第四十二話 飛び降りる幽霊
俺の住む島は昔、炭鉱で栄えていた。
炭鉱は命が軽いと聞かされていたが、調べれば調べる程色々な事件が見つかる。
炭鉱を掘る最中に爆発が起きたり、一酸化炭素中毒による事故。
他にも海水が入ってきたりその死因は様々だ。
しかも現在のブラック企業がホワイト企業に思えるくらい労働条件が酷い。
事故以外の人死にが出るのも当たり前と言う状況だ。
だからだろうか、地元には炭鉱跡地にまつわる心霊現象が数多くある。
助けてくれと叫ぶ幽霊、お前も引きずり込んでやると言う幽霊、真っ黒いだけで何も喋らない幽霊。
どの幽霊も恐ろしく人を狙っている。
だが炭鉱跡地に近づかなければ無害だ。
その点でこの幽霊達は怖くないと言える。
問題は毎夜飛び降りをする幽霊だ。
毎夜飛び降りをする幽霊が目撃されたのは3ヵ月前。
炭鉱跡地近くの崖の上から誰かが落ちた。
最初の目撃者は俺だった。
俺は最初人が死んだと思って慌てて崖の方に向かった。
崖の下の方は岩場になっていたので落ちればほぼ死ぬ。
それでも見て見ぬふりは出来ない。
だからこそ駆けつけたのだが、そこには死体どころか血の一滴すらついていなかった。
もしかして幽霊かと思ったが一応顔見知りの警察に知らせる。
違った場合が怖いしな。
そしてこの日から毎夜飛び降りをする幽霊は俺の島の新たな都市伝説となった。
次に幽霊が目撃されたのは山の上にある展望台だった。
偶然展望台にドライブに来ていた島の若者が目撃したのだ。
彼が言うには髪の長い女性のような影が飛び降りたらしい。
俺と同じようにすぐに確認に行ったが何も見つからなかったと言っていた。
その次は廃校舎の屋上、次は病院近くの崖の上、その次は防波堤とその幽霊は毎夜転々と移動していた。
最初は怖がっていた島民も次第に慣れていった。
なんせ元々幽霊の目撃談が多い島だ。
特に害の無い幽霊なら放っておこうというのが島の共通の意見だった。
だが中には興味本位で幽霊を追う者もいた。
彼は炭鉱跡地の幽霊も研究しており、心霊現象に強い関心を持っていた。
今回も目撃された場所から次に飛び降りる場所を予測し、幽霊を追い始めたのだ。
彼はパターンを見つけたと言って実際に6日連続で幽霊を写真に収めた。
その様子はブログにもアップされており中々に衝撃的だったが、一見するとただの影にしか見えない。
ブログには次の出没予測地も載っていたので本当に幽霊なのか確認するために、俺はその場所に行ってみる事にした。
そこは最初に俺が幽霊を目撃した場所から少し離れた魚の養殖場だった。
本当にここに現れるのだろうか?
半信半疑だったが6日連続で目撃している人間の事を信じ待った。
待ち始めて20分くらい経った頃だろうか、本当に飛び降りが行われた。
うわ、当たった!
凄いなあいつと思った次の瞬間2人目が落ちてきた。
2人目はぐしゃっという音を響かせる。
嫌な予感がした。
これまで幽霊が続けて落ちたという報告は無い。
しかも音が鳴った事も無い。
もしかするとこれは本当に飛び降りが起きたのでは?
そう考えた俺は恐怖に震える足を無理矢理動かし現場に急いだ。
予感は当たった。
人が死んでいる。
死んでいたのは幽霊を追いかけていた男だ。
俺は吐き気をこらえて警察と消防に電話した。
その日初めて事情聴取を受けた。
俺が殺したのではないかと聞かれたが、もちろんやっていない。
警察も本気で俺を疑ってはいない。
ブログ記事の事を知っているし、何よりあそこに行ってみると俺はこの警察に話していたからだ。
そんな場所で人を殺す人間なんていない。
しばらくは本土から警察がやってきて捜査するのかなと思ったが、捜査はすぐに打ち切られた。
車の中に飛び降りた人間が死ぬまでの様子が鮮明に映った映像があったからだ。
1つはスマホ、もう1つはドライブレコーダー、この2つからこの事件は自殺と断定された。
そしてこの自殺を皮切りに島内では自殺者が急増した。
同時に危ないからと言う理由で夜9時以降の外出を控えるよう役場から通達があった。
飛び降りの多くは島外から来た人間だったが、島の若者も何名か亡くなっていた。
何かしら原因があるかもしれないので夜の出歩きは控えてほしいそうだ。
ちなみに死んだのは心霊現象の謎を解明すると意気込んだ者、自殺の謎を追った者、興味本位で遊びに来た者達だ。
結局最初の自殺者が出てから1ヶ月、島の若者も合わせると10名以上が亡くなった。
さすがに気味が悪いなと思っていると警察から電話があった。
俺に知らせたい事があると。
俺が交番に到着すると警察は青い顔をして出迎えた。
挨拶もそこそこに、本当は人に見せちゃいけないんだけどと言って俺にとある映像を見せてきた。
お前には教えとかないといけないからと言うと映像を再生する。
そこには最初に死んだ男が映っていた。
「今日はいよいよ飛び降りをする幽霊を上から撮ってやります!」
男は元気よくカメラに向かって喋っている。
今から死ぬようには到底見えない。
「僕の調べた限りでは幽霊は渦を巻くように出没地を変えています。ほんの少しずつずれているので正確な場所は分かりませんが、そこそこ高度がある場所に出る事は分かっています。そこから推測すると今日はこの養殖場のどこかに出るはずです。」
男の説明は続く。
「夜10時を過ぎると飛び降りるようです。ああ、もうそろそろ10時を過ぎますね。この崖の上なら養殖場全てが見回せますので撮り逃さないように頑張ります!それでは外に出て幽霊を撮影しましょう!!」
男が車のドアを開き、外に出る。
そして幽霊を撮影出来る場所まで近づいていく。
「あ、もしかしてあれでしょうか!?あれ、あ、れ、え?うわ、いや、ちがあああああああああ」
そこで映像は途切れた。
警察は次に別の映像を見せた。
こちらはドライブレコーダーの映像だ。
男の様子が後ろから撮影されている。
『七 目だ 一 に てく のね』
何だ、これ?
俺が何か聞こえると言うと警察は無言で音声を大きくした。
さっきよりも鮮明に何か言っているのが分かる。
『七日目だから・・・ 一緒に、逝ってくれるのね』
俺が思わず警察を見ると、警察はガタガタと震えていた。
そして小さな声で、今まで死んだ人間は全員7回幽霊を目撃していると呟いた。
最初に死んだ男の映像を見た時は良く分からなかった。
しかしそれ以降の自殺者は自殺の謎を解くために幽霊を追い回していた。
結果的に7回幽霊を目撃した人間は全員死んだと。
つまり飛び降りをする幽霊は一緒に死んでくれる人間を探していたという事か?
七日目と言っていた。
それは連続したものか、それとも7度と言う意味か。
もし7度ならまずい、俺はもう6回見ている・・・!
だから俺を呼んだのか、そう聞くと警察はゆっくりうなずいた。
次に見たら俺も死ぬかもしれないから今のうちに島外に逃げるか、夜10時以降は絶対に外を見るなと念押しされた。
俺は礼を言うとすぐに自宅へと戻った。
あれから1ヶ月、俺は未だに島で暮らしている。
あの後警察は仕事を辞めて遠くに引っ越した。
役場の人間もちらほら引っ越す人間がいるようだ。
皆自殺の真相を知った者だろう。
死ぬ危険があるのだが、逃げられるなら逃げた方がいい。
最初に死んだ男のブログは俺が引き継いだ。
知り得る限りの情報を載せ、別人が書いている事も嘘偽りなく載せた。
最初は嘘だと叩かれたがそのおかげで一気に拡散した。
ブログのせいで犠牲者も出たが、おかげで島外からの来訪者は減らせそうだ。
年に数人の犠牲はもうしょうがない、俺が出来る事はもう無いのだから。
後は島の中で犠牲者が出ないよう俺が気をつけていればいい。
今回の件で少なからず若者が減ったし、年寄り連中の面倒を見るためにも出ていけない。
毎夜飛び降りをする幽霊に恐怖を感じながら、俺はこの島で生きていくと決めた。




