46話 悪魔ラッシュ
闘技場の中には悪魔から逃げた人々が寄り集まって震えていた。幸いにも怪我人はほとんどいないようだ。単に重傷者はすでに死に絶え、広場に倒れているだけかもしれないが。
「あ…あなた達は…!?」
「王都からきた冒険者様だ‥‥!」
「よかった、これで助かった!」
冒険者の姿を見て、怯えていた町人たちが喜びの声を上げる。恐怖と不安に染まっていた顔にはわずかながら希望が浮かびはじめているようだった。
そんな彼らの中から、一人の壮年の男性が前にでる。
「よく来てくれた冒険者達…この街を代表して礼を…ん? あなたはもしや‥‥レイ殿か‥‥!?」
「久しぶりだな領主さん! 無事じゃないだろうけど大丈夫か?」
その男性と知り合いらしいレイが声をかける。
「ここにいる人で全員か? 他に逃げ遅れた者は?」
「生きている者は全員だ…他の者たちはもう‥‥」
レイの質問に、領主は表情を曇らせながら答える。広場に捨て置かれていた者たちのことを考えているのだろう。
「魔王軍四天王の悪魔に襲撃されたと聞いたのだが…何があったのか聞かせてもらえるか?」
「奴は‥‥突然現れたのだ。気がついたら街の上空に浮かんでいて…そして私たちの心に直接語り掛けてきた。大人しく投降すれば命は助けると…。当然この街に残った冒険者や若い衆が立ち向かったのだが抵抗もむなしく…‥‥…私はなんとか王都に知らせを飛ばし、人民たちを誘導してこの闘技場に立てこもったのだ」
領主は肩を落としそう語る。その顔には悔恨の念が浮かんでいた。他の町人たちも暗い顔で頷く。
「そうか、大変だったな! 皆が助かったのはアンタのおかげだ! ‥‥それで、今悪魔はどこにいるんだ?」
「…それが…わからんのだ。てっきり外で待ち構えているかと思ったのだが…あなた方を見てどこかに隠れたのか」
街には四天王はおろか、手下の悪魔や、動物すらいなかった。隠れているにしても慎重すぎる気もする。が、レイは自信ありげに一歩前に踏み出した。
「大丈夫、悪魔の居場所については検討がついてるからな。今のは念のため聞いてみただけだ」
「お、おお…! 流石はレイ殿…! それで、悪魔は今どこに?」
「ああ、悪魔は…‥お前だ! 領主!」
いつも以上に大きな声で発音されたその言葉は、闘技場の端まで響き、悪魔討伐隊も含めたその場にいる全員が言葉を失った。
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討伐隊が王都から北の街に行ってから、早一時間が経過していた。
まだ彼らは帰ってきていない。それどころか知らせの一つもないらしい。相当手こずっているのか、それとも何か不測の事態でも起こったか。
見回りはいったん休憩になったので、俺はギルドで休みながら吉報を待っていた。
「サイさん、サイさん」
すると、唐突に背後から声をかけられる。俺が振り向くと、そこにはフードを深く被った少女が立っていた。
何か冒険者になってからフードを被った奴をよく見るな‥‥って、
「‥‥もしかして、ヒートか!?」
「しー!」
驚いて声を上げると、フードの少女──ヒートは慌てて周囲を見ながら、静かにするよう俺にジェスチャーをする。
「ああ、悪い‥‥それより、外に出て大丈夫なのか?」
「う‥‥実を言うと、あんまり大丈夫じゃないです。加護を弱めてもらっていいですか?」
頼まれた通り、ヒートの加護の力を没収する。すると彼女は小さく息を吐き、近くの席に座った。
「…で、何しに来たんだ?」
「いえ、悪魔の被害者として、どうなったのか気になりまして…そろそろ帰ってきている頃かと思ったんですけど…」
なるほど、それで様子を見に来たのか。確かにあの面子なら一時間もあれば帰ってきてもおかしくなさそうだが。
「残念だけどまだ何の知らせもないな。まあ大丈夫じゃないか? S級パーティーが二組もいるんだし‥‥あ、そういえば『光の盾』はレイ一人だけか。他のメンバーは何やってるんだろうな」
「あれ、知らないんです? 『光の盾』はレイさん一人だけですよ」
と、ヒートはそんなことを──
「──へっ? 一人? パーティーなのに?」
「元々はもう二人いたんですけどね、何でもレイさんが最終的には一人で何でもできちゃうんで申し訳なくなってやめちゃったんですって」
「なんだそりゃ‥‥」
「彼はああ見えて寂しがり屋なので今でもパーティーを集ってるんですけど、皆どうしても敬遠しちゃって…」
まあ田舎暮らしの俺ですら聞くくらい有名だからなあ。最強の冒険者のパーティーとなれば、そりゃ気が引けるだろう。
「まだしばらくここにいます? 私も一緒にいていいですか?」
「ああ、さっき休憩始まったばっかだからしばらく‥‥」
「み、皆さん! 皆さん!」
と、ギルド職員が何やら慌てた様子で冒険者達に声をかける。どうやらただ事ではなさそうだ。
「どうした? 討伐隊から連絡があったか?」
「い、いえ、連絡はありましたが討伐隊ではなく、悪魔の捜索をお願いしていた占い師の方たちです。彼らによれば──」
職員はそこで一息つき、そして再び口を開いた。
「──王都近辺に、悪魔の気配があるとのことです!」




