第6話 悪の組織の下っ端には退路がない
「……なあ、暗守サン。これ、どういうことっすか?」
廊下を埋め尽くす赤い警告灯を睨みつけながら、下卑が絞り出すような声を上げた。
「最悪で最低よ……っあなたたちが『下賤』って呼んでる53号も、他の同型ボディも、予備のボディもみんなハッキングされたわ」
「!?つまり……どういうことっすか!?」
「頭空っぽなの?あなたは……説明するのも面倒だわ、見てなさい」
駆けこんだのは、闇夜アジトのメインモニター。
そこに映し出されていた下賤と同型の実験体たちの生体データとクローン制御プログラムが、次々と黒いノイズに塗りつぶされていく様子。
カメラには、呆然と立ち尽くすか、闇夜の戦闘員達に襲い掛かる実験体たちの姿。
……『下賤』も、そこに混じっていた。
何やら譫言を吐きながら、戦闘員達を殴りつけている。
スピーカーから響くのは、耳障りなノイズと――聞き覚えのある、あの吐き気を催す忍び笑いだった。
『ははっ、久しぶりだねぇ、暗守♪闇夜のドブネズミたち♪
おかげで俺の使える肉体が増えたよ……♪』
「クソ外道……っ!どこからハックを……!?」
暗守の顔から余裕が消え、目尻が吊り上がっていく。
『トロイの木馬って知ってるよなぁ?
お前らが手塩にかけて育てた実験体、ありがたく使わせてもらうぜ♪
お前がこっちに忍び込ませてた53号……下賤な、逆に、俺の自我ウイルスを忍び込ませてもらってたってわけ。
あとは、その回路を持ち帰らせて、お前の苦労して築き上げた組織のシステムも、システムで身体改造や調整してる奴らも乗っ取って、それでオールクリアってわけ♪
ははは、楽しいなぁ、暗守ぃ……♪』
「くっ……!」
「下賤……?」
下卑が呼びかけるも、返事はない。
当然だ。今、下賤は遠い区画に居る。
スピーカーの音だってきっと届いていないだろう。
下賤が、くるりと振り返り、こちらを見る。
しかし、その震える唇から漏れたのは、歪んだ合成音声のような外道の声だった。
『さあて、踊れ踊れぇ!滅茶苦茶にしてやれ!』
ガンッと、実験体たちがあたりを破壊する。
ケタケタと、無機質に哄笑を上げている。
闇夜の戦闘員達もだ。
「くっ……!わたしの噂仲間が……!ふざけるんじゃないわよ!外道!」
キレ散らかす『下世話』に、『外道』はただ嘲笑を返すだけだった。
圧倒的な数の暴力。士気の差異。
洗脳された実験体たちは恐怖も躊躇もなく、闇夜のアジトや構成員たちへ容赦なく拳や武器を叩き込み始めた。
「ええーっ、マジか!全然話が違うじゃーん!」
飛び交う銃弾を避け、物陰に飛び込んだ『下品』は、ぎらぎらと輝く指輪のはまった指で顔を覆って愚痴りはじめる。
闇夜の連中も応戦してはいるが、使い勝手のいい奴隷かつサンドバックだった実験体たちを乗っ取られたショックと数の前に、完全に後手に回っている。
「えっ、ちょっ、どうすんすか!『下賤』の奴、完全に『外道』に乗っ取られてんじゃないっすか!」
「……クローンの同期を解除するには、外道の本陣にあるメインサーバーを物理的に破壊するしかないわねぇ……。でも、この状況で突入するなんて、自殺行為。一旦撤退し――」
「撤退!?」
下卑は暗守の手を振り払う。
「ふっざけんな!ここで逃げたら、あいつは一生クソ『外道』の道具のままっすよ!ねえ暗守サンよ、あんた『外道』に復讐したかったんでしょ!?」
「だからこそ冷徹になれと言っている! あの『下賤』はもう――」
「うるせえんすよ!!」
下卑は怒鳴り散らすと、武器と食料をいくつかそこらからパクり、勢いよく飛び出した。
「下っ端根性、見せてやるっすよ!!!」




