20話 氷点下のゴング
「よし、いいか皆。我々はこれより火竜討伐の大仕事に取り掛かる! 王都の大勢の人たちの安全が我らの肩にかかっている! 失敗は許されない! 皆覚悟はいいか!?」
「オオオォォォォォォォ!」
冒険者達の気合の入った叫び声が朝の山にこだまする。
場所はアッシュ山の近く、比較的開けた平坦な場所だ。だが、木々が生い茂っているため隠れるには絶好の場所でもある。
火竜討伐。いよいよだ。今回の討伐隊のリーダーを任されたシッフさんが、皆に作戦の最終確認をしている。心なしかいつもと口調が違う。気合が入っているのか、緊張しているのか、その両方か。
討伐隊の隊員を見てみると、シッフさんのパーティーのガーディーさんやマホさんをはじめ、話したことのある人が結構いる。あまり緊張せずに済みそうだ。
俺の出番は最初だけだ。戦闘能力のない俺が竜の近くにいても足手纏いにしかならないからな。
「──よし、説明は以上だ。じゃあ早速準備に取り掛かる。サイ君!」
おっと、早速出番だ。言っておくが唯一の出番ってのは雑用じゃないぞ。
「準備できてます」
「よし、じゃあ段取り通りに頼む」
俺は頷き、冒険者達の方を向き、手をかざすように前に突き出した。
そして思い出す。
昨日の夜。俺はエイサの研究所に行き彼女と話をしたのだ。時間が時間だったから迷惑かと思ったが、快く歓迎し、話を聞いてくれた。
そんな彼女のアドバイスを──
俺は、かざした手に力を籠める。
──加護は大抵自分でオンオフを切り替えられるものだ。常時発動しているタイプの加護もあるが、自分の意志で出力を調整できる。君の加護もそうである可能性は高い。
目を瞑る。聴覚が研ぎ澄まされ、風の音が聞こえてくる。
──心臓の鼓動を確かめるように、自分の中に目を向けるんだ。集中して、小さな光を探せ。
心音が聞こえる。そして、心臓の奥に、何かを感じる。
──光を見つけたら、引っ張り出せ。心臓から血管を伝い全身へ、全身から──
外へ、外へ、押し出すように。力が、空を伝わり、皆に向かって伸びていくのを感じる。
あとはそれを、全力で押し出せば──
「──!? なんだこれ!?」
「す、すごい…! 力が漲って…!」
「は、はは…!これならどんな奴にも負けないぜ…!」
…ほぅ…。なんとか成功したようだ。
普段無差別的に周りに放出している加護の力を、冒険者達のみに集中させたのだ。しかもいつもと違い意識的に力を込めたため、かなり強化されているはず。
そのせいでかなり疲労感がある。加護を使うと疲れるのか。初めて知った。
「俺ができるのはここまでです。多分俺が近くにいなくても半日くらいは効果が持続します。皆さん頑張って下さい!」
「ああ、ありがとう。この力と皆の力を合わせれば、火竜にもきっと勝てる! さあ、作戦開始だ! 皆、行こう!!」
「おおおおおおーーーーー!!」
さて、いよいよ開始だ。皆が配置につく中、俺もその場を離れようとすると、ルゥフと目が合った。半袖の上に、俺の服を羽織っている。昨日の夜、彼女から提案されたことだ。よくわからないが、暴走を止められるかも、とのことだった。
俺が頷くと、彼女もまた気合の入った顔で頷き返してくる。この分なら大丈夫そうだ。
「狼煙準備できました!」
「よし! 皆! 準備はいいか!」
「大丈夫!」
「いつでもオーケーだ!」
「よし…!じゃあ行くぞ…! 狼煙を上げろー!」
合図と共に、紫色の狼煙が上がる。風に混じり、周囲に硫黄のような匂いが充満する。
しばしの静寂。冒険者達は固唾をのんで待ち続ける。そして──
空を覆いつくす影。上空から爆風が吹き、周囲の木々がまるで平伏するかのように倒される。
「グルルルォオォォオロロロロオォオオ……!」
まるで地獄のそこから響いてくるかのような音が周囲を揺るがす。
ある時は災厄と畏れられ、またある時は神と崇められ。
古よりその姿を伝えし炎の竜は、悠々と地面に降り立った。
──次の瞬間。
「撃てェェェェェェー!!!」
「──グ、ガァアァァァァッ!?」
号令と共に、氷結の魔力が一斉に火竜目掛けて襲い掛かる。
──火竜討伐戦、開始。




