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第四十一話 消えない影

いつになったら消えるんですかね、この影は。

俺がそう聞くと目の前の男は不気味なものを見るように俺を見た。

失礼な奴だなこいつ。




俺の家に影が現れたのは1週間前の事だった。

家に帰ると部屋の中心に真っ黒い影が立っていた。

最初は見間違いかと思ったが、電気を点けたり消したりしても一向に消えない。

目の異常も疑ったが、外に出ると影は見えない。

つまりあの影は部屋の中心にいる事になる。


俺の家は白で統一している。

だから余計にその影は目立っていた。

怖いな、そう思った俺はネットカフェで一夜を過ごす事にした。



翌日、朝になれば消えているかもしれないと思った俺の考えは脆くも崩れ去る。

昨日と同じように影は部屋の中心に立っていた。

正直どうしていいか分からなかった俺は知人に相談してみた。

知人は馬鹿な事言ってないでさっさと仕事をしろと怒鳴りつける。

くそ、人の気も知らないで。


とりあえず部屋に入らないと仕事にも行けない。

だがこんな薄気味悪い部屋には入りたくない。

悩んだ末、俺は仕事に行く前に必要なものを一式揃える事にした。

幸い貴重品は持ち歩いているので困る事は無い。

余計な出費だが必要経費と割り切ろう。


なじみの店に顔を出し、服や道具を揃える。

店主に部屋の話をしたら、自業自得だと笑われた。

俺の方には持ってくるなよと言われ、カッとなった俺は黙れクソッたれと悪態をつく。

それが店主との最後の会話になった。


仕事場に着くと知人と同僚が待っていた。

知人はなぜかイラついていて、同僚は困り顔だ。

どうしたのかと聞くと、知人が凄い顔でこちらをにらむ。

お前、余計な事してないだろうな!?

余計な事とは何だろうか?

でもこれを聞き返すと怒鳴られるのは確実だろう。

俺はしてないと首を横に振る。


知人の怒りはそれでも収まらず、商品の元になる素材に八つ当たりしている。

まあ俺の物では無いのでどうでもいいけど、売り物にならなくなるぞ?

同僚も同じように考えたのか知人を止めに入る。

知人の怒りはどうにも収まらないようだった。


俺の仕事は素材の調達だ。

調達した素材から同僚が商品を取り分け、知人が売りに出す。

この仕事は鮮度が命なので迅速に仕事を片付けなければならない。

怒り狂っていてもその事は覚えていたようで知人はどうにか八つ当たりを止めた。


いつもはスムーズにいく仕事も、知人が荒れに荒れているので思うように事が運ばない。

終いには俺までイライラしてきた。

素材の調達に行きたくても知人の紹介が無ければ俺は動けない。

このままでは素材が足りなくなって明日以降の仕事に支障をきたす。


俺は思い切って知人に何があったのか問いただす事にした。

知人はイラだったまま道具屋が死んだんだよと答える。

道具屋とは知人の古くからの友人でかなり仲が良かったらしい。

親しい人間が死んだら荒れるのもしょうがない。

だがだからと言って八つ当たりする権利はない。

でもそれを指摘したら余計に揉めるな、そう考えた俺はどうにかして話をそらす事にした。


そう言えば朝言った俺の部屋の黒い影どうにかならないか?

俺が無理矢理話題を変えようとするが知人は聞く耳持たない。

何度話しかけても虫を続ける。

ああもう面倒くさいな。

一旦同僚に話を聞いてもらおう。


知人の側を離れ同僚に話しかけると同僚は困り顔のまま今話しかけるなと言った。

もう少ししたら知人が帰るからその後で話は聞くと。

いや、俺は今話したいんだけど。

同僚はため息をつくと俺は今話したくないんだよと言った


どいつもこいつも自分勝手だ。

最悪の雰囲気のまま俺はその場を離れた。

知人が帰るまで待つのも嫌だったし、同僚の態度にも腹が立ったからだ。

だが家には影がいる、仕方がないので俺はまたネットカフェで過ごす事にした。



3日目、何だか外が騒がしい。

どうやら近くで事件が起きたようだ。

まあどうでもいいか、それより影の問題を解決しないと。


せっかくネットカフェにいるしパソコンで調べるか。

なるほど、心霊現象もしくは目の病気・・・。

予想通りだけど、俺が知りたいのは解決方法何だよな。

困っていた俺が画面をスクロールしていると1つの書き込みを見つけた。


引っ越せば全部解決すると書いてある。

あ、そうか、引っ越せばいいのか!

どうせあの家知人の持ち物だし、手続きとかも必要ないしな。

俺はそのままパソコンで物件探しを開始した。



4日目、物件はなかなか見つからなかった。

このままでは気分が落ちてしょうがない。

気分転換のために俺は街に繰り出す事にした。


仕事も無いし、散歩ついでに外の様子を見てみよう。

そうしたら街は凄い数の警察官で埋まっていた。

制服を着ている者、スーツ姿の者、私服の者、バラエティに富んでいる。

知り合いの顔も見つけて俺は思わず隠れてしまった。



5日目、この日はネットカフェで静かに過ごしていた。

だが俺のゆったりした時間は無粋な来訪者によって破られる。

俺はそいつに連れられて車に乗せられた。


どこに行くんですかと尋ねるとふざけんなと怒鳴られた。

マナーがなってないのはそっちなのに俺が怒られるのは理不尽だと思う。

そのまま連れられた先で延々とくだらない話を聞かされた。

ああ、誰か助けてくれ。



6日目、5日目同様話を聞かれた。

昨日とは相手が違うがやっている事は同じだ。

椅子は固いし、テレビも無いし、せめてもう少しまともな場所で話をしよう。

俺がそう提案したらそれは無理だと言われた。

何で、そう聞くとお前を逃がす気は無いからだと。

え、俺もうここから出られないの?

何の気なしに俺が言うと、目の前の男の顔が悪魔のような表情に変わった。

最悪だ。



7日目、外に出れた、やった!

まあ出れたと言っても条件付きだけど。

逃げられないように拘束されたまま外に連れ出される。

俺は車に乗り、悪魔と一緒になじみの道具屋に向かった。

そこでいくつか話をしてまた移動する。


今度は俺の仕事場だ。

知人と同僚はいなかった。

話を聞くと悪魔の仲間が連れて行ったらしい。


最後に俺の自宅だ。

やはりあの影は部屋の中央にいる。

本当に何なんだろうなあれ。

いつになったら消えるんですかね、この影は。

もう1週間ですよと俺が笑うと悪魔は狂ってると小さく呟き化け物を見たかのような表情になった。

何だこいつと思ったが今の俺は自由に身動きが取れないので我慢する。


そしてまた悪魔と一緒に俺は悪魔の巣窟へと向かった。

それから俺は2ヶ月もの間閉じ込められ、結局死ぬまで自宅には帰る事ができないと言われた。

黒い影を見てからというもの本当に最悪だ。

結局あの影の正体は分からない、でもあいつさえいなければ俺がこんな目にあう事は無かった。

クソッ、俺は今も近くにいるであろう黒い影に怒りをぶつけた。






判決は死刑か、それでもまだぬるい気がする。

煙草を吸いながら俺は今回の事件を1人振りかえっていた。


最初はありふれた殺人事件だと思っていた。

古物商の店主が撲殺され、現場を見る限り衝動的な犯行に思えたからだ。


だが2つ目の事件で様子が一変する。

俺達が探りを入れていた要注意人物2人が死体となって発見されたのだ。

廃工場で遊んでいた高校生が死体を見つけて大騒ぎしていた。

どちらも一方的に殴られた跡があった。


犯人の目星はすぐについた。

この2人とつるんで臓器売買に手を出していた男だ。

古物商に出入りしている事も分かっていた。

俺達はすぐに男の行方を追った。


そして男の自宅を探り当てた俺達が目にしたのはおびただしい数の骨だった。

部屋のいたるところに白骨死体が放置され、部屋は真っ白に染まっている。

一番の違和感は匂いがしない事だった。

何をどうやったらこんな部屋になるのか、数多くの事件や犯人と接してきた俺でも恐怖を感じる。

一刻も早く捕まえなければ。

俺達は意気込みを新たに男を追った。


だが犯人はあっさりと捕まった。

自宅近くのネットカフェに入る所を部下が見つけ、中を探ると普通に生活していたのだ。

男の様子はあっけらかんとしていて何で警察に追われているのか分からないようだった。


俺達は奴を取り調べたが、こちらの気が狂いそうになるほど男は普通だった。

男には悪い事をしている自覚が無い。

嘘をついた子供の方がまだ罪悪感があるほどだ。

取り調べを終え現場検証に同行させても男の態度は変わらなかった。

俺は隣にいる男が人の皮を被った怪物に思えた。


しかし最後に男の自宅に行った時に男の様子が変わる。

部屋の中心に黒い影がいると言いだしたのだ。

俺には何も見えなかったが、男はしきりにいる、どうにかしてくれと言う。

正直何を言っているのか分からなかった。

部屋には影など無く、中心にはただの姿見しかない。

それ以外は白骨死体が埋め尽くしている。

こいつには何が見えているのか、考えたくも無かった。


その後ひょんな事からこいつが見ていた影の正体が分かった。

取り調べの時に確認として古物商にあった手鏡を見せた、その瞬間男の様子が一変したのだ。

男は鏡を指さしそこに黒い影がいると騒ぎだした。

ふざけるなと言っても聞かず、しきりに影がいる、どうにかしろと叫ぶ。

だがそこには男しか映っていない。

他には何も映っていなかった。


つまり影の正体は鏡に映った自分自身。

男には自分が黒い影にしか見えなかったのだ。

人を殺し続けた男はとうとう自分をも殺してしまったのだろうか?

それとも人ではなくなったのだろうか?

考えを巡らすが俺には答えが出せない。

男の正体が分かるのは、それこそ死刑が執行された後だろう。

男が死んだ時、そこに残るのは人の死体か、それとも・・・。

俺は馬鹿な考えを振り払うように煙草を消して仕事に戻った。

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