第7話 悪の組織の下っ端には守るものがない
「馬鹿ね……っ!あんたなんて、あっという間に取り込まれて終わりよ!
体勢を立て直すのが先に決まってるじゃなぁい!?」
「ぐずぐずしてたらあっちだって力つけるっすよ!今なら向こうだって隙があるはず……っ」
「ほんっとに、馬鹿じゃないのぉ……!?しょうがないからっ、心中してあげるわよぉ!」
「うっし!あっ、よしよし、来い!こっちこっちー!クソボスー!」
「はっ、分かりやすい挑発に誰が乗るって言うのよ……」
「……ふんっ、何を企んでいるか知らんが……♪」
「思ってたより馬鹿だったわ」
途端。がごぉん!と大きな音を立てて、シェルターが閉まっていく。
「しまっーーー……」
「閉まっちゃいましたねぇ」
下らないダジャレを返して、下卑は、下賤と実験体達数名を通路の一部に誘導、隔離することに成功した。
実験体達の魔手を潜り抜け、アジトを脱出した闇夜の残党たち。
皆、下卑に続くように、外道連合本部へと破れかぶれの電撃侵攻を仕掛けていた。
「へへっ、あとはここを行くだけっと!」
警告音と重苦しい不気味な轟音を立てながら、ルービックキューブの如く組み替えられていく地下通路を、下卑は前のめりに突っ走る。
まるで坑道のカナリアの如く、初見の罠をひょいひょいと避けながら進んでいく。
スズメバチから逃げまどい、警官にビビり倒す下卑だが、ここぞという時の逃げ足だけは早い。
けれど、今回は逃げて避けるだけじゃない。
確実に、一歩一歩、目的に向かって突き進んでいるのだ。
「ふん、意外とやるじゃなぁい……♡すぐに死ぬかと思ってたわぁ♡」
暗守はその後ろをつかず離れずついてくる。
「はんっ、死んでたまるかっての!億万長者になって!下賤と札束風呂入るまではよ!」
「やっぱり馬鹿過ぎるからすぐ死にそうね」
「そんなぁ!」
◆
ガゴンッ!
重厚な非常扉を爆破し、下卑達はアジトのコア空間へと躍り出た。
「っ……なんだ、これ……」
「……っもぬけの空じゃない……!」
そう。機械自体はそこにあった。だが、肝心の、思考を司るコアの部分が、何者かに持ち出されていた。
その瞬間。通信で繋がっていた、闇夜アジト側の通信が途切れる。
『暗守様!駄目です!こっちに、『本体』が―――……!』
『いやぁぁぁあ!!!』
「ちっ……!」
「……暗守サン。ここに、脱出経路、本当にあると思う?」
「あるでしょう!?でなきゃ、なんでこんな……」
「俺は、ない方に賭けたい。だって、ないと確信して、来た道をそのまま戻る俺たちを、隠れ潜んでた外道サンが闇討ちするほうがずっと簡単でしょ?」
「……!じゃ、じゃあ、この通信は!?」
「通信ジャックされてる可能性ありますよね。頭に血、上りすぎっすよ。リラックスリラックス」
「ー……あなたも、あのクソ外道に負けず劣らず苛立たせてくれるじゃなぁい」
「誉め言葉として受け取っておくっすわ」
◆
「……みーっけ」
下卑の顔に、いつもの薄汚い笑みが戻ったのは、数十分後のこと。
「……っ!」
ごちゃごちゃした部屋の中に隠れ潜んでいた、本体。細い蜘蛛のような手足が生えている。
「はい、暗守サン。これやるから、下賤を解放してやってくださいよ」
ぽいっと下卑が暗守にそれを放り投げる。
「……分かったわよぉ」
暗守が暴れるそれを押さえつけ、カチャカチャと外付けの操作装置を挿し、ハッキングを開始する。
「あっ、通信も再開したっすね!大丈夫っすか!?」
「ひ……下卑……さん……?」
「!?」
聞こえてきたのは、下賤の声だった。
「ぼ…僕…俺……何を……なんてこと、しちゃ……僕、うう……」
「おいっ、どうした!?この通信装置持ってたやつはどうなったってんだよ!?」
「……うううっ……が、ああああっ!!!」
ずん、と、重力がかかったような音が向こうから聞こえて―――――――
そうして、永遠に、静かになってしまった。
「……は……?」
「ちゃんと、解放してあげたわぁ。この世から」
「っ……!てめぇ……っ!」
「手術で言うなら、異常細胞と正常な細胞が完全に癒着しちゃってたようなもの。
片方を始末するなら、もう片方も、さよなら。
それしかないのよ。恨まないでよねぇ♡」
「っ……クソッ、くそぉ……っ!!!」
慟哭する下卑を尻目に、暗守はかつかつと、優雅に立ち去って行った。




