37話 元悪魔なあの子
「さて‥‥これで見回りは終わりかな」
今日も街は平和だ。魔王軍の存在が確認されたのが嘘かと思うほど平和だ。
昨日の会議で、魔王軍の捜索に冒険者も協力してもらいます、と職員は言ったが、探知系や予知系の加護を持っている者ならともかく、普通の冒険者にできることは精々王都やその周辺の見回り程度である。
加えて魔王が出現したから魔物が大人しくしてくれるかと言えばそんなこともなく、見回りや捜索ばかりするというわけにもいかない。
そういったわけで、俺たちがやることは今までと特に変わりはなく、ちょっと見回りの仕事が増えた程度のものだった。
しかしそうなるとなぜ冒険者ギルドはわざわざ王都に冒険者を招集したのだろうか。遠征に行っていた者だけならまだしも、他の都市にいる冒険者まで集めたのは解せない。
魔王軍は人間を悪魔に変える力を持っているのだから、むしろ地方都市の守りをこそ固めるべきじゃないのか? 王都の守りなんか元々王都にいた冒険者と騎士団で十分だろうに。
まあ、俺にはわからない何か事情があるのだろう。考えても仕方ないことを考えるのはやめよう。
「さて‥‥これからどうするかな‥‥」
俺の担当分の見回りは終わったからギルドに報告するとして、その後はどうするか。何もしないには時間がありすぎるが、クエストに行くには少し足りない、中途半端な時間だ。
取り合えず俺はギルドまで行き、見回り終了の報告をする。
「あ…! サイ、探してたんだ」
「ルゥフ。なんかあったのか?」
すると、ギルドで俺を待ってたらしいルゥフと遭遇した。クエストの誘いだろうか?
「さっきエイサさんから知らせが来て、これから研究所に行こうと思ってたんだよ。サイも連れてこいって」
そういえば人間に見える方法を教えるとか、合わせたい人がいるとか言ってたな。
しかし昨日の今日でまた行くのか? まあ俺はどうせ暇だから迷惑じゃないならいいんだが。
「わかった。じゃあ行こうか」
まあ今回はエイサから呼ばれたらしいから大丈夫か。
俺はルゥフと共に研究所まで行くことにした。
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「やあやあ、よく来たね。さあ中に入って、くつろいでくれたまえ」
俺はエイサに促されるままいつもの椅子に座り、彼女が淹れたお茶に口をつける。相変わらず美味い。
「さてさて。本日足を運んでもらった理由だが…」
「ルゥフの指導と、会わせたい人がいる、だっけ?」
「その通り。まずはそうだね‥‥。一人ずつ会ってもらいたいから、まずはサイ君がその子と話して貰って、その間ルゥフちゃんは私と授業だ」
「なんで一人ずつなんだ? 二人一緒の方がいいんじゃないか?」
「精神が不安定でね。一度に複数の人間と会うのは危険だ」
ふうん? 正直男一人で会いに行く方が相手からすれば怖いんじゃないかと思うが、そういうもんだろうか。というかルゥフがいるのに危険って‥‥。殺人鬼とかじゃないだろうな。
「ああそれと、君たちのことだから大丈夫だろうが‥‥その子のことは口外厳禁だ。いいね?」
「…‥ああ、わかった」
「ん。だいじょーぶ」
口はまあまあ堅い方だ。ルゥフもまあ大丈夫だろう。しかし口外厳禁の一言で俺の警戒レベルは確実に上がった。怖いです。
「よし…じゃあ二人とも、ついてきて」
そう言ってエイサは部屋の奥にあった扉をくぐり、俺とルゥフも後に続く。
「あ…あれ…?」
そして扉をくぐった瞬間、ルゥフは驚きに目を白黒させる。それもそのはず。
扉の向こうには、無限に続いてるんじゃないかと思うほど長い廊下が暗闇の中に伸びていた。
明らかにおかしい光景だ。研究所の外観に比べてあまりにも広すぎる。魔法でも使っているのかと思ったが、何の魔法をどう使えばこうなるのか、まるで予想がつかない。
廊下の壁には、一定間隔で全く同じ扉とランプがついていた。じっと見ていると目が回りそうだ。
「ここだ」
エイサは無数の扉のうちの一つを指さす。そこに会わせたい子とやらがいるらしい。
「さて、彼女と会う前に彼女について少し説明しておこう。彼女は魔王軍四天王によって悪魔にされた冒険者の少女だ」
「──! それって‥‥」
S級パーティーの女の子か。貴重な戦力だから冒険者ギルドが秘密裏に治療をお願いしたと聞いていたが、そうか、エイサの研究所に預けられてたのか‥‥。
「肉体を人間に戻すことはできたのだが、精神が少し不安定になってしまってね。その上加護に問題が出たらしい」
「‥‥使えなくなったとか?」
悪魔は神の敵だというし、加護の力を没収されたのか。ありえそうな話だが‥‥
「いや、逆だ」
「…逆?」
「‥‥原理は不明だが、どういうわけか加護の力が急増した。強すぎて本人も扱いきれないほどにね。悪魔になって強化されてた状態より、今の彼女の方が強いくらいだ。」
…なるほど。よくわからないが、要は加護が強くなりすぎて暴走してるってわけだ。そこで、俺に彼女の力を鎮めてほしいと。
「オーケー‥‥。なんとかしてみるよ」
「頼んだよ」
エイサとルゥフが俺を見て頷く。
俺は二人に見送られながら、扉を開き、部屋の中に入っていった。




