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閲覧ありがとうございます。

この話で完結になります。白雪姫はざまあします。

よろしくお願いします。



 白雪姫は最悪の気分で目を覚ましました。白雪姫が借りたベッドの横には小さな窓があったのですが、朝からその窓辺で小鳥たちが激しく騒いでいたのです。白雪姫は小鳥たちに向かって勢いよく窓を開けました。突然のことに反応が遅れた小鳥は、勢いよく開かれた窓に当たり地面へと落ちて行きました。白雪姫はその小鳥を見て、いい気味だと笑いました。


 何せ白雪姫は昨日から不満ばかり感じていました。昨日の夕食も子供たちから散々文句を言われたのです。味見をした時は普通だったのですが、夕食に出したものはまずくなっていたのです。自信作だったアップルパイも不味くて食べられたものではありませんでした。



「ああ、もう嫌。どうして私がこんな目に合わなければいけないの?妃に姫殺しの罪をきせるつもりだったけれど、私の扱いが酷すぎるわ。私は姫なのに、料理に畑仕事なんてしたくないわ。むしろ姫である私をお世話するべきよ。」



 白雪姫は着替えると朝食の準備に下へと降りて行きました。そこには約束通り狩人が白雪姫を迎えに来ていました。そして狩人の隣には白雪姫の知らない騎士が立っていました。



「おはようございます。よく眠れたでしょうか?」

「昨夜はドキドキしてなかなか寝付けませんでした。そちらの方は?」

「彼は隣国の王子さまに仕える騎士の一人です。姫さまのことをお伝えしたところ彼の主が是非、自分の妃にと望まれました。」

「お初にお目にかかります。私は末の王子に仕える騎士にございます。私の他に姫さまの護衛として外で待機しております。本国に向かう道中では我々が姫さまの護衛を務めさせていただきます。」

「まあ、それはとても心強いです。どうぞよろしくお願いいたします。」

「精鋭揃いですのでご安心ください。私は出立の確認をしてきます。姫さまも直ぐに出立できるようご準備下さい。」



 騎士と狩人は旅の準備のために家の外へと出て行きました。準備の必要ない白雪姫は朝食を食べようと野菜の保管場所へ行きました。しかし、昨日は確かにあった野菜や果物が全部なくなっていたのです。よく見ると子供たちの靴や道具が無くなっていたので、出かけてしまったようでした。白雪姫は自分の分を残してくれなかった子供たちに腹を立てました。朝から泥だらけになるのかと思うと憂鬱になりましたが、お腹が空いてはどうしようもありません。


 白雪姫は渋々畑へと足を運びました。どの野菜を収穫しようかと眺めていると向こうから見慣れないローブを着た老婆が来るのが見えました。その手にはとても大きな籠を持っていました。こんな森の奥に人が来るなんてと白雪姫は警戒しました。けれども老婆はにこやかに白雪姫に話しかけてきました。



「おやおや、随分可愛いお嬢さんだねぇ。ここの奴らはいつの間にこんな可愛らしい嫁を迎えたんだい?」

「いえ、私は数日こちらに滞在しただけです。子供たちでしたらもう、出かけたようですが?」

「そうなのかい?困ったねえ。前々から頼まれていた珍しいりんごが手に入ったから持って来たのさ。けれどこのりんごは鮮度が命でねえ。今日の夕方には酸っぱくなっちまう。」

「そうなんですか?艶やかな赤色でとっても美味しそうですのに。」

「そうだ、お嬢さん一ついかがかね?持って帰っても私だけじゃ食べきれない。」

「いいのですか?では、お言葉に甘えてその一番赤いりんごを下さい。」



 お腹が空いていた白雪姫は老婆の言葉に喜びました。そして老婆が見せた籠の中にはたくさんの真っ赤なりんごが入っていました。白雪姫はそのりんごの中でも最も赤い、鮮血のような色のりんごを老婆にもらいました。そのりんごがあまりに美味しそうだったので白雪姫はそのままりんごにかじりつきました。



「まあっ!本当にとっても甘くておいしいです。」



 嬉しそうに白雪姫は老婆に感想を述べると、またりんごをかじりました。そして、白雪姫がもう一口かじろうとしましたがそのままばたりと倒れてしまったのです。白雪姫が美味しそうにりんごをかじるのを見ていた老婆は、慌てた様子もなく倒れた白雪姫をのぞき込みました。そして、意識を失った白雪姫の顔や体に触れると、いつの間にか後ろにいた狩人に報告しました。



「呼吸異常なし。意識なし。反応なし。薬の効果は正常です。」

「持続時間は?」

「明日の正午には目が覚めるでしょう。」

「だそうです。」

「狩人殿、そちらの老婆は一体・・・」



 老婆は着ていたローブを脱ぎました。そこには老婆ではなく若い娘の姿がありました。娘は驚く騎士に一礼しました。しかし、その所作はその辺にいる町娘がするようなものではありませんでした。



「初めまして。私はこの国のお妃さまに仕える侍女の一人でございます。そして、そこにいる狩人の妹でもあります。王太子さまより姫さまを()()に隣国へ嫁がせるようにと命を受けて参りました。」

「おそらく誰の元に嫁がされるか知れば姫さまは、絶対に了承しなかったでしょう。」

「姫さまは主を嫌っておられると言うのですか?」

「ええ。姫さまは自分の言うことを聞いてくれる顔の良い男を何人も侍らせたいようで、貴方の主のように自分だけを見て欲しいと縛る相手は嫌なようです。」

「姫さまは不貞を働くのが普通だと考えておられるで?」

「いえ。自分はたくさんの男から愛されるのは当然で、誰か一人のものになるのは他の男が可哀想だとか。ですので、自分に甘い言葉をかけた男が妻と一緒に居るのは不貞だと責めたことがあります。おそらく姫さまは自分の行動が不貞に当たると思っておられないのでしょう。」

「頭が痛くなってきました。いくら美しくともそんな姫さまでは困ります。わが主は何を思って姫さまを妃に迎えるつもりなのでしょうか。」

「幼い頃に容姿を他国の王子たちにからかわれたところを姫さまが助けたのをきっかけに、思いを寄せるようになったと聞いております。」

「主が最後にパーティに出たのはずいぶん幼い頃です。そのころから思っておられるとは。」



 騎士は隣国の王子さまの思いに感動して瞳を潤ませました。けれども狩人と侍女は大きく溜息を吐きました。白雪姫が嫁ぐ隣国の人はよく言えば、他人の良い所に気が付く一途な性格、悪く言えば思い込みが激しく、執着心が強いのです。


 隣国の王子さまは生まれて間もなく流行り病にかかり、命は助かったものの顔に大きな吹き出物の跡が残ってしまったのです。隣国の王子さまは幼い他国の王族の格好の標的になっていました。白雪姫が隣国の王子を助けたと言うのも勘違いで、目当ての王子が隣国の王子に構うのにしびれを切らせた結果だったのです。そんなことを知らない隣国の王子さまは何度も白雪姫に結婚を申し込みました。


 しかし、白雪姫は自分と王子さまでは釣り合わないからと断っていました。白雪姫にとって醜い王子に美しい自分はもったいないと言う意味だったのですが、隣国の王子は白雪姫の国より立派な国の王子さまと結婚するのは気後れしているのだと思っていたのです。


 なので、王太子さまより白雪姫と結婚してくれないかと打診されて大喜びで返事をしたのです。そして、妹は未だに気後れしているので決心が鈍るかもしれない。だから妹は貴方から()()()()()()()()()()()()()()と望んだ。その結果、貴方に迷惑をかけてしまうだろうが許して欲しい。と王太子さまは隣国の王子さまに伝えていたのです。


 狩人と騎士は意識のない白雪姫を馬車に乗せました。狩人と侍女は騎士に守られて旅立っていく白雪姫が乗った馬車を見送りました。二人の脳裏には、明日の正午に目が覚めた白雪姫は怒り、隣国の王子さまに酷い言葉で罵る様子が目に浮かびました。けれども、思い込みの激しい隣国の王子さまは王太子さまの言葉を信じ、白雪姫が恥ずかしがっているのだろうと勘違いするに違いないと頷きあいました。











 狩人と侍女が城に戻るとすでに王さまは退位した後でした。宰相や大臣たちが慌ただしく城の中を駆けずり回っています。走り回る人の間を縫いながら、二人は王の執務室に居る王太子さまの所へ向かいました。



「ただいま戻りました。」

「ああ、ご苦労だった。妹はあのりんごを食べたか?」

「二口ほど。七人に協力してもらい、姫さまの朝食分を残さなかったので喜んで食べて下さいました。」

「そうか。ではきっと明日目覚めた頃に妹が望んだとおり、手足が痺れて動かないだろう。隣国の王子には妹を生涯介護しなければならないが、愛しているのだからきっと大切にしてくれるだろう。」

「そうですね。それよりも、王さまはどうしたのですか?」

「退位してもらった。自白剤の効果のある毒りんごを食べさせてすべて吐かせた。母の話から父は真面目で誠実な人物だと聞いていたからな。予想通り、実の父ではなかった。」

「では、王さまは誰だったのですか?」

「父の弟だそうだ。母に惚れていた王は父を殺して成り代わったが、母に見破られて結局口封じに母も殺したらしい。その後、母によく似た女を妃として密かに娶り、妹を産ませたらしい。しかし、妃となった女は誰からも愛されるのは当然で、その愛を受け止めるのが自分の役目だという先入観を持っていた。その女も表向きは病死となっていたが、実際は不貞を働いたとして王に秘密裏に殺されていた。」



 恐ろしい真実に侍女の顔は青ざめ、狩人も痛ましそうに目を伏せました。王太子さまも自分の両親が殺されていたと知り、悲しみはありました。けれども泣いてはいられないと王太子さまはこれからのことを考えました。



「お妃さまは母の遠縁にあたるらしい。父親である辺境伯に確認した。母の面影があったお妃さまを娶るために、七人の兄たちを子供にする呪いをかけて脅したことも白状した。今は七人とも元の姿に戻っているはずだ。」

「姫さまが子供たちに辛く当たられたと言っていましたが、そう言うことですか。父親とその娘に妹をいじめられれば風当たり強くなりますよね。」

「それもあるだろうが、辺境伯の領地に生える植物は全て人の心を反映させるそうだ。触れた人間の心が醜ければ野菜の味も不味くなるらしい。それを利用して、あの領主は王家に薬として献上している。妹や王に食べさせた毒りんごもその一例だ。」

「姫さまはお妃さまを陥れるほど根性がねじ曲がっていましたから、それはそれはまずい野菜が取れたことでしょうね。」



 お妃さまの兄たちのことを思えば、王太子さまは少し不憫に思いました。子供の姿にされて、それが元で可愛がっていた妹を奪われたのです。更に妹を奪った男の娘が妹を貶め、妹のせいで殺されそうだからかくまって欲しいと頼まれたらそれはそれは嫌だったに違いありません。おまけに白雪姫の心が醜いせいで不味い料理を食べさせられたのです。



「お妃さまの兄たちには後で謝罪を。準備をしておいてくれ。それからお妃さまはどうしている?」

「おそらくお部屋にいらっしゃるかと思います。」

「そうか、私はお妃さまの所へ行く。お前達も良き返事をもらえるよう願っていてくれ。」



 王太子さまはお妃さまに求婚の返事をもらうために部屋を出て行きました。王太子さまの足取りは重く、表情は沈んでいました。王のしたことは許されることではありません。実の父親ではありませんが、王は王太子さまの血縁であることは変わりません。それでも王太子さまはお妃さまを諦めきれませんでした。











 お妃さまは侍女の一人から王さまのことを聞きました。自分の兄は子供になる呪いで済みましたが、王太子さまの両親が亡くなっていたことに心を痛めました。そしてお妃さまはテーブルの上に置かれた黄色いりんごを見ました。


 王太子さまとの約束を果たすためにお妃さまは、呪いの解けた兄たちに一つの毒りんごをとって来て欲しいと頼んだのです。この黄色い毒りんごは幼い頃にお妃さまが育てていたりんごの木に実ったりんごでした。あまり知られていないことですが、毒りんごの木だけは誰がその実に触れても味も毒性も変わらないのです。


 そして、お妃さまがその黄色い毒りんごを手にしようとした時、部屋のドアがノックされました。お妃さまが返事をするとドアは静かに開かれ、王太子さまが入って来ました。



「お妃さま。王のことは侍女から聞きましたか?」

「はい。王太子さまもお辛かったでしょう。」

「ですが、民のことを思うと泣いてはいられません。民を安心させるためにも私は一日も早く王にならねばなりません。その時、私の隣に貴女に居て欲しいと思うのは変わりません。ですが、私が王の血縁であることは変わりません。貴女が私を拒む理由も十分だと思っています。それでも私は貴女を愛しているのです。」



 お妃さまは王太子さまに答えを返せませんでした。もしも王の妃でなかったのならお妃さまは喜んで王太子さまに返事をしたはずなのです。王のそれも罪を犯して王に成り代わった男の妻であったお妃さまが貴族たちの標的になるのは目に見えています。まして、白雪姫の嘘でお妃さまの評判は地を這っているのです。


 お妃さまは黄色い毒りんごと王太子さまを交互に見ました。そして、黄色い毒りんごを手に持つと思いっきってかじりました。一口かじっただけでお妃さまの肌は乾燥してひび割れた地面のようになりました。王太子さまは驚き、お妃さまを止めようとしました。けれどもお妃さまは黄色い毒りんごを食べ続けました。


 黄色い毒りんごを食べ終わったお妃さまの姿は、別人のように変わっていました。白かった肌は土色になり、ひび割れたようになっています。髪も美しい黒髪でしたが、色が抜け落ち全体的に白く斑に灰色が混じっています。体も背骨が曲がり、骨が浮き出たような手足からまるで老婆のように見えました。そして、驚きに固まる王太子さまに変わり果てたお妃さまは、しゃがれた声で言いました。



「王太子さま、こんな姿になった私でも愛してくださいますか?」

「貴女は本当にお妃さまなのですか?もしそうだとしたらどうしてそのような姿に?」

「私が食べたあの毒りんごは醜い姿に変える効果があるのです。毒の効果は私が死ぬまで続くでしょう。」

「美しい貴女をもう見れないのは残念です。でも、それはそれで好都合です。」



 王太子さまはにっこりと笑うとお妃さまの唇に口付けたのです。驚いたお妃さまが口を押えて顔をあげた時には、以前の美しいお妃さまの姿に戻っていました。王太子さまは少し残念そうに微笑みながら今度はお妃さまの頬に口付けました。



「どうしてですか?」

「確かに貴女の姿は美しいです。もちろん、貴女の美しい姿も愛しています。ですが、私は美しい姿よりも美しい貴女の心を愛しているのです。あの姿の貴女であれば、私だけのものにできたので少し残念です。」

「解毒方法をご存じではなかったのですか?」

「全く知りませんでした。口付けが解毒方法だとは思いませんでした。」

「いえ、正確には『心から愛する者の口付け』が必要なのです。白雪姫の毒りんごは種類が違いますので、『愛する人に真心込めて尽くす』ことが必要です。」

「それは、難しいですね。それにしても、なぜこんなことをしたのですか?」

「賭けをしておりました。もし、醜い姿の私を見ても口付けてくださったら王太子さまに生涯を捧げようと決めておりました。」

「それでは、私は貴女との賭けに勝ったわけですね。私は貴女を愛しています。この先、辛い思いをさせることもあるかと思いますが、貴女と二人なら乗り越えられると思います。どうか、私の妃になって下さい。」

「私も貴方を愛しています。どうか、末永くよろしくお願いいたします。」



 王太子さまはお妃さまの前に跪いて手を差し伸べました。お妃さまは胸がいっぱいになってしまい、泣きながら王太子さまの手を取りました。それから二人は寄り添うように椅子に座り、今までのことやこれからのことをたくさん話しました。











 王太子さまが戴冠式を終えて、王さまになってすぐにお妃さまは新しい王さまのお妃さまになりました。新しい王さまは民の意見をよく聞き、よりよい国を目指しました。その王さまの隣には心優しいお妃さまがいて、王さまを支えていました。二人は国をよりよく導き、末永く仲良く暮らしたそうです。






閲覧ありがとうございました。

間に合わないと泣きながら書き上げたので誤字脱字あるかもしれません。

本当はお妃さまが家出するはずだったんですけど、白雪姫が家出してしまいました。

更に王太子も出る予定じゃなかったんですけど気が付いたらお妃さまをかっさらっていました。


こんな話ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


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