59話 魔法を使ってみた
「これが火の精霊で、こっちが水の精霊。この草の精霊は手も足もなくてさ、どうやって移動してんのか俺にもわかんねえんだよ。んでこの雲の精霊がおじいちゃんで・・・――――――――――」
「うん・・・うん・・・。」
俺はただいま、お絵かき帳に描いた精霊の説明中。
俺が次々に描いては説明するなか、目の前のアルの目には光が宿ってなくて今にも膝から崩れ落ちそうな顔で聞いている。
ごめんなアル、子供の頃からあの西洋の彫刻チックなイメージ絵を見て色んなことを考えて期待をしてたんだろうけど、それがぶち壊されて落ち込ませてしまって。
でもこれが現実なんだよ。
俺は心を鬼にし・・・てないけど、淡々と描いては説明していった。
そして一応会ったことある精霊全部を説明し終えたところでグランがやって来た。
「あ、おはようグラン。」
「おお。・・・ん?アル?どうした?なんでそんなに落ち込んでんだ?」
「や、やあ・・・おはようグラン・・・。」
アルは暗い目をグランに向けて力なく挨拶していた。
「ちょっとアルに社会の現実を見せてたところだよ。」
「は?社会の現実?」
グランは困惑しながら俺とアルを見てきた。
「うん?なんだこれ、お前が描いたのか?」
グランはお絵かき帳を覗いて、俺の絵を見てそう聞いてきた。
「これなんの生き物だ?」
「これ全部、精霊の姿だよ。」
「・・・は!?これが!?精霊ってとんでもない大男とか美女とかの姿じゃねえのか!?」
「あ、グランもあの絵を見たことあるんだ。アレは作者の理想なんじゃないかなあ?実際はこんな感じのかわいい見た目だよ。」
「ふうん・・・、そうなのか。」
グランは驚きはしつつも全然ショックを受けているようではなかった。
アルなんてまだうなだれているのに。
その話を聞いたグランはなにかを察した。
「そうか、だからアルはこんなに落ち込んでんだな。アルは好きだからなあ、魔法とか精霊とか。」
「グラン知ってんだ、アルの個人的趣味。」
「昔から好きらしくてよ、話の流れで魔法の話になったら必ず熱くなってたからな。貴族の間で魔法を研究する同好会みたいなのがあって、そこに所属しているらしいぞ。」
高校の同好会みたいなもんか?
そういやあ、俺の行ってた高校にも漫画同好会があったな。
そう考えたら、アルは魔法オタクみたいなので貴族の同好会ってのもオタクの集まりみたいなのと考えていいのかな?
ニコニコ人当たりのいいアルがオタクというのはなかなかイメージに合わないけど。
アルはしばらく落ち込んでいたけど、俺とグランで話をしていたらいつの間にか立ち直っていた。
「気を取り直して、精霊のことはわかった。今度は魔法のことを聞いていいかい?」
「魔法のことってなに?俺、今まで魔法と同じことが精霊に頼んだらできるから、魔法使ったことがないんだよ。」
「魔法を使おうと思わないのかい?」
「うーん、精霊呼んで頼んだらいいからなあ。俺のいた世界には魔法はなかったから興味はもちろんあるけど、本当に俺にできるのかとか思ってさ。」
「駄々漏れするくらい魔力があるならできると思うよ。・・・そうだ、試しに今から魔法使ってみたら?」
あー、確かに魔法ができる世界に来てるんだから魔法をやっときたいかな。
「そうだな。一応なんかのためにアルとグラン見張っといてくれない?」
「うん、いいよ。」
「ああ、俺も興味がある。」
2人はそう返事してくれて、3人で孤児院の裏手の原っぱに出た。
子供たちは離れたところで遊んでいて、こちらにはまったく気付いていない。
「1番最初だから、ファイアでいいだろ?」
「そうだね、魔法を練習する時は皆、ファイアからやるんだよ。」
へえー、そうなんだ。
グランはそこら辺に落ちている棒を拾うと俺から離れたところに突き刺した。
「この棒の先に火をつけるってことでいいな。」
前にロックの魔法の練習を見たときと一緒だ。
「唱え方や呪文は知ってるか?」
「あ、大丈夫。本の精霊が魔法の本の内容を頭に入れてくれたから、頭に浮かんできてる。」
「す、すごいな。呪文は覚えないといけないからそれで苦労する奴もいるのに・・・。」
グランはちょっと呆れていた。
へえー、ラノベとかなら頭に浮かんできたりするから、てっきり頭に浮かんで来るもんで俺は本の精霊に頭に入れてもらったからやっと皆と同じように浮かんできたりするのかと思ってたのに。
本の精霊に頭に入れてもらってよかったー。
「んじゃあ、やってみるわ。」
「おお。」
「頑張って。」
俺は深呼吸をして、棒を見つめた。
唱え方は頭に浮かんでる。
といっても俺のやることは、集中して棒の先に火をつけるイメージして呪文を言ったらいいだけで、そのイメージが魔力と繋がって精霊に魔力と一緒にイメージも届いて、精霊が魔力を元にイメージを具現化してくれるということのようだ。
まずは集中・・・集中・・・。
イメージ・・・よし。
俺は右手を棒の先に向けて構えて唱えた。
『数多が精霊のひとり、火の精霊よ・・・!』
あれ?「呼声」になってる?
『イオリ呼んだか?』
『呼んだみたいだな?』
『なんか用か?イオリ』
ガヤガヤ・・・
あれあれ?なんかめちゃくちゃ火の精霊の声がするぞ?
魔法を使うために集中してたせいでいつの間にか「真眼」にもなっていて、俺の周りには火の精霊が集まってきてるのが見えた。
どう見ても、10にんはいるぞ!?
俺がめちゃくちゃ動揺していると同時にグラン・アルも動揺していた。
「お、おい、なんだこの濃密な魔力!?あいつが集中した途端に空気が変わったぞ!?」
「しかもイオリがしゃべった呪文聞いたかい!?一つ一つの言葉に魔力がこもってたよ!?これは・・・やばいことになりそうかもしれない・・・。」
「やばいことってなんだよ!?」
「このままイオリが呪文を全部言ったら、棒の先に火がつくどころじゃないかも。辺り一面焼け野原になるかもしれない。」
「はああ!?」
グランとアルがそんな会話をしていたのも聞こえないくらい俺は動揺していた。
あっ、いけないいけない。
呪文の続きを言わないと。
『火の力をもって我が前にある棒の先に・・・じゃなくて、空に火を放て!』
俺は嫌な予感がしてとっさに棒の先ではなく空に向かって火を放つように言って右手を空に向けて、そこに火が出てるイメージした。
すると俺の右手の前に魔法陣が出た。
でもロックの時は三角形の魔法陣だったのに、俺の右手の前にある魔法陣は何角形とかではなくて太陽と月が中央に描かれてあって、その回りを色んな文字が囲っている。
なんだこの魔法陣?
『空に火か!いいぜ。』
『俺もやってやろう。』
『俺も!』
『俺も!』
集まった10にん全員がやると言ってきた。
じゅ、10にんでファイアやったらどうなるんだろう?
空に向かってだからだ、大丈夫だよ・・・な?
『ファイア!』
ボオオオオオォォォッ
空は一瞬にして火に包まれ、夕方かな?っていうくらい真っ赤になった。
だがそれは一瞬のことで、すぐに消えて俺たちは一瞬熱風が吹いてきただけだった。
「・・・。」
俺は驚きすぎてしばらく空を見続けた。
「「・・・。」」
グランとアルも目の前で起こったことが衝撃的過ぎて呆然としていた。
『おお~、すげえ火が出たな。』
『まあ、俺たち10にんが協力したらこうなるわな。』
『イオリに協力するならこれくらいしねえとな。』
『だな。』
『だな。』
・・・俺、魔法やんない方がいいみたい。
ノヴェーラの町でも目撃され、「空が一瞬夕焼けのように真っ赤になった」という怪事件はやがて「世界の終末説」や「神のイタズラ説」等の都市伝説となったとかならなかったとか・・・(笑)




