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第三十四話 机

いつからか机が怖かった。

誰かと一緒に居る時は平気。

だけど1人になると座っていられない。

だからせっかく買ってもらった勉強机も小学生の時はまともに使えなかった。


どうして私は机が怖いのだろう?

何故だか急に気になってきた。

丁度良い、洗い物をしている母に聞いてみよう。

そうすると母は、覚えてなかったの!?と驚いた。


母の話では昔、私が1人で留守番をしている時に強盗か何かに襲われたらしいのだ。

犯人は捕まらずどこから入ったのかも分からなかったが、部屋の荒れようから誰かに襲われたのは一目瞭然だったらしい。

幼い私が言うにはテーブルの下から黒い影が足を引っ張ったって。

私がいやだと泣き叫びながら抵抗すると黒い影は癇癪を起して暴れ回った。

丁度さらわれそうなタイミングで母が帰ってきて事なきを得たらしい。


母が家を空けたのは20分程度、運が良かったのか悪かったのか無事で何よりだと警察も言っていた。

でもね、不思議なのよと母が続ける。

犯人がね、13年後にまたやってくるって言ってどこかに消えたらしいの。

今年で13年でしょ、もし本当に来たらって心配よね。

そう言いながらも母はのんきに笑っている。



確かに怖いけど、そもそもうちは転勤族だから数年に1度は引っ越しをしている。

もし13年前に住んでいた家に犯人がやってきても私はいない。

それに本当にやってくるとは思えない。

子どもに執着するような変態が成人になった私を襲う意味が分からない。


まあ気にしなくていいだろうな。

それにようやく私が机が怖い理由も分かったしどっちかと言うとスッキリしたかな。

ただ昔の事とは言え、かなり不気味な話で怖いのは確かだ。

母親に事件があったのは何月何日だったのか聞くと、今日だよとサラッと言われたのも原因だろう。

もっとねっとり怖がらせくれた方が逆に怖くないのに・・・。


まあいいや、どっちにしても明日になれば完全に嘘って確定するし。

今日はさっさと寝よう。

ああでもその前に明日発表に使う資料確認しとかないと。

そう思って私は自分の勉強机にあるノートパソコンの電源を入れる。



パワポで作ったプレゼンの資料を確認する。

うん、問題無い、これなら大丈夫。

資料の確認も終わり、寝ようと思ってノートパソコンの電源を切る。


・・・あれ、おかしいな?

シャットダウンしたのに画面が暗くならない。

もしかして失敗した?

クリックミス、だとしたら恥ずかしい。

もう一度電源を切ろうとする。

しかし今度はマウスのカーソルも動かない。

うそ、フリーズしてる?

まずい、なんでこんな時に限ってフリーズするの!

ああもう、30分待ってだめなら元の電源から切ろう。

そう考えて立ち上がろうとした時だった。



ガッ!!



私の足を何かが掴む。

動かない、とても強い力で掴まれてる。

混乱した頭で足元を確認しようとするけど何も見えない。

目の端でノートパソコンの画面が動くのが見えた。

頭をそちら側に向けると画面が黒くなり、そこに白い文字で『ヤクソクダ、ムカエニキタ』と書いてある。

約束、約束って何!?


続けて『ニガサナイ、ニガサナイ、ニガサナイ』と文字が続く。

私は恐怖にかられ母親を呼ぼうと声を出す。

しかし声は出ない、口が、喉が、体が動かない。

何で、どうして、助けて、頭の中を恐怖が支配する。

かろうじて目だけが動いた。

必死で動かす、しかし状況は何も変わらない。


いたっ、足元の力がより一層強くなる。

私を引きずり込もうとしている。

それでも必死で抵抗を続ける私に業を煮やしたのか「何か」の手が少しずつ上に伸びてくる。

目だけを動かして「何か」を見る。

伸びて来た「何か」は真っ黒い影だった。

闇が形を成したかのような黒、人でも生き物でもない「何か」、引きずり込まれる。


それでも必死に抗っていた私の耳にコンコンと扉を叩く音が聞こえた。

母だ、母しかいない。

助けて、そう叫ぼうとすると何かの力が弱まるのを感じた。

そして同時に母の言葉を思い出し、私は机にあったお守りを「何か」に向かって投げつけた。

「何か」はぎゃああああという悲鳴と共に消えていった。

アトスコシダッタノニ、そう言い残して。



それからすぐに部屋を飛び出し母の元に行った。

母が涙目の私を見て、うわ、本当に来たんだと言う。

私はそれを見て心配してよ~とついつい泣き出してしまった。

ああよしよしと母に抱きしめられながら私は泣いた。

10分ほどしてようやく落ち着いた私は母にさっきの出来事を話した。


「お母さんの言う通りだった、すっごく良いタイミングで助けがきた。」


私がそう言うとでしょ?と母が得意げに笑う。


「でも何で分かったの? 私を襲ったのが人じゃないって」


「分かったんじゃないの、何が来てもいいようにしといたの」


母はそう言うと、これまで13年間準備をしてきたと教えてくれた。

私が襲われた後、母は警察に再犯の可能性やどういう備えをしたらいいか聞いたらしい。

その時対応した警察官がいわゆる見える人だったようで、何か不吉な予感がすると言った。

だから母はその後お祓いや幽霊に詳しい人物に対処法を聞き、同時に不審者対策もした。

どうしてそこまで頑張ってくれたのか聞くと何でもない事のように言ってくれた。


「だって大事な娘を奪われるなんて考えられないじゃん!」


父も母と同意見で娘を守るためなら何だってやる、当たり前だと言っていたらしい。

帰って来たら父にもお礼を言わないと。


そう言えばあの影は完全に消えたのだろうか?

私が不安に思っていると母が頭をポンッと叩いて大丈夫と笑った。

でも一応明日お祓いにも行こうね、備えあれば憂いなし、出来る事は全部やろう。

私を元気づけるように笑顔のままで温かい言葉をかけてくれる。


ああ、この人が私のお母さんで良かった。

これからは私もお母さんを守っていこう、そんな大人になろう。

ありがとう、そう言って私は母を抱きしめた。

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