29話 覚醒する力
「うおわぁぁぁぁぁ!?」
予想以上の魔法の威力に吹き飛ばされそうになる。火竜に向かって放った氷魔法よりも強力かもしれない。今回は氷に限らず各々が得意な魔法を撃ったということもあるだろうが、それと同時に時間稼ぎが功を奏したな。
正直な話、ラグニアが取引に応じる可能性は低いと思っていた。なんなら取引に応じたふりをして、不意打ちで殺しに来るんじゃないかとか思っていた。
だから俺の本当の狙いは時間稼ぎだ。俺の加護は効果範囲内にいる時間が長くなるほど効果も強まるらしいから。
しかしまあ、俺としては加護を限界まで強化したルゥフをメインとして、他の冒険者達にもサポートしてもらい、ラグニアを倒す、くらいの計画だったんだが、まさか冒険者達が先制で魔法を撃つとは。
おそらく加護が強化されたのを感じて俺の考えを察してくれたのだろう。
「……やってくれるじゃない」
周囲一帯を覆っていた煙が晴れ、ラグニアの姿が見えた。元々あってないようなものだった服がさらに破け、所々血が滲んでいる。
しめた、それなりにダメージを与えられているらしい。
「随分と息ぴったりだったけど‥‥いつの間に相談してたのかしら?」
「ああ、昨日だよ。ここまで全部想定通りだ。──いけるか、ルゥフ」
俺は適当に軽口を叩き、ルゥフを見る。彼女は俺を見て力強く頷く──狼状態だから頷いてるのかどうかよくわからないが、とにかく首を動かすような動作をした。
次の瞬間。
「──!」
ルゥフが極彩色の光に包まれる。冒険者達からの支援魔法だ。
獣人だということを気にしていないのか、それとも命がかかってるから仕方なくなのかは知らないが、とにかく助かる。これでなんとか──!
「あらぁ? あなたは戦わないのかしら?」
「ああ、俺が戦うまでもないぜ。──やっちまえ、ルゥフ!」
「ガアァァッ!」
「──っ! 返り討ちにしてあげる──!」
踏み込みと同時に地面が爆ぜ、二人の姿が消える。
直後、目の前の空間から衝撃が発生し、体がこわばる。
何度も何度も、衝撃が走り、地面が削れ、木がへし折れる。
──やべえ、なにが起こってるのかまるでわからん。何かが凄まじいスピードで動いてるのはわかるがどっちが優勢とか全然わからん…!
とりあえず俺は冒険者達の方まで走って逃げる。彼らもまた、ほとんどの者が見えていないらしく。下手に攻撃するとルゥフに当たりかねないため、動くことができずにいた。
「サイ君! 無事かい!?」
「シッフさん…!? はい、大丈夫です!」
すると、シッフさんが声をかけてくる。
「よかった…! ここにいてはルゥフの邪魔になるから、少し離れようと思っていたんだ」
確かに、少しずつ戦いの範囲が広がってきている。巻き込まれないうちに離れておいた方がいいだろう。
「動ける者達数人に、王都への状況報告ついでに重症のソードレットを運んでもらった。それと魔法が使える者達にはルゥフのが劣勢になった時のために回復と支援の準備をしてもらっている。君は彼らの加護を強化してほしい」
「…! はい! 了解です!」
シッフさんの指示を受け、俺は魔法使いたちを強化しようと、加護を発動する。
すると、俺はここであることに気づいた。
加護を強化するときに感じる、他人との繋がり。糸のようなものとでも言おうか、それが俺から他人へと伸び、それを通して加護の力を伝えるのだ。今までは慣れてなかったからわからなかったが、今ははっきりと感じることができる。
──これを、ルゥフにまで伸ばしたら? 目では状況を追えないが、加護を使えば何が起きてるかわかるんじゃないか?
「…やってみるか…」
冒険者達に向けた糸のうちの一つをルゥフの方に向ける。ゆっくり、ゆっくりと伸びていき、そして──
──だめだこれ、速すぎて無理だわ。
「まあできるとは思ってなかったあぁぁああぁぁぁぁー!?」
身体を何かに引っ張られ思わず転んでしまう。視界が揺らぎ、強風が吹いたような雑音が鼓膜をつんざく。
「な、なんだ…!?」
物凄い速度で引っ張られた感覚があったのだが、周りを見ると別に移動してるわけじゃないらしい。俺が勝手に転んだだけだ。
が、次の瞬間。
「…! 感じる…!」
ルゥフの力を感じる。相変わらず目には見えないが、どこにいるかがなんとなくわかる。高速で戦っているのがわかる。引っ掻いた、殴られた、蹴った、避けた、しゃがんで、殴って、もう一度殴って──
「──!」
見える。ラグニアの顔がはっきりと見えた。口から血を流す彼女の顔に余裕はなく、苦しみに歪んでいる。
爪が風を切りラグニアを狙うが、彼女は攻撃を躱し、反撃の足技をぶち込んでくる。避けられない、体が思うように動かない…!
蹴られた脇腹がひどく痛む。骨が折れたかもしれない。
劣勢だ。力が足りない。奴を倒すだけの力が。もう少し、ほんの少しだけ、力が──
──足りないのなら、持ってくればいい。
後ろから、感じる力。色とりどりの神の光。繋がる糸を紡ぐように。捻じり、より合わせて、注ぎ込む。
その瞬間。全身が燃え上がりそうなほど熱くなり、心臓が破裂しそうなほど暴れ出す。
まるで時間が止まったかのようにラグニアの動きが遅くなり、それに向かって跳躍。
踏み込んだ足が爆発し、腕を振り上げた反動で筋肉が引きちぎれる。
そして──
振り絞られた腕が弓のように射出され、ラグニアの胸を貫いた。




