表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/73

21話 火竜討伐戦


 ──まるで、世界そのものが凍り付いたかのように。

  周囲一帯には霜が降り、動く者は何もない。


 風も、森も、音でさえも、全てが氷の中に閉ざされてしまったのか。


 ──否。白き霧の中に、薄らと、光が‥‥


「今だ! かかれっ!!」


「おおおおおぉぉぉぉぉ!」


「はあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 身を斬るような冷気を振り払い、冒険者達が一斉に霧の中央に突撃する。それと同時に、後ろに控えていた魔法使いが風を操り、霧が晴れる。


「─────────────────ゥゥ‥」


 竜、巨大な竜だ。全身を烈火の如く紅い鱗に覆われ、背中からは大きな翼が生えている。以上に発達した前足は、見ただけで原始的な恐怖を呼び起こす。

 本来ならば灼熱の炎を吐き出すはずの口は、しかし今は力なく閉ざされている。


 作戦は見事に的中し、火竜は明らかに動きが鈍っているようだった。今がチャンス、攻め時だ。


「くらえ──魔法剣!」


「ぬおぉおお…!くたばれぇ!!」


 冒険者達が渾身の攻撃を放ち、動けない火竜を追い詰めていく。が、鱗の硬さには変わりはなく、決定打を与えることができない。


「硬いぞ…! 柔らかい部分を狙え!」


「グゥッ…!オオォ…!」


 まるで氷が解けるかのように少しづつ動き出した火竜は、煩わしそうに腕を振り回す。木がへし折れ、風が吹き荒れる。人間を殺すには十分な威力。

 だが、それも相手がただの人間だったら、の話であり、ここにいるのは精鋭達だ。

 難なく躱し、繰り返し攻撃を仕掛ける。


「いいぞ!いけいけいけ…!」


「シッ──」


 助走をつけてルゥフが火竜に飛びかかり、顔面を思いきり殴りつけた。

 まるで巨大な金属の塊がぶつかり合ったような音が響き、衝撃が鼓膜を揺さぶる。


「────ッ」


 火竜の巨体が揺らぎ、バランスを崩し地に倒れ伏した。


「な、なんという力…!」


「はははは! 俺たちも負けてられないな!」


 倒れる火竜を見て、冒険者たちの士気が上がる。このまま攻め切れば──と、誰もが思ったその時。


「な、なんだ…?」


 空気が変わる。凍てついた空間は少しずつ熱を帯びていき、静まり返っていた森がざわつき始める。風が火竜に向かって吹き、当の火竜は、首をもたげ、息を大きく吸い込み──


「炎が来るぞーっ! 注意しろーっ!」


 ──爆発。

 

 爆風と共に、凄まじい熱量の炎が周囲一帯を灼き尽くす。凍り付き、白に染まっていた世界が、一瞬にして赤一色に塗り替えられた。


「オオォォォォォォォオッ!」


「──!? 速っ──ぐはぁっ!?」


 文字通り火が付いた火竜は全身を使い、周囲を無差別に攻撃する。

 先程とは比べ物にもならない速度と破壊力を伴った攻撃は、まるで木の葉のように冒険者達を吹き飛ばした。


「これ以上はもたない…! 氷魔法、準備はいいか!? 撃てッ!!」


 シッフの指示と共に、再び氷の魔法が一斉に放たれる。

 一度目と全く同じ威力と正確さ、唯一違う点があるとすれば──


「ばかなッ火竜が…!」


「炎で防いだ!?」


 火竜がその魔法を一度経験済み、というところだ。


 火竜はまるで炎を纏うように、自分の周りに火を噴き続ける。それだけで、魔導士たちの渾身の魔法は、あっけなく散らされた。


「くそっ! 火竜もダメージを負っているはずだ! 攻め続けろ!」


「俺が注意を引き付ける‥‥! 火竜よ! こっちだ! 来いッ!」


 一層激しく攻撃する火竜を、ガーディが剣と盾で挑発する。火竜は低く唸り、その剛腕を命知らずな人間へと叩きつけた。


「ぐ…ぬぅ…!」


 矮小な人間など蟻のように潰すかと思われたその竜の前足を、しかし彼は正面から受け止める。衝撃で足が地面にめり込むが、それでも彼を崩すことはできないでいた。


 火竜が驚きに身を固めていると、ルゥフが刹那のうちに前足を駆けあがる。


「っせいっ!!」


 そして、火竜の顎を思いきり蹴り上げた。

 再び森が衝撃に震える──が、今度は火竜は倒れない。

 それどころか、中空で身動きのとれないルゥフをギッと睨みつけ──


「っぶ──!?」


 ハンマーのように首を振り回し、ルゥフを打ち落とす。避けることもできずもろに攻撃を喰らったルゥフは、木々をなぎ倒しながら森の奥へと吹き飛んでいった。



──────────────────────────────────


 怒声と共に戦闘音が聞こえてくる。

 刻一刻と大きくなるそれは、戦がいかに厳しいものであるかを五感を通して叩き込んでくる。しまいには音と一緒に煙や木片まで飛んでくる。


 木が邪魔でよくは見えないが、何となく戦況はわかる。


「劣勢だな…」


 二回目の氷魔法が効かなかったのが痛い。そのせいで火竜の動きが激しくなってる。

 このままだと長期戦になりそうだが、体力的にも魔力てきにもそれは厳しいだろうな。それに、長引きすぎると俺の加護の効果が切れる。


 かといって、俺が近づきすぎれば、むしろ足手纏だ。直接戦闘に向いてない自分の加護が今は悔しい。


 近くで噴煙が上がり、吹き飛ばされていたルゥフが戦線に復帰するのが見えた。少し血が出ているがまだ大丈夫そうだ。

 同じく吹き飛ばされていた他の冒険者達も復活し、魔力が回復した魔法使いたちも再び攻撃を始めたようだ。


 だが、火竜も依然として暴れ回っている。ジリ貧だ。


 はあ、こうなっちゃ仕方ないか。


「できればこの手は使いたくなかったんだけど…」


 俺は、奥の手を使うことにした。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ