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40話 実力


「────」


 大袈裟に剣を振り回し、狼に対して威嚇をする。

 狼たちは茂みに身を隠し、私を警戒しながらじりじりと近づいてくる。


「‥‥」


 互いに隙を窺い、何も起こらないまま時間だけが過ぎていく。


 痺れを切らした私が、魔法でも打ち込もうかと構えると──


「──ガァッ!!」


 背後から二匹が同時に飛びかかってくる。

 振り向きざま、攻撃ついでに他の狼に視線を滑らせる。どうもこちらを警戒し、攻撃しようとする様子はない。 

 様子見している? 飛びかかってきた二匹は斥候といったところか。


 飛びかかってくる方の片方、口を開き噛みつこうとしている狼に右手に持った剣で突きを繰り出す。剣は狼の牙の間に吸い込まれるように入り込み、頭蓋を貫いた。

 

 もう一匹に対し剣を引き抜き迎撃しようとするが、どこかに引っかかったのか咄嗟に引き抜けない。

 仕方なく左手をかざし、魔法を使い炎を発射する。攻撃力はまるで皆無だが、牽制には十分だ。


 驚いた狼は大きく飛びのき、私と距離をとった。


「…‥一匹」


 狼の口蓋から剣を引き抜き、血を振り払う。

 狼達は私を中心に、円を描くように茂みの中を走り回っている。


 ──二匹までなら、何とかなる。三匹は──



 と、そんな私の心を読んだかのように、今度は三匹の狼が一斉に襲い掛かってくる。

 前から二匹、背後から一匹。‥‥このままじゃ捌ききれない。でも──


 深く息を吸い込み。私は、加護を発動する。


 風が、草木が、そして狼が、スロー再生のように遅くなる。それが私の加護の力だ。原理はよくわからないが、自分以外の全てが速度を奪われる。

 減速する時の中を駆け抜け、狼を斬ろうとする──が。


「‥‥っ!…」


 重い。まるで水の中にいるかのように、自由に動き回ることができない。


「こ…のぉ‥‥!」


 見えない何かをかき分けるかのように進み、力任せに剣を振り回す。

 横なぎに振り払われた剣は、前方にいた二匹の狼の頭を斬り飛ばした。


 後一匹。背後から狙いをすます狼の方を振り向き‥‥。


 次の瞬間、加護が解除される。連続して発動し続けられる時間の限界だ。


「しまっ──きゃあ!? 」


 加護により減速していた世界が元に戻り、飛びかかってきた狼が体当たり。衝撃で剣が吹き飛び、狼はそのまま私の上に覆いかぶさる。

 

「う、うわぁっ、ううぅうぅぅぅ‥‥!?」


 肩に爪を食いこませ、私の顔を噛み千切ろうとしているのか、眼前で牙が踊り狂う。


 まずい、まずいまずい──!

 何とか躱しているが、それも長くはもたないだろう。加護を発動したとしても、この状態では何の意味もない。

 

 仕方ない、魔力を温存しておきたかったけど‥‥!


 私は体内の魔力をかき集め、魔法で身体を強化する。

 身体が光に包まれ、肉体が軽く、力強くなるのを感じた。


「──っ!」


 狼の前足を掴み肩から引き離し、そしてそのまま前に押し出すようにして投げ飛ばす。全力で強化したおかげで、それなりの大きさのある狼の身体は軽々と吹き飛んだ。


 そこで再び加護を発動。落ちていた剣を拾い、不自然に宙に浮かび続ける狼に向かって走る。

 さっきよりも身体がはるかに軽い。


 刹那のうちに狼に近づき、首筋に剣を突き立てた。


「よし──!」


 素早く剣を引き抜き、周囲に目を配る。後二匹。

 多少距離があるが、魔法で強化された今なら──!


 地を強く蹴り急接近、そして続けざまに剣を振り、

 ──解除。加護の力が失われ、世界に速度が戻る。そして次の瞬間。


 三匹の狼は同時に血しぶきを上げ、その場に倒れ伏した。



「‥‥はぁっ…‥はぁっ‥‥」


 疲労感がどっと押し寄せ、思わずその場に膝をついた。魔法で無理やり身体を動かしたせいで、全身が悲鳴を上げている。心臓が破裂しそうだ。


 加護が万全だった時は、減速した世界の中、私だけは風のように、それこそ加護を発動していない時よりも速く動き回ることができた。しかし今では魔法で強化して、それでも普段の半分の速度にも及ばない有様だ。

 弱くなってるとは思っていたが、レッドウルフ程度の相手にこんなに手こずるなんて‥‥。


「はぁ‥‥はぁ‥‥。…‥ふぅ」


 ‥‥今は考えるのはよそう。とにかく、私は勝ったのだ。あとは…


「────」


 …と、私が息を整え立ち上がろうとしたとき、森の奥から何かが聞こえた。空耳だろうか、まるでそれは、獣の遠吠えのような──


「──ォー・・・・・・・ン」


「‥‥うそ‥‥」


 気のせいではない。確かに狼の遠吠えが森に響いた。それも、一つではない。


 ──仲間を呼んでる? さっきので全部じゃなかった…!? 

 身体は疲れ果て、魔力も底を尽きようとしている。今来られたらどうなるか──


 ‥‥ドクン、と。

 

 恐怖が。久しく忘れていた、死への恐怖が私を侵食していく。


 まずい、このままじゃ…

 逃げなきゃ、逃げなきゃ、


「逃げなきゃ──!」


 私は混乱しながらも、森を出ようと走り出すのだった。


 

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