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第三十一話 側溝から響く声

声の聞こえる側溝、そういう都市伝説がある。

僕の住む街は昔ながらの雰囲気の残る街だ。

人の付き合いは深く、ショッピングセンターも無い。

若い人には寂しくつまらない街だろう。

でも僕はこんな街が好きだった。


公園には子供の声が溢れ、挨拶をすれば返ってくる。

草木も多く、季節の花や虫が堪能できる。

海は近くに無いけれど、山から見える景色は絶景だ。

治安も良いし、本当に住みやすい。


だからなのかは分からないが不思議な伝説や逸話も多い。

お稲荷様に失礼をすると呪われる。

夜山に入ると神様の社に連れていかれる。

猫の集会を邪魔すると翌日から不幸に見舞われる。

紫の蛹を見つけると幸せになれる。

このようにいくつもの話が残されているが中でも有名なのが声の聞こえる側溝だ。


その名の通り側溝から声が聞こえてくるのだが、それが厄介だ。

声はいつくかの種類があり聞こえてくる声によって内容が変わる。

赤ん坊の声の場合は近々その人に幸運が舞い降りる。

女の子の声の場合は事故に遭うから気を付けろ。

犬の鳴き声なら身近な人が大変な思いをしているから助けてやれ。

そして『ぼおおああえええええ』という男の声が聞こえたらすぐに逃げろ。

そうしないと溝に引き込まれて殺される。



今回聞こえているのは男の声、聞いたのは僕だ。

もちろんどの話も迷信、当たる時もあれば外れる時もある。

そもそも溝の作り的に風が強い日は何らかの音が聞こえる場所だ。

たまたま聞こえてきた音を聞き間違えている、僕はそう思っている。


しかしこの男の声がした時だけは違う。

昔からこの街に住んでいる人はすぐに家に帰れと言う。

特に女、子供は聞こえたらすぐに逃げろ、絶対に中を覗くなと強く言われている。

他の話を信じていない人でもこの話だけは信じているのだ。

だから何かしらこの音が聞こえた時は怖い事が起こると小さい頃からすりこまれていた。


僕がこの声を聞いたのは、夜中に趣味の散歩をしている時だった。

声が聞こえる側溝の話は知っていたがあまり気にかけていなかった。

治安が良いのもあって油断していたのかもしれない。


だから鼻歌を歌いながら歩いている時、溝から声が聞こえた時は縮み上がった。

最初は聞き間違いだと思った。

でも徐々にその声は大きくなる。

聞き間違いじゃない、頭の中では昔から聞かされていた話がよみがえる。

僕は怖くなって走り出した。

後ろから何かが追いかけてくる気配はないが、声はずっと鳴り響いていた。



翌日側溝から声が聞こえた事を両親に話した。

そうすると2人の顔色が変わり、溝の中を覗いたりしなかったか、すぐに逃げてきたかと矢継ぎ早に聞かれたのだ。

僕はビックリしたがそれだけ心配してくれているのだと少し嬉しかった。

大丈夫言われたとおりに何も見ずに走って帰ってきたよ。

そう答えると、両親は安堵し、どこかに電話をかけだした。


僕が待っていると父親が今から自治会長の家に行くから準備しなさいという。

普段優しい父親が有無を言わせない態度をとっている、これはよほどの事だ。

僕が黙って準備を始めると母親が部屋に入ってきた。

心配だからお守りを持って行けと言っている。

そこまでしなくてもと思ったが、それで母親の気が紛れるならとお守りを持って行く事にした。


準備を終え、父親と一緒に自治会長の家に向かった。

会長の家に着くと奥さんが出迎えてくれて、応接室に向かうように言われた。

応接室には自治会長と稲荷神社の神主さんがいて、大変だったねと僕に声をかける。

もしかして僕って呪われでもしたのと父親にいうとそれも今から話すからよく聞きなさいと言われた。

僕が前を向くと、自治会長が側溝の声について教えてくれた。



それは今から50年程前にさかのぼる。

ここらにはその昔豪族の家があった。

そこには息子が1人いたのだがこの男が問題だった。

男は変質者であり異常性欲者だったのだ。


女と見れば声をかける男で、特に問題視されたのが側溝の中に入る事だ。

そこに入り自分が気に入る女が来るのを待ち続ける。

気に入った女がいれば家までつけ回す。

親も手を焼いていたが事件だけは起こさなかったので注意するくらいしか出来なかった。


そうしているうちに事件が起きた。

ある日男が側溝に入っていると1人の女学生が通りかかった。

年は12、3くらいの綺麗な女の子だった。

男は思わず側溝の中から声をかけ、女の子が中を覗いた同時にその腕を掴み引っ張り込もうとした。


怖かったのだろう、女の子は必死で抵抗した。

しかし男の力は強く中々離さない。

女の子が声を上げるも周囲には人の気配がない。

焦った女の子は鞄から鉛筆を取り出し、男めがけて振り下ろした。


手に突き刺し、一瞬怯んだが男は一向に手を離さない。

そこで女の子は男の喉めがけて鉛筆を振り下ろす。

鉛筆は見事に男の喉に突き刺さり、そこから変な音が漏れだした。

その隙に女の子は逃げ出し、警察を連れて戻った時には男はこと切れていた。


警察が男の親に経緯を話すと、男の親は女の子に謝罪をし今回の件は隠し通すと言った。

今まで放置していた私たちの責任だからあなたが気にする事は無いと。

強い力を持つ男の親は警察にも手を回し事件を無かった事にした。


それからしばらくして側溝から変な声が聞こえるようになった。

君も知っている『ぼおおああえええええ』という声だ。

偶然通りかかった女の子が溝の中を覗くと喉に穴の開いた男がいて、自分を引きずり込もうとしたそうだ。

女の子は無事に逃げきれたが、その後も時折声が聞こえるようになった。


困った当時の住民は稲荷神社の神主にお願いしてお祓いをしてもらう事にした。

しかしお祓いをした神主曰く、一時的に祓う事はできるが完全な除霊はできないと。

声が聞こえても無視をして、すぐに走り去りなさい、それで危機は回避できる。

もし中を覗いた人がいたら私の所に連れてきなさい。

その子はきちんとお祓いをしてお守りを授けるからと。

この時から事件の事を隠して危険を遠ざけるためにあの話ができたのさ。



なるほど、あの声にはそんな秘密があったのか。

じゃあ僕がここに連れてこられたのはお祓いのため?

そう聞くと神主さんがええ、一応お祓いをしておいたが方がいいでしょうと言った。

僕は中を覗いていないけど、狙われる可能性があるらしい。

お願いしますと頭を下げると神主さんがお祓いを行ってくれた。


「これでもう大丈夫ですがなるべく近づかないようにしてください。特に夜の出歩きは危険です。ただでさえ可愛い子は狙われやすいのですから」


僕はお祓いをしてもらった安堵感と可愛いと言われた嬉しさから満面の笑みを浮かべお礼を言った。

心なしか可愛いと言われて父親も喜んでいるようだ。

やはり父親にとって娘が褒められるのは嬉しい事なのだろう。

僕と父親は自治会長の家を後にし、母親が待つ家にご機嫌で帰っていった。

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