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48話 全身凶器


 翼が空を打ち付け、四天王──イガナは風を斬り高速で飛び回る。羽で空気を、足で地面をける、縦横無尽なその動きは鳥にも獣にも人間にも不可能な、悪魔にしかできない動きだ。

 冒険者としての経験の及ばないその立ち回りに、レイは警戒を深めながらも問いかける。


「住人たちを手っ取り早く悪魔にするために領主のふりして闘技場に閉じ込めたんだろうけど‥‥なんで王都に助けを呼んだんだ?」


 イガナがレイの死角から攻撃をしかける。レイはそれを見ずに躱し、牽制に足で払った。イガナは飛びずさり、距離をとる。


「‥‥あの領主め、思いのほか行動が速かった…! アイツが余計なことをしなければ、今頃この街は悪魔だらけになっていたというのに──!」


 イガナは憤り地団太を踏む。衝撃で地面に亀裂が走り床がめくれ上がった。


「おお‥‥すごい力だ!」


 レイはいよいよ本番とばかりに剣を逆手に持ち替え構えをとる。拳を顔の前にまで持ち上げ、剣士というよりはまるで格闘家のような構えだ。


 そしてレイは姿勢を落とし、地面を蹴りだす。一瞬のうちにイガナの正面に走り込み、剣を持っていない方の腕で正拳突きを放った。

 

 それに対しイガナは避けるでも守るでもなく、相打ちを狙うかのように左手を伸ばす。しかしそれは大した速度で放たれたわけでもなく、一般人ならまだしもレイのような強者にダメージを与えるようなものではない。

 レイはその攻撃を無視し、突き出した拳を──


「──っ!?」


 悪魔の肉体に打ち込む直前、何かを感じとり、慌てて飛び退いた。


「‥‥どうした?」


「いやぁ、なんか危険な感じがしたんでね。そういや、どうやって人間を悪魔にするのか聞いてなかったな」


 それを聞き、イガナはただでさえ不機嫌だった顔をさらに怒りに染める。その顔はもはや赤黒くなっていたが、イガナは深呼吸をし、何とか怒りを鎮める。


「…‥本当に厄介な勘だな。では教えてやろう」


 イガナとレイはお互いに距離をとり、隙を探り合いながら話を続ける。


「四天王はそれぞれ悪魔にする方法が違う。俺の場合は──」


 彼は左手を大きく開き、手のひらをレイに向けるように突き出した。


「この左手で触ることだ。それだけで人間は悪魔になる」


「…‥へえ、そりゃちょっと‥‥何ていうか、面倒だな。ま、左手に触らないだけならなんとかなるか!」


 そう言うなり、レイは弾丸のように走り出した。そして先程の攻撃と全く同じに、正面から突っ込む。しかしイガナは今度は左手ではなく、背中の翼をまるで巨大な手のように広げ、レイを叩き潰そうとするかのように応戦する。


 風を押し出しながら迫る巨大な翼がレイを潰そうとしたその時、レイの両横に淡く光りを帯びる壁が地面から飛びだし、翼を弾いた。

 

「なっ‥‥」


 イガナが驚きの声を上げる中レイはそのまま踏み込み、今度は剣を持った方の手を振り上げ、イガナの体に剣を突き立てる。

 しかし魔法のみを斬るその剣の刃は悪魔の身体には傷をつけることはない。が、それは刃の部分だけの話。剣は何の抵抗もなく悪魔の体に入り込んでいき、そして剣の鍔がイガナの腹を打った。

 

 一撃を食らわし、レイはすぐさま翼を掻い潜りイガナから離れる。そしてすこし距離を開けて首を傾げる。


「‥‥違和感だ」


「‥‥何?」


「‥‥どうにも違和感があるんだよなぁ…‥なんか嘘ついてるなお前? 最初の質問か悪魔化のことかはわからないが──」


「…‥一体何の‥‥」



「──今だ! このっよくも領主様を!」


 何のことだ、と今度はイガナが聞こうとした時、数人の男がイガナに飛びついた。入口を見張っていた、この街の冒険者達だ。彼らは左手に触れないように気をつけながら、数人がかりでイガナの身体を押さえつける。


「レイさん! 今のうちにコイツを──!」


「──!! ダメだ、すぐに離れろ!」


「──えっ? 何…‥う、ぐぅうっ!?」


 レイが警告をするも一歩及ばず、イガナの身体に組み付いていた冒険者達が苦痛に呻き地面に倒れる。そして体が変異し、翼が生え始めた。悪魔化が始まったのだ。左手には触れてないはずなのに──


「──左手だけじゃない…‥翼‥‥いや、もしかして体全体とか? かぁ~せっこい嘘つくよなぁ! …ってかそれちょっとズルくね?」


「チッ‥‥雑魚どもが余計なことを‥‥上手く騙せたかもしれんというのに‥‥」


 イガナが顔をしかめる間にも、悪魔にされた冒険者達はよろよろと起き上がる。その様子を見て、レイは大きく溜息をついた。


「はぁー…‥。…‥まあ、出し惜しみしてる場面じゃないよなぁ。しゃーない! んじゃ本気出すか!」


 そう言ってレイは腰を落とし今までとは違う構えをとる。

 そして彼の身体を眩い光が包み込んだ。


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