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第三十七話 踏切

私の通勤路には踏切がある。

地元では幽霊が出る踏切として有名だ。

電車が通過するのを待っているとどこからともなく声が聞こえてくる。

途切れ途切れに『おまえも、おまえも』という声が聞こえるも、声の主は見当たらない。

探すのを諦めて電車が通り過ぎるのを待っているとドンッという轟音が鳴り響く。

音の方向を見ると生首が転がってきて『お前も!!』と言って消えていく。

踏切の生首と言われており、地元では知らない人はいない怪異だ


かくいう私もこの生首に会った事がある。

それは私が高校生の時の話だ。

ある日の学校帰り、電車を待っている私の前に生首が出てきた。

私は驚きのあまり後ろに転んでしまった。

生首はそんな私を一瞥すると静かに消えたのだ。


聞いていた話とは違い生首は突然現れた。

ドンッと言う音はならず、お前もという声は消える直前に呟いただけ。

気になる、なんで噂とこうも違うのか?

このままでは死んでも死にきれない、踏切の生首の謎を追おう。

普段何事にも関心を示さない私にしては珍しい思いつきだった。



私は家に帰ると早速SNSで生首について検索してみた。

そうすると驚くほどたくさんの書き込みが出てくる。

その中には噂通りドンッと音がするとバラバラの死体が現れるもの。

お前もと強く叫ばれるもの。

中には私のように静かに消えるだけのものもあった。


また出現の条件も様々で、夕方に1人でいる時、友達と夜一緒にいた時、早朝の出勤時等規則性が無い。

一番古い書き込みだと今から10年前のものもあった。

それによると生首はもっと昔から目撃されているそうだ。


私は生首についてもっとよく知るために市の図書館に行った。

過去の新聞記事がアーカイブされており、あの生首の詳細が分かるかもしれないと思ったからだ。

結果は当たり、あそこで飛び込み自殺をした人間の記事が見つかった。


記事によると亡くなったのは当時18歳の男子高校生。

今から30年程前の出来事だ。

いじめを苦に自殺したらしく、顔写真も載っている。

彼だ、私の前に出てきた生首と同じ顔がそこに写っていた。

それから私は連日踏切事故に関する記録を読み漁った。


ある程度の情報を得られた私は次に生首を見たという人に連絡を試みた。

踏切に出る生首を見た人の情報を集めていますとSNSに書き込み、一部の人には直接メッセージを送る。

同時に図書館の方や市役所、寄り合い所を巡り聞き込みを続けた。

自分でも驚くほどの行動力だ。

これまで生きてきた中でも間違いなくこの時が一番活力に溢れていたと思う。


そうこうしているうちに1人、また1人と返信が来て多くの情報が集まった。

最終的には生首の弟さんにまで連絡がつき、話を伺う事が出来た。

そして1つの結論に行きついた。



結論を話す前にまず私の事を聞いてほしい。

私はつい最近までいじめられていた。

よくある事だ。

教科書を破かれたり、くつを隠されたり、SNSで嫌がらせを受けたり。

たまたま私がターゲットになっただけ。

本当によくある事だ。

だけど私にとっては死ぬほどきつい事だった。


1つ1つは我慢出来ても連日人の悪意にさらされるというのは耐えられなかった。

私は死を決意した。

だけど死ねなかった。

死ぬのは怖かった。

怖くて怖くてしょうがなかった。

生きるのも死ぬのも辛くて辛くて私の心は完全に壊れていた。


そんな時、偶然私の前で遮断機が下りた。

列車が通る時に中に入れば死ねる。

壊れた頭に浮かんだのはそんな甘美な誘惑だった。


私の足は踏切の中へと進んでいく。

後少しで死ねる、その時だった生首が現れたのは。

私は驚いて後ろに転び、結果的に命拾いした。


それからは先ほど話したように生首についての情報を集める日々。

生きる目標が出来たからか私は元気になった。

SNSでの嫌がらせも気にならなくなり、目の前のいじめも1つ1つ言い返し、抵抗し、最終的には現場を抑え謝罪と弁償にまで持ちこんだ。

それもこれも全てあの生首のおかげだ。



そして弟さんの話で確信に変わった。

それまで年間1人以上の自殺者を出していた踏切は男子高校生の自殺以来1人も死者を出していない。

何故なら生首が自殺をしようとする者を救ってくれるからだ。


お兄さんが自殺をしてからすぐ、弟さんは夢を見たそうだ。

夢の中でお兄さんは嘆いていた。


後悔している、自殺なんてするんじゃなかった。

お前や両親の悲しんでいる姿を見て自分がどれだけ馬鹿な事をしたか分かった。

俺はもう成仏出来ないだろう。

せめてこれからは1人も死なないよう化けて出よう。

俺の事は忘れてくれていい、申し訳なかったと伝えてくれ。


そう言い残すとお兄さんは消えたそうだ。

それからしばらくして踏切に生首の霊が現れると噂になった。

弟さんは夢の事もあったので生首を見た人に会いに行った。

もしかして兄が化けて出たのではないかと。


そこでどのような顔だったか、生首は何と言っていたか、自殺しようとしたのではないかと根ほり葉ほり聞いた。

最初は訝しがっていた相手も弟さんの話を聞くうちに少しずつ答えてくれるようになったそうだ。

思った通り、生首を見た人は自殺をするために踏切を超え、その瞬間生首に驚かされ助かった事が分かった。


他にも後ろに強い力で引っ張られたり、背中を押されたり、あらゆる方法で自殺志願者を救っていた。

私の話を聞いた弟さんは少し悲しそうにまだあそこにいるんですねと呟いた。

成仏出来ていないのは残念ですがおかげであなたの命が救われたのは喜ばしい事です。

弟さんはそう言うと良かったら兄にお線香をあげていただけませんかと言った。

私は是非と返事を返し、お参りさせてもらった。



それから私はこの事実をまとめSNSに投稿した。

もちろん弟さんや関係者の方の許可を貰って。

そうすると不思議な事が起こった。

今まで生首に救われた人が1人、2人と踏切にお礼をしに訪れたのだ。

その様子を弟さんに伝えると静かに涙を流していた。


あれから5年、私は高校を無事卒業し社会人になった。

今でもあの踏切には幽霊が出る。

相変わらず生首が『お前も』と言っては人々を助けている。

お前も、お前も死ぬほど辛いのかと。

優しい地縛霊は今日も人を助けている。

いつの日か彼が静かに眠れるよう、私は今日も踏切に眠る彼に祈りを捧げた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃいい話!感動しました。
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