第六話 そっくりさん
世の中には自分に似た人が3人いるという話を聞いたことがある。
そのせいか僕は昔から自分そっくりな人に会ってみたい気持ちがあった。
はっきりとは分からない、何でそう思うようになったのかは忘れてしまった。
何だか楽しそうだなという記憶はあるんだけど。
そんなだから、自分に似ている人に会おうと思って色々と調べた事がある。
まず科学的には、血統的に近く、民族が同じなら似る確率は高くなるらしい。
つまり全く関係ない地域には似ている人はいない。
そう考えると何だか夢が無い。
2つ目、ドッペルゲンガーに会う。
ドッペルゲンガーっていうのも諸説あるんだけど、簡単に言えば自分の分身や影のようなものらしい。
見たら死ぬ、入れ替わりを企む、なんかちょっと怖い存在でもある。
他にも精神疾患の1つで自分の幻影を見たりするらしい。
それもドッペルゲンガーって言うらしいんだけど、うん、これも怖いので遠慮したい。
後はシェイプシフターに変身してもらうか、パラレルワールドの自分と会うか、誰かに整形してもらうか、タイムマシンで超短い時間移動をするか、とにかく力技か超常現象しか自分そっくりな人物に会う方法は存在しない。
こう、何か、良い具合に見つける方法は無いだろうか?
そんな事を友達に相談すると、
「そういや学校裏の神社に映見池ってあるじゃん? あそこに夜4時44分に増やしたい物を投げ入れると増えるらしいよ。 お前飛び込んでみれば?」
「お前は馬鹿なの? まず夜中にあそこまで行けねーし、そもそもあそこの池めちゃめちゃ深いって話じゃん! これまでにも何人も死んだらしいし、へたすると僕死ぬじゃん!!」
「いやほら浮輪つけてれば平気でしょ! 怖いなら俺も一緒に行ってやるから試しに行ってみようぜ!」
「嫌だ、行かない。 むしろお前が1人で行け! 僕は絶対行かない!!」
次の連休初日の真夜中、僕は友達の家から映見池に向かっていた。
なんでこんな事になっているかというと、友達の奴が大声で、僕が怖がって映見池に行けないとクラス中に聞こえるように言ったからだ。
中学生の僕にとってこれは死活問題だ。
ビビりの称号でもついた日にはいじめの標的になるかもしれない。
僕は、いや違う、そんな事ないと必死で言い訳を並べるはめになった。
今日は行かないってだけで土日なら行けるし、今週の休みに友達の家に泊まるから夜中抜け出すのも難しくないし、何なら証拠に写真撮ってきてもいいし、と自分の首を全力で絞めていった。
3日前の僕をぶん殴ってやりたい。
しかも友達は「じゃあ時間入りの写真撮れば誰にも疑われなくていいな」とか言い出しやがった。
あいつの、せいで、僕は、行かなくちゃ、行けなく、なったんだ!!
4時、僕と友達は映見池のある神社についた。
池まではきちんと道が整備されているので、30分もかからず池に着くはずだ。
歩きながら僕は友達をどうしてくれようかと頭の中で考えていた。
友達は楽しそうに笑っていやがる。
池に入るのは僕だけだから余裕なんだ。
クソッ、ムカつく!
頭を友達への罵詈雑言いっぱいにしながらも義務的に足を動かした。
行きたくない、ビビりと思われたくない、あいつのせいだ、しかし足は止めない。
大きなため息が出た。
とうとう池についてしまった。
元々この池は好きじゃなかったんだ。
時々凄く臭いから。
神社の周りには天然の温泉も沸いていてそこから変なにおいがする。
池とも近いからそのにおいがうつったんじゃないかなって昔から思ってた。
そう言えば昔言われた事があるっけ。
においの強い日は神社から先、特に池の方には行くなって。
何でダメって言われたんだっけ、肝心なとこ忘れちゃった。
まあでもにおいが服に移るからとかそんな理由だと思う。
本当にくさいからね。
それにしても今日は何だかにおいが強い気がするな、まあ気にしないけど。
さて、時間まで後15分、最終確認だ。
①池の深さが分からないから、浮輪をつける
②時間まで池から少し離れた所で待機
③4時44分になったら、僕が飛び込む
④その瞬間を友達が撮影する
⑤それで終わり、家に帰る
簡単だな、飛び込む事さえできればどうにでもなりそうだ。
日が昇る前には友達の家に戻る事ができそうだ。
そう考えながら、ふと、1つの疑問がわいてきた。
もし本当に僕が2人に増えたら、もう1人の僕はどうするんだろう?
友達に聞いてみると、連れて帰れば?だって。
そんな事できるわけ無いけど、ちょっと面白そうではある。
まあ本当に増えるわけ無いしね。
本当に増えるんだったらもっと街にはもっと分身がいっぱいいてもおかしくない。
でもそんな話ちっとも聞かない、って事は嘘だって事だ。
と言いつつもちょっとワクワクしちゃうな。
よし、そろそろ時間だ。
じゃあ飛び込むから撮影よろしく、そう友達に声をかけた。
分かってる、俺にまかせてよとやたら自信満々で答えたのが逆に不安だ。
ちゃんと撮れてないと一生疑われるんだからしっかりやってくれよと思いながらも、時間も無いし信じる事にした。
さて、飛び込むぞ!
それから数分後、電話が鳴った。
俺が電話に出ると俺が聞いてきた。
「まだ動いてる?」
俺は池の中を確認した。
「もう動いて無い」
そう答えると俺は再度聞いてきた。
「もう死んだかな?」
もう一度池の中を覗き込む。
やはりそこには自分の意志で動くものなどいない。
浮輪がプカプカと浮いているだけだ。
「もう死んだんじゃない」
俺がそう言うと俺は満足げにうなずいたようだった。
「上手くいったな」
だから俺も俺に気分が良い事を伝えた。
「上手くいったよ」
友達は不幸な奴だった。
「最後まで、何で自分に似た人間を探していたのかも分かってなかったんだろうな」
たった一瞬、だがその一瞬が引き返しようのない運命を友達に引き込んだ。
「最後に思い出したかもしれないけど、どっちでもいいよ」
せっかく記憶を消してあげても思いまでは消えなかった。
「5年前、俺の事を見なければ、死ななくてすんだのに」
自分そっくりな人を探すのをやめろと言ってもやめなかった。
「5年前、俺の事を見なければ、幸せに暮らせたのに」
それはなぜか?
「でもこれで問題は解決だ」
俺の秘密を知りたい気持ちが強すぎたからだ。
「ああこれで問題は解決だ」
後はこれまで通り俺を増やすだけだ。
「俺の秘密は守られた」
電話の後ろで俺の声が聞こえる。
「俺の秘密は守られた」
「俺の秘密は守られた」
「俺の秘密は守られた」
「俺の秘密は守られた」
「俺の秘密は守られた」
「俺の秘密は守られた」
「俺の秘密は守られた」
「俺の秘密は守られた」
「俺の秘密は守られた」
「俺の秘密は守られた」
「俺の秘密は守られた」
「俺の秘密は守られた」
もっともっと増えないと。




