39話 初クエ
早朝。
街が朝日を受けて目覚め始め、冒険者ギルドが今日の営業を始める時間。
まだ冒険者もほとんどいないその時間に、私はギルドの扉を開けた。
「ふぁぁ…‥あれ? お早いですね。…‥ジェシカさん」
受付嬢が欠伸をしながら私の名前を呼んでくる。私は受付の前まで行き、彼女に要件を伝える。
「クエストを受けたいわ。肩慣らしだから、簡単なのがいいんだけど」
「かしこまりました。そういうことでしたら──」
彼女はカウンターの下をごそごそと探り、しわくちゃの紙を引っ張り出した。
「これなどいかがでしょう?」
そう言って彼女が差し出した紙を見る。
『レッドウルフの群れの討伐。討伐した数に応じて追加報酬あり』
と、紙にはそう書かれていた。
レッドウルフ。群れとの戦いは予期せぬ事故が起こる可能性があるため、本来なら複数人で挑むべき魔物だが、私ならば一人でも大丈夫だと判断されたのだろう。
実際、少し前の私なら、こんなクエスト目を瞑っていても達成できた。
でも今は──
「──それでいいわ」
私は職員の手からクエストの用紙を受け取る。もっと簡単なクエストがいい、などとは口が裂けても言えない。私のプライドが許さない。私は「勇者」なのだから。
まあいくら弱っているとはいえレッドウルフ程度ならなんとかなるだろう。
そう思い私は荷物を確認する。
…ないとは思うけど、一応万一に備えてポーションくらいは持ってこうかしら。
回復は魔法で事足りるから、持っていくとしたら魔力ポーションだろう。
私は受付に置いてある、冒険者用の無料で支給されている低級ポーションを数瓶掴み、鞄の中に詰め込んだ。
準備は、できた。多分だけど。それじゃぁ──
「あれ? 見たことない子がいるな。新入りか?」
「馬鹿お前、知らないのか? 噂になってるだろ、勇者の再臨って、ほら辺境村の‥‥」
「え!? あの子が!? すごいな…もっとゴツイ男かと思ってた…」
私がギルドを出ようとすると、丁度扉を開けて入ってきた連中が私を見てこそこそと話を始める。
本人を前に噂話とは失礼な連中だ。まあ、こんな奴らはどうでもいい。
「なあ君、一人か? よかったら俺たちと──」
私は早速、ギルドを出て森に向かうことにした。
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さて。王都の近くの森についたわけだけど──
「レッドウルフって‥‥どこにいるの?」
この広い森の中をどう探せばいいのだろうか。遭遇するまで歩き回らなければいけないの?
まあいいか。朝早くに来たおかげで時間はいくらでもあるし。
鞄の中からギルドから支給された地図を取り出し、目の前に広げる。とりあえずこの地図を頼りに、森の中心に──
‥‥あれ、地図に何か書き込みがしてある。
「大猪の住処、洞窟(魔物なし)、レッド‥‥レッドウルフの縄張り?」
ここに行けば遭遇できるってこと? なんだ、簡単じゃない。
私は早速、そこに向かって歩き出す。
「‥‥‥はぁ…」
茂みをかき分け、森の中をひたすらに歩く。
…それにしても、私の加護はいつ元に戻るのだろうか?
魔王軍とかいう連中が現れたらしいし、いつまでも嘘をつくわけにはいかない。
加護が弱くなっていることに気が付いたのはサイがいなくなって一週間後。村の周りには滅多に魔物は出ないし、普段は鍛錬とかもしないから気が付かなかっただけで、もっと早かったかもしれない。
でもアイツに対して最後に加護を使ったあの時、あの時はまだ何の問題もなかったことは間違いない。
タイミング的にアイツのせいだと思ってたけど、確かに、アイツにそんなことができるとは思えないし、じゃあ原因は別の何か?
何かあったはず、何か──変なものを食べたとか、怪しい奴にあったとか‥‥。
…だめだ、何も思い当たらない。
…と。そろそろ地図に書かれた場所か。
黙って歩いていると余計なことばかり考えてしまう。
さて、縄張りについたはずだけど、やっぱり狼は見当たらない。とりあえず近くの見晴らしのいいところに──
「──」
首筋にピリピリと視線を感じる。その方向に視線を向けると、茂みに隠れて赤い毛皮が見えた。
一つ、また一つと気配が増えていく。どうやら囲まれたらしい。
「‥‥上等よ」
私は感覚を研ぎ澄まし、ゆっくりと剣を引き抜いた。




