クッキーとプライド
明けた朝、メイド長にケネスの好きなクッキーの手配を頼みながら親父の予定を聞いておく。会わずに済むなら越した事はないから、
「本日は国王陛下と会食も御座いますので先程ご出立されました。お帰りは深夜かと。」帰りをにごしてるのはあの女のところか・・・
朝食を終えて貴族服に着替える。貴族服というのはちゃらちゃらして動きづらい。馬車の準備の方が先に出来てしまったので御者がのんびりと馬の立髪を撫でてた。
「城のハンゾウ門から登城してくれ。」ハンゾウ門は軍関係の中でも作戦本陣が置かれる場所なので非公開。馬車で近づく事が出来るのは限られたものだけの特権。でも帰りは馬車ではないから入る時だけの見栄だけに感じる。あぁ先ず愚痴りたい。これからケネスの愚痴を拝聴しまくりなんだから。
衛兵が挨拶をしながら、俺あてのクッキーを渡してくれた。ケネスお気に入りのこれを手配していたことから、今日俺がケネスと戦う日ということまで悟っていて、”ご愁傷様~”という憐れみを帯びた顔である。自室に着くと包みを籠に移した。昨日の残件を確認して、適当に承認サインを入れてく。文面が堅苦しいのは却下。さて、終わってしまった。参謀室に行く時が来てしまった。
クッキーを持って、地下への階段を降りて迷路のような回廊を進んで行く。
そろそろ見えて来ると思った瞬間、寒気と言うか悪寒がした。奥からケネスのおもーい殺気を感じる。缶詰状態5日目以降現れる症状が出ているなんて!心の叫びは"あぁ行きたくないっ行きたくないっ!い、逝きたくないーっ!"しかしここまで来ているとあっちにもバレてるので引き返す訳にはいかない。
サクッと挨拶だけして帰る・・・なんて無理ですよねー。大きく深呼吸(溜息)をしてからノープランで突っ込む事にした。いや諦めたというのが正しい。
ノックして何事も受け入れる大きなこころをイメージしながら入室、2日目にして既にこのレベルまでヤバい気が充満するとは。
真ん中で地形図の上に陣形駒が散乱している作業台を睨みつけていたケネスの目はクッキーを目撃した途端にそこから目が離れない。
そのうえであえて、「作戦の概要はできたのか?」と軽く問いただしクッキーを奥のテーブルに持っていく。その視線から”これはやばいいうよりは敗北確定・撤退戦をどうするか考えている顔”であることを悟る。
「結論から言うと、王都防衛のための魔法兵を主力に持っていかれた。攻撃部隊には十分に戦力を回せない状だ。これじゃ負ける。」王都防衛のかなめだった皇国の御旗を戦線に持ち出すわけだから今回はその分守備力を上げておきたいということなんだろうが本末転倒と言いたいらしい。とはいえ御旗を使えばあるいはと思っていたらケネスが続ける。
「皇国の御旗についてなんだがこれも丞相から指示が出ている。一つ奪われないようにするため本陣後方から前に出さないこと、一つ皇子を守ることを最優先とする事」
ここまでは予想していた。あとは御旗の有効範囲。
「この状態で戦闘に力を注げるかというと皆無だ」
皆無かーいっ
魔法兵の割合が極端に少なくなる中で通常攻撃のみでの戦闘がメインになることほど
戦闘は不利になる。魔法兵と戦闘兵のツーマンセルが対魔族戦ではオーソドックスな戦闘スタイルだからだ。
魔法による防御と補助がなくなることは戦闘兵に死ねといってるのと同じ意味だ。
せめて御旗の力が及ぶ範囲での戦闘ができれば・・・
「もっとも特定の人物にマークする事によって遠隔魔法を飛ばすことは出来そうだ」
この様子だとマーク出来るのはいいとこ2人。
マークされた人物はケネスレベルの者から何が飛んで来るのかわからない状態で、
大将首として敵の目前にさらされるわけか・・・
「それじゃ俺が囮でケネスが遠隔魔法を放つしかないな」とぶっきらぼうに言い放つ。
「俺様ならなんとか耐えられる。爆裂呪文だけをありったけぶつけてくれ」
あの時の再来、俺たち2人同じ事を考えている。
血の池伍長と首狩り魔法使い。
あの戦場で立っていられたのは俺たち2人だけだった。もうあんな思いはしたくない。
「そうか」とだけケネスは言ってクッキーを取りに行く。自分が言っている事の意味をその重さを分かっているだけに足取りは重い。
室内にいるほかのものたちは何をいっているのか理解できる範疇にない。ただ事の成り行きを見ているだけのように感じた。
「心配すんな。基本方針は決まったんだから、あとは周りを固めていこう。」
気まぐれ将軍と言われてはいるが流石に空気の読めてないひとことになってしまったようで余計に重苦しい感じになってしまった。
ケネスが一言「地獄はもうたくさんだっ」と吐き捨てるように言った後クッキーを食べ始めた。
震えている自分を押さえようと必死なのを感じる。あの時の恐怖を思い出しているのは間違いない。
生真面目だから思い出すと後悔の念が堪えないんだろうなと思いながら、俺もクッキーに手を伸ばす。
「もうあのころの俺たちじゃない。今度こそ守り切る。腹くくってくぞ。」
「当然だ」震えのとまったケネスが答える。




