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36話 光の盾


 広い空間にざわざわとささやき声が響く。


 ギルドには大勢の冒険者が集まっていた。火竜討伐のときよりも明らかに多い。

 どうやら長期遠征に出ていた者や、他地域を中心に活動をしていた冒険者にまで招集をかけたらしい。


 はあ、それにしても暑い。冒険者なだけあって筋骨隆々な人が多いからか、こうもギッシリ集まるとどうにもむさくるしい。


「皆さん、よろしいですか? そろそろ始めたいと思いますが」


 ギルド職員の声が響き、話し声がピタリと止んだ。視線が一斉に職員へと向けられる。


「ありがとうございます。では、これより──」


 職員は手元の資料に目を落とし、大きく息を吸い込み‥‥



「悪い! 遅れた!」


 その時、ギルドの扉が勢いよく開き、室内に声が響き渡った。

 扉の向こうに立っていたのは、背の高い金髪の男。

 

 彼は自信と活力に輝く目で冒険者達をゆっくりと見回す。


「はっはっは、ギリギリセーフみたいだな! よかった!」


 そして快活に笑いだし、ギルドの中央に向かって歩き出す。


「お、おい‥‥! あれって…!」

「まさかS級の…」


 冒険者達の目が彼に釘付けになる。尊敬、羨望、嫉妬、疑惑。様々な視線をまるで気にする様子もなく、彼は堂々と歩き、職員の目の前で足を止め、口を開く。


「『光の盾』リーダー、レイ! ただいま到着した!」


 ‥‥あれが。ギルドの保有する個人としての最大戦力。S級パーティーの中でも最強と謳われる、『光の盾』のレイか。

 初めて見たが、確かに何というかオーラが違う。それに体付きや動きを見れば、俺でさえ只者ではないのが分かる。

 そして何より…


「なんだ、ありゃぁ…」


 彼の身体から溢れ出る、加護の光。悪魔を倒した時のルゥフにも並ぶような、強烈な光を放っている。俺の強化なしでだ。こりゃ強いわけだ。


「…‥ゴホン。レイさん、遅刻ギリギリです。もう少し時間に余裕を持って行動してください」


「はっはっは! いやぁ悪い悪い! ちょっと忙しかったんだ!」


 職員は流石に慣れているようで、溜息をつきながら彼に注意する。そして一息つくと表情を切り替え、「では…」と小さく呟き、改めて息を吸い込み、話を再開する。


「──『魔王軍』についての話し合いを、始めさせていただきます」


 魔王軍。その言葉が出た瞬間、ギルドは再びざわめき声に満たされた。国民たちが必要以上に混乱するのを防ぐために、新たに出現した魔王軍の話はごく一部の人間にしか伝えられていなかったのだ。

 無論俺も口外は禁止されている。


 王都で活動する冒険者の中にも知らない者もいるほどだ。もっとも、報告の都合上、あの日ギルドにいた冒険者には隠し切れなかったが。


「先日アッシュ山で火竜が目撃され、大規模な討伐戦が行われたことは皆さんご存じであると思います。実は同日、火竜討伐の後、魔王軍四天王を名乗る悪魔と討伐隊が遭遇し、交戦。数人の重傷者を出しながらも、見事勝利を収める、ということがありました」


「魔王軍四天王‥‥」

「ヤバいんじゃないか…? 数百年前と同じになったら…」


 不安そうに呟く冒険者達。しかし中には疑問を持つ者もいる。


「本当に魔王軍なのか? そいつが勝手に名乗ってただけじゃないの?」


「その悪魔はS級パーティーである『紅蓮の刃』を単独で壊滅させる力を持ち、エイサという学者によれば、かつて魔王軍四天王のみが使えた魔術を使用した痕跡があるとのこと。数百年前の魔王が復活したか、別の悪魔が魔王を名乗っているのかは不明ですが…かつての魔王と同程度の力を持っている悪魔がいることは事実です」


「そ、そうか…」


 しん──、と、ギルド内が静かになる。魔王とはそれ程の存在らしい。正直俺は名前は聞いたことはあるがよく知らない。


「それで、ギルドとしてはこれからどうするつもりなんだ?」


「魔王とそれに連なる四天王には人間を悪魔にする力があると言われています。放っておけば急速に勢力を伸ばすでしょう。そのため、早期決着が望まれます。‥‥しかし、かつての魔王城はすでに崩れ落ちており、魔王や部下がどこにいるのか、現状どの程度の規模なのかも未だわからず‥‥」


「厄介だな。どうするんだ?」


「他の都市の冒険者や傭兵、占い師たちと協力し、一斉捜索を開始する予定です。皆さんにも協力していただきます」


 大層な名前だから目立つ場所に城でも構えているのかと思いきや、居場所がわからないのか。早期決着を狙いたいというのに、面倒なことになってきたな。

 そんな冒険者達の不安を払うかのように、レイが一歩踏み出し、俺たちの方に振り向く。

 


「占い師たちは優秀だ。彼らと協力すればきっとすぐ見つかるさ! そうなったら本格的に俺たちの出番だ! 皆!俺たちは一人じゃ魔王にはかなわないかもしれないが、力を合わせればかつての勇者以上の強さを発揮できるはずだ! 」


 彼は発破をかけるように声を張り上げる。そんな彼に触発され、冒険者達も不安そうな表情から、少しずついつもの力強い顔つきに戻っていく。

 その様子を見たレイは力強く頷いた。


「よーし! 皆で力を合わせて魔王を倒すぞー!」


「おおーー!!」


 ギルドにやる気の籠った声が響き渡るのだった。

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