冒険の始まり
さて、ここで零の都へ向かった話を続けたかったのだが、サクハからどうして気の合わなさそうな二人と組んだのかと横槍を入れられたため、ついでにその辺の話を先にすることとした。
話は俺が転生した時にまで遡る。
最後の冒険より十年前、俺がまだ二十歳だったの頃の話だ――。
転生後、国の自立支援機関で言語と世界情勢を学んだ俺は、冒険者となるべくギルドの扉を叩いていた。
あの頃はまだ転生者の目立った活躍や悪影響も無かったため、スキル判定は行われていない。
死因がヒントになるということは予め共通認識として植え付けられていたのだが支援者曰く、後は勝手に自分で調べろとのことだ。
加えて、死因が不明なお前は冒険者になって危険な目に遭えば判るだろとの有難いアドバイスを頂けたので、不本意ながらも冒険者を選択するしかなかった。
俺が訪ねたギルドは初心者よろしくの南ギルド。
今のフレッジが管理しているギルドとは位置や外観も同じだが、魔族との大規模な戦いが始まる前であり人口も多く活気に満ち溢れていた。
それはギルドに限らず他の職も同様で、転生者が入り込む余地は無い買い手市場。
転生しても就職氷河期を生きなければならないかと当時は落胆したね。
そこで救済措置として出てくるのが冒険者という職で、平たく言えば何でも屋の派遣職。買い手市場と言え案件が無くなることは無かった。
当然ながら優良案件は取り合いで、駆け出し冒険者に仕事を選ぶ余地は無い。
遠方の素材採取から屋敷の掃除などの雑用まで、余っているのは経験やランクが上がりそうにないものばかりであった。
駆け出し冒険者にとって、ソロ活動とは地獄そのものである。
実力と信用を備えた者でなければ、まず高額案件を受注することは出来ない。
無理を通そうとしても、フレッジより厳つく愛嬌も無い弁慶の如く立ち塞がるマスターに突っぱねられるだけだ。
尊大な態度をとるマスターから雑用以外の承認を得るには、ランクを上げるかそれなりの条件をこちらが用意するしかない。
その条件がパーティの結成。
人数が多ければ取り分が減るものの成功率が上がり、高ランクの仲間が居れば受注できる案件の幅が広がる。
と言っても、スキル不明の俺が高ランク者の人数合わせに入ることは出来ず、自分から誘うこともできなかった。
俺の他に待合席で座っている勧誘待ちの転生者も見受けられたのだが、みな死んだような目をしており、とても声をかけられる気にはならなかった。
俺も彼らのように死んだ目をしているのだろうか。
待合席の椅子に腰かけ、ただギルドに出入る冒険者たちを羨まし気に見つめていた。
やはりここは行動を起こすべきだろうと、腰を上げそうになるも動かない。
誰に? 声をかけてもいいのか? あれは別の仲間を待っているのではないか?
などと余計な心配が邪魔をして俺の脳は行動を阻害した。
仕方がない。今日はとりあえず雑用で生活費を稼ぐか――と、動いてしまえば負の連鎖の始まりだ。
大した経験を得られず日銭を稼ぐのに精一杯。
Dランクのまま一生を終えることになるだろう。
それだけは嫌だ。
あーだこーだ考えながら視線を無駄に動かしていると、背後から届いた男の声に肩を震わせる。
「仲間探しとるんか? 転生者やろ? 俺と組まへんか?」
振り向くと、自信満々な瞳で俺を見ている眼鏡男が立っていた。
金髪だが、毛元に黒色が顔を出しているから転生したての日本人だろう。
瞳の色も俺と変わらない。
台詞からは俺の挙動不審な行動が見破られてしまったと認識でき、途端に恥ずかしくなり震え声で返事をしてしまう。
「あ、ああ。でも俺……スキルが何か分からないんだが、いいのか?」
「ええで。俺は『雷耐性』やからな。どこも使こうてもらえんかったわ」
「雷……? 落雷で?」
「せや、雷雨の中チャリ漕いどったら死んでもうたわ」
この男は他人事の様に笑いながらそう話し、俺の前へ座った。
自分の死を笑って話せるメンタルは正直羨ましい。
即死なため転生直後は俺と同じく死を受け入れがたかったそうだが、実際に雷の魔術で試してもらったらしく、スキルについては完全に確定しているとのこと。
「強力なスキルじゃないか。引く手数多だと思うが……」
「ところがどっこい、この世界には電化製品なんてあらへんし、電気を使う魔物も少のうて雷が鳴り続ける危険地域もなし。仕舞いには魔導具とやらで疑似的な耐性を作れるらしいんや」
「それは……お気の毒に……」
所謂ハズレスキルと呼ばれるものだろう。
雷に打たれて得られるスキルなんだからさぞかし希少と思わせられるが、魔導具という人類の英知と進化のインフレに呑まれてしまったようだ。
「結局ソロで雑用やってたんやけど、食費稼ぐだけで手一杯で武器すら買えへん。このままやと一生Dランクから抜け出せんのや」
俺と同じこと考えていたようだが、実際に試してしまったらしい。
更に補助金も使い込んでしまったと嘆き、こうして自らパーティを募るようになったのだ。
俺は彼の誘いを承諾した。
断る理由は無いし、寧ろ嬉しかった。
スキルなんて関係ない。同じ境遇の話し相手がいる。
それだけで心に巣食んだ不安が取り除かれたような気分になっていた。
「んじゃ、改めて……俺はカズトや、気軽に呼んでくれてええで」
「シュウゴだ、よろしく」
差し出された手を受け入れ握手を組み交す。
後で聞いた話だが、俺とは同い年らしい。大学二年生で転生したようだ。
「そんでどの依頼にするかやな……」
俺達は掲示板に張り出された案件を一枚ずつ目を通した。
緑色のボードにぎっしり詰められた張り紙がピンで留められている。
入りきらなくて重ねられている箇所もあり、捲りながらも宝探しの様に漁った。
「これどうや? 大浴場の掃除」
「何でだよ……。雑用じゃないか」
「女湯にも行けるらしいで」
「それがいったい何の得になるんだ?」
「妄想が捗る」
「くだらねえ……」
そんな不毛なやりとりを続けながらも、冒険者らしく割のいい案件を探す。
最初は採取系がいい。
危険性が低く、ついでに副産物を得られれば理想的だ。
「これにしよう。ちょうど二人で行ける」
「ええやん。決まりやな」
こうして俺達は二人だけの冒険を続けた。
後々俺のスキルが判明すると効率よく依頼をこなすことができ、Dランクからの脱出は思いのほか早く進んでいったのだが――。




