皇子サマ
参謀室での覚悟のことなどつゆ知らず皇子様はのんびり昨日の自分を自画自賛。
いやー昨日の演説は決まった。
俺様かっこよかったさ、120点満点だよ。
皇子はご機嫌である。
参謀室でおもーい殺気が放たれているころすがすがしい空気を窓から取り入れ深呼吸している皇子がいた。
そろそろ昼食の給仕が来る頃だが、その前に何かいたずらでもしこんでおこうか思案して
ドアノブを見ていた。スライムを塗り付けとくと後片づけるのがめんどくさいしな・・・
ここはストレートに水をぶっかけるだけというシンプルさも捨てがたい。
ん、いるはずの私がいなかったらどうだろう。
流石にそれはまずいか?
でも”デザートがプリンアラモードではないとのことだったので今日の昼食はいらない”と書置きをしておいて、いなくなる。そうだなそれが良い。メイドの慌てる顔を天井の隠し部屋からのぞいているのが今日は良さそうな気がする。
手頃なメモ書きをつくろうとペンを取りに行くとカーテンがふわっと大きく膨らんだ。思わずそっちへ目をやる。そこに人影があったものだから思わず後ろへ下がりかべにあった槍を手にする。
「うわさ通りの間抜けには見えないかも、クスクスッ」
女の子が窓にいる。ここは5階だぞ、危ないしそもそもどうやって来たんだこいつ。
そんなことよりいつもの癖で容姿に点数をつける。
そんなに可愛いというわけではないがちょっと気になる程度。銀髪がまぶしい。ガキなので50点。
憧れのマイア姫には程遠い。あぁ、あの気高き美しさ、魔界の財宝で今度こそ振り向かせて見せる。
そして我が妻として一生下僕として我が身をささげたいぃぃ。
そんな妄想に至るまで0.65秒くらい、その後首が胴から離れて落ちるまで同じくらいの時間しかかからなかった。音もたったドン、ドン。首と槍の音、部屋は瞬く間に真っ赤に染まる。
ドア向こうで昼食の支度をしているメイドは、またくだらないイタズラの準備でこけたかな?やっぱり騙されたときのリアクションを大袈裟にしないと機嫌が悪くなるしなあといつもの調子。
隣の衛兵はいつもの事なので何事も無く大欠伸。
悲鳴に変わるのはドアが開いた直後。真紅に染まった絨毯やテーブル、そして槍を握ったままの胴体、その横に見開いたままの首がある。衛兵が飛び込み、側にいた女性を見て剣をつきつけ「動くな!」と叫ぶ。
メイドが這いつくばりながら部屋から出て「皇子さまがぁー」と言いながら気を失った。
近衛兵が駆けつけるまで僅か数分のことであろう、静止を無視して窓へ走りだした女性、止めるために足を斬りつけようとした衛兵、捉えたと思った瞬間。影が走ったような錯覚に覆われた衛兵は頭をいきなり殴られていた。血で染まった絨毯に叩きつけうつ伏せに倒れた先に見上げたものは獣人?いやこの瞳は知ってるハーフエルフだしかも獣人との間に生まれた中でもごく僅かに現れる覚醒種だったか。意識が薄れそうな中侵入者を知らせなければと彼は叫んだ。「コイツはエルフと獣人の覚醒種だっ」
「へぇ、結構物知りだねぇ、クスッ」そう言いながら衛兵の脇腹を蹴り上げた。甲冑はひしゃげ、天井に打ち付けられる。何より蹴り上げられるまで何も分からず一瞬だった。圧倒的な絶望感の中
もう死の覚悟は出来ていたが覚醒種の暗殺者だけは近衛兵が来るまでここから逃す事だけは嫌だと思った。じゃなきゃ俺は何の為に衛兵やってたんだ?
そして、再び暗殺者を睨みつけた。かろうじて握っていた剣を握り直し立ちあがろうとした。口から真っ赤な血が大量に込み上げ吐き出して体勢を崩していく、それでも真っ直ぐに見続けた。向かうべき敵を。
「あら、予想以上に頑丈。じゃ助けてあげようかな。ただし記憶は書き換えさせてもらうわ。そうしなきゃ正体ばれちゃうもんね。」
そう言って瞳を赤く光らせたかと思うと、衛兵は気を失ってついに倒れた。
到着した近衛兵が皇子の亡骸を覆い隠し、手を十字に切った後、気絶した衛兵をたたき起こした。「何者の仕業なのか?見たのか?どうなんだっ!」
「金髪の覚醒種、早すぎて攻撃は見えない、無口で何も話さなかった。」それだけ伝えると皇子に覆いかぶさったマントを見て嗚咽に似た無念の涙を流した。
翌日、皇子は急な病で急逝したことが発表された。国王をはじめとする皇室は皇子の死を悼み5日間喪に服すこと、葬儀は49日後に国葬として執り行うとの通達があった。
真相は厳しい情報管理のもとごく一部のものだけに知らされていた。
皇室・副大臣以上のもの・軍上層部・情報部のみであった。
軍部は先日決定していた出兵の中止を決定した。
情報部は現場から逃げた銀髪のハーフエルフについて人物の特定を行っていた。覚醒種という希少なものならばすぐに正体がわかると思われたが難航している。情報は衛兵からもたらされたものではっきりと似顔絵まで描かれているにも関わらずである。
情報部に焦りの色が見え始めたころ、ある情報がもたらされた。それは、金髪の獣人の少女がとある貴族の屋敷に幽閉されていると言う事。そしてその少女がハーフエルフではないかと言われている事。覚醒種ではないがこの情報が屋敷の召使いからのものだったから調べてみる価値はあると判断した。
入念な調査は慎重かつ詳細に行われて確信に至った。少女は元々身体能力が高かったこと。そして、母親はエルフの中でも代々司祭を務めていたとても魔力の高い一族だったこと。少女は覚醒する条件を満たして余りある存在だったのに巧妙に偽装されていたのである。それを知られて監禁・利用されている。
これ以上の調査は情報部ではどうにも出来ない、そこで国王軍参謀ケネスに極秘情報として伝えた。「ルードフォン子爵に謀叛の疑いあり。皇子暗殺の実行者を匿っている。」と。




