の北、少し遠くの雑木林の中に隠れてる。多分、しばらくは攻めてこないだろうね」
「攻めてこない? 何でだ?」
「釣りだよ。自分を餌にして冒険者をおびき寄せてんのさ。王都の中は教会も騎士団もいるしいきなり攻撃するには危険ですからねぇ、強い人間を何人か悪魔にしたいんだろうよ」
「‥‥なるほど…」
「それじゃ、伝えることは大体伝えたよ。他に聞きたいことがあったらまた呼んでくださいな」
そう言って、占い師の映像が消え、魔道具が自動で止まった。
「…‥よし、じゃあ作戦を考えよう」
ギルドの中が絶望的な空気に包まれる中、俺は提案した。




