47話 四天王再び
「わ、私が悪魔であると‥‥? 一体何を‥‥!」
唐突にレイに疑いをかけられた領主はしばらく言葉を失っていたものの、すぐに気を持ち直し、不満げにレイに発言の真意を聞く。
闘技場に避難していた街の住人も、最初は困惑していたが今は怒り心頭だ。それも仕方ないこと、彼らのために命がけで王都に連絡し、避難誘導をした領主は彼らにとって命の恩人同然であり、最も頼れる存在なのだから。
「いくらレイ殿とはいえ、冗談では許されんぞ‥‥! 何か、確定的な根拠でもあるのだろうな‥‥!?」
顔を真っ赤にして憤る領主に対し、レイは落ち着いて、自信満々に答える。
「ああ! 俺の勘だ!」
あっけらかんとふざけたことを言ってのけたレイに、聞いていた人々は驚きを通り越して呆れてしまう。
「…‥な…!? か、勘‥‥!? そんな不確かなもので‥‥」
それを聞いた領主の怒りも当然のものだ。しかし、レイは手のひらを前に向け、彼の文句を遮った。
「心配しなくても、不確かじゃぁない。俺の勘は外れたことがないからな!」
「ではあなたの勘は今日初めて外れたということだ‥‥! 私はどうあっても人間であり──」
領主はレイを叱りつけようとしたその時、レイが動き、一瞬のうちに移動する。そして、いつの間にか手に持っていた光を放つ剣で、領主の心臓を貫いた。
「…‥‥…え?」
闘技場の中が再び静まり返る。が、次の瞬間には辺りは大騒ぎになった。
「…動けるか」
「え? 」
逃げ惑う者、レイを止めようとするもの、領主を助けようとするもの、それぞれが動き回りその場が大混乱に陥る中、シャドがルゥフの傍により声をかける。
「戦える準備をしておきなさい。お前の力も必要となる」
「え‥‥あ…はい‥‥?」
何が何だかわからないまま、とりあえず構えるルゥフ。レイを止めろということだろうかと思うも、シャドの様子からするとどうもそうではないらしい。
すると、レイがルゥフたちの方を振り返り小さく頷く。そして、領主の身体から剣を抜いた。剣には血がべっとりと付き、領主は糸が切れたように崩れ落ちる──などということはなく。
血の一滴もついてない剣をレイは両手で持ち直し構えをとる。それと同時に、領主の身体がぶれた。
「クソ…! 馬鹿な…!?」
それまでの壮年の男性の身体がまるで霧のように消え、領主と入れ替わるように姿を現したのは、若い男。今までどこに隠していたのか、大きな翼が広がり、鞭のような尻尾が地面を打ち付けた。
「な‥‥あの姿は‥‥!?」
「ひっ‥‥あ、悪魔‥‥!? 本当に領主様が‥‥!?」
「う、うわあぁぁぁぁ! 逃げろおぉぉ!!」
突如として現れた悪魔の姿を見て、ただでさえ混乱していた人々がさらに逃げ惑い、場は阿鼻叫喚の大騒ぎとなっていた。
「匂いが変わった‥‥?」
悪魔が現れたこともそうだが、それよりも自分の嗅覚が通用しなかったことに困惑するルゥフ。悪魔の匂いがしなかったため、領主は人間だとばかり思っていたのだ。
「高度な変装魔法は視覚だけでなく嗅覚や触覚にも影響を及ぼすのだ。嗅覚や聴覚に頼りすぎるな、索敵には感覚だけでなく、魔力も使えるようにしておけ」
「え? い、いや、匂いっていうのはただの例えで──」
まるでルゥフの正体を知っているかのようなアドバイスをしてくるシャドにルゥフは慌てて言い訳をするが、当のシャドは言いたいことは終わったとばかりにパーティーのもとに戻っていき、魔法の準備を始める。
ルゥフは仕方なくシャドを放っておき、悪魔に注視する。完全に変装の魔法が解けた悪魔は、わなわなと怒りに身を震わせていた。
「人間の分際で‥‥何をした‥‥!?」
「これは特殊な剣でね。物は切れないが魔法は斬れる。命の危機になるような攻撃は躱されそうな気がしたからな」
レイは手に持った剣を振り回す。剣は彼の手の中で翻り眩く光を放つ。
それを見た悪魔は顔をしかめ、不機嫌そうに舌打ちをする。
「チッ‥‥時間が足りなかったが‥‥だが半分くらいは変えることができた。お前らなど、それで十分だ‥‥! さあ目覚めよ! 悪魔の血よ!」
悪魔が手を上げ、声高に叫ぶ。すると──
「ぐ、あ、あぁぁあぁ…!?」
「な、なん…ああぁぁぁぁ…‥!!」
悪魔から逃げようと、闘技場の出入り口に殺到していた群衆に変化が生じる。身体が崩れ、変異が始まった。そして翼や尻尾が生え、悪魔へと成っていく。
「シャド! 『影の衣』たちは悪魔になった彼らの相手をしてくれ! できるだけ殺さないように頼む!」
「もうやっている‥‥! はぁっ!!」
シャドたちが魔法を発動すると、悪魔たちの影が生物のように浮かび上がり、影の主に抱き着き動きを封じた。だが、一人一人の強さは大したことが無くても、如何せん数が多いため一筋縄ではいかないようだ。
ルゥフも悪魔の捕獲に手を貸し、シッフや魔法使いたちは悪魔になっていない人間の保護に動く。
四天王の悪魔はそれを憎らし気に横目で見ながら翼をはばたかせ、宙に浮かぶ。
「…貴様、一人で私とやり合うつもりか」
一人剣を構えるレイを見て、悪魔は額に青筋を浮かべながら問うた。
「ああ、頑張ればなんとかなりそうなんでね」
「‥‥それも勘か」
「まあね。そういやアンタさっき今日初めて俺の勘が外れるなんて言ってたけど、結局俺の勘は正しかったな」
「いいや、今日初めて貴様の勘は外れるのだ。‥‥我は魔王軍四天王が一柱、『悲憤』のイガナ…! その名を刻み死ぬがいい‥‥!」
四天王討伐戦、開始。




