第七話 悪夢
私はよく悪夢を見る。
悪夢の内容もバラエティに富んでいるが、大体の悪夢は私が死ぬ夢だ。
これまで100以上のシチュエーションで殺されてきた。
一番多かったのはゾンビに襲われる夢。
続いて飛び降りや落とし穴、怪獣に食べられたり、踏みつぶされたり様々だ。
友達が鎌を持って追いかけて来た事もあったな。
転がってきた大岩に潰されたり、倒れて来た電信柱の下敷きになったり、迷子になって遭難したり、海で溺れたりetc.
そんな私がこれまで見た悪夢の中で一番怖かった話がある。
幽霊、妖怪、怪獣、殺人鬼、事件、事故、天変地異、どんな悪夢よりも怖かった夢。
今回はそんな夢の話をしよう。
とある夏の夜、私は布団もかけずに眠っていた。
クーラーをつけていたがそれでも寝苦しいほどに暑い夜だった。
なかなか寝付けずにいた私だったが、1時間くらいごろごろしていると次第に眠たくなってきた。
意識が飛びそうになり、やっと眠れると安堵した次の瞬間。
俺の上におっさんが乗っていた。
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何だこれ、何だこれ、何だこれ!?
声を出そうとするが上手く声が出ない。
体を動かそうと試みるが全く動かない。
そんな私を見ながらおっさんはニタニタと笑っていた。
っぁ・・・と声にならない声を発しながら、起き上がろうと必死に頑張った。
そしてようやく「あ!」と大きな声が出た。
体が自由に動くようになった。
おっさんを払いのけようと勢いよく私は起き上がった!
その瞬間目が覚めた。
夢だったのか・・・。
そうか、そうだ、気づくと変な話だ。
私はかけ布団を着ていなかったのに、さっきおっさんは布団を着た私の上に乗っていた。
ここで夢だと気づくべきだった。
恥ずかしい、18にもなってあんなおっさんに恐怖するなんて。
特に何をされたわけでもない。
でも自分の上に全く知らないおっさんが乗っていたら誰だって怖いはずだ。
とは言え夢だと分かってしまえばもう怖くない。
実害があるわけじゃないんだから。
そう思いながらも恐怖心は拭えなかった。
この日もう一度眠りにつくのははばかられ、結局朝まで1人でゲームするはめになった。
昼に友人と会う約束があったので、寝不足の理由ついでにその話をするとだっさ!という悪口と共に笑われた。
そうだろうな、私だって他人事なら笑ってしまう。
たかだかおっさんが出てくる夢なんて、と。
しかし自分の事だととても怖いのだ。
こいつも見知らぬおっさんに乗られてしまえばいいのにと頭の中で友人を呪っていると、友人が言った。
俺なら1発で倒せるねと。
考えもしなかった、倒せばいいのだ。
私はなぜかこの時期、夢の中で自由に動けた。
明晰夢というらしいが夢だと認識したうえで自由に行動する事が出来たのだ。
夢だと認識さえ出来れば自由に動ける。
自由に動ければおっさん1人くらいどうという事はない。
最悪倒せなくても、目さえ覚ませばこっちの勝ちだ。
よし、方針は決まった。
おっさんが出たら払いのける、出来れば倒す。
倒せなかったもしくは昨日のように体が動かなかった場合は起きる。
これだ、これで行こう。
これで私は安眠を勝ち取る事が出来るはずだ。
悪夢をよく見るからと言って悪夢を見たいわけじゃない。
出来ればおっさんの悪夢だって見たくないのだ。
だがやられて黙っていられるほど大人しくもない。
リベンジだ、これで私は安眠を勝ち取る!
その日の夜、眠気もピークに達し、私は落ちるように眠った。
すぐに分かった、私は夢を見ている。
そう気づいた時、おっさんが現れた。
今日も昨日のようにニタニタと笑っている。
まさか本当に2日続けて出るなんて!!
驚きはしたがチャンスだと思った。
まずは昨日のように声を出そうとした。
やはり声は上手く出ない。
体を動かそうとする。
体も上手く動かない。
しばらく格闘していたが声も体も全く自由にならなかった。
この間もおっさんはニタニタと笑っている。
いや、違う、昨日とは違う!
昨日は胡坐をかいていただけなのに、今日は頬杖もついてやがる!
私の怒りは頂点に達した。
昨日は突然だったし、夢だと分からなかったから怖かったが今日はもうネタが割れている。
お前何て私が起きたら終わりだ!と怖がらされた分と安眠妨害の2つの怒りを込めて私は目を覚ました。
「ざ~んね~ん」
目を覚ました私の目の前にはおっさんの顔が迫っていた。
「うわ~~~~~~~~~~!!!!!」
大声を上げて私は飛び上がった。
今度は本当に起きられたようだ。
ドッドッドッドッド、心臓が大きな音を鳴らす。
そこからはしばらくは恐怖で何も考えられなかった。
何が起きたのか考えられるようになったのは15分ほど経ってからの事だ。
途中までは上手くいっていた。
私の思った通りに事は運んでいたのだ。
だが最後の最後でおっさんに全てを持っていかれた。
思えば最初からおっさんの掌の上で転がされていたのかもしれない。
私の昼間の考えをおっさんもどこかで知ったのだ。
だから上手くいっていると見せて私をころころと転がしたのが。
もしかすると今この瞬間も頭の中にいるかもしれない。
そう考えるともうダメだった。
恐怖心と敗北感に私は支配された。
完敗だ、もう勝てない・・・。
私には打つ手が残されていない。
絶望した私は諦めの境地で布団に入った。
怖かったが、起きているのも限界だったし、どうせ勝てないのならもうどうでもいい。
祟り殺されるでも、ただの悪夢でも、どうでもいい。
このまま怖がりながら死ぬより、せめてゆっくり眠って死のうと私は目をつぶる事にした。
気づいたのは朝になってからだった。
私はぐっすり眠っていたようだ。
悪夢を見なくてすんだ安堵と、またおっさんが出てくるかもしれないという不安が、代わる代わる私の脳裏に浮かんでは消える。
今日もまたおっさんが出てくるのかもしれないと思うと眠るのが怖かった。
だがその日からおっさんは私の夢には現れなくなった。
あれから15年経つが一度もおっさんは出てきていない。
今でも悪夢は時々見るがどれもあの夢に比べればどうという事はない。
あのおっさんは私の脳が見せた幻覚なのか、それとも霊的なものなのかは定かではない。
ただ1つ言えるのはもう二度と会いたくないという事だ。
皆も明晰夢、特に夢の中で眠っている夢を見たら気を付けたほうがいい。
おっさんに出会ったらなすすべなど無いのだから。




