それから
お久しぶりです。
それから2年。私は我武者羅に、いや、訂正しよう。マイペースに頑張った。
国内の情勢は良くなっている。
「おい、ネイ。」
さっきから呼びかけられてる。それを無視して、ソファーに寝そべりながら書類に目を通す。
返事を請う声が、そろそろウザくなってきた……
『あー、はいはい。何ですかー?』
身体を起こしながら、答える。性格悪く見えても仕方ない。そう言う風に見せてるからねぇ。
「そろそろ機嫌を直してくれ。」
別に怒ってはないですよ。単に呆れてるだけで。
「確かに悪いのは私だが……」
『ほんっとですよ!』
いきなり大声を出したからって驚かないでよね。
さっきから平謝りのオウサマはずっと困り顔。一方の私は不機嫌な顔をして見せる。半眼で睨みつけるのはステータスだよ。有り難く受け取ってよね。
『人が毎日一生懸命仕事してるってのに、どうしてこうも縁談が次から次へと!ちょっとは断るってことを覚えてください。オウサマだって、私とクーンさんのこと知ってるくせに!』
そうなのです。このヘタれオウサマ、今まで酷かった臣下たちを一斉した所為でもっと強く意見を言う人たちが残ったからか、政以外のことにもNOを言えないのです!
「……そのことに関しては、私も同感ですね、陛下。」
おう!いつの間にそこに。
扉の傍に気づいたらクーンさんが立っていた。発言から考えると話を聞いていたらしい。オウサマも驚いていた。
「おお、クーン居たのか……」
「はい。」
「聞いてたのか?」
「ええ、まあ。」
兄弟の攻防が見える。ちょっと面白いからそのまま傍観しておきましょう!
うふふ。おにーさんに強く発言するクーンさん。素敵です!そしてオウサマ。キャラに合ってます!
「どうして縁談が入ってくるのです?それに、傍にいつも私がいるからと牽制してくるのです。確かに近辺の人間しか知りませんが、私たちは相思相愛。他人が入る隙は微塵もありません。」
『……っ!』
た、確かにそうですが……そうもはっきり言われると照れるといいますか。うん、思わず目を逸らしちゃったよ。
ちらっと見てみると、オウサマはげんなりしてる。その反応はその反応でどうかと思うけど。
「ネイはこの国の象徴になりました。国内に留めておくために国の者と婚姻を結ぶのも仕方ないかと思います。しかも丁度婚期。美しい御方を男が放っておくことはないでしょう。だからと言って、言われるがまま見合いをさせるのは酷。それは私にとっても、です。」
そうです、その通りですよ。
二年経って私はもうハタチになった。だからと言って、中身が成長するわけじゃない。結婚とか、実感ない……
まあ、クーンさんとそうなってもなんら問題ないけど。だけど、他の人とそうなるとか想像もつかない。
てゆーか、<最後の乙女>とか言って散々派手に敬っておいて、結婚云々は何の問題もないわけ?
そう考えていたと思ったら、どうやら口に出してたらしい。オウサマが残念そうな顔で私を見ていた。
「お前は、自分の見目をわかっていない。苦労するな、クーンよ。」
「だからこそ、早く一緒になりたいのです。」
「お前の頑張りはよく理解している。身分も仕事も申し分ない。今の臣下ならば2人が一緒になっても文句は言うまいよ。」
なんか、失礼なこと言われた気がするんだけど?もうお菓子作るの止めようかな。とか思っちゃう。オウサマは甘党だから、バツとしては結構きついと思うよ。
「ただなぁ……」
ただ、なんだって言うんですか!文句言わないんじゃなかったんですか?だからダメなんですよー…
「重鎮たちだ。簡単に諦めそうにない。だが、乙女自らが断る、もしくは自らが相手を決めると宣言すれば何とかなるかもしれない。」
つまり、オオサマに進言されたことの答えを私に任せる、と。
ふっふっふ。どんなことしてやろーかなぁ。
「お、おい、ネイ!なんか怖い笑顔になってるぞ。」
オウサマが焦ってる。クーンさんはにこやかだ。
「クーン、止めてくれ!」
「ぜひともお受けください。…ネイが何を考えているかは知りませんが。」
私が何を考えているか分からないだろうクーンさんはそれでも私を支援してくれるらしい。
流石です、素敵です!
『どう言う仕返しがいいですか?オウサマが言う通りにしたら何をバツに与えてもいいですか?』
にっこり笑顔で言うとオウサマは身震いした。
その反応、いかにもって感じ。思った通りの反応が面白くてまたニヤニヤしちゃったのは仕方ないと思うよ、うん。
「……お前ら、居るなら返事しろよ。」
話の途中に急に乱入してきたのはアーシェ。
皆さんは誰だよ、って思うかもしれない。その隣に居るライトは分かるだろうけど。
アーシェと最初に会ったのは二年前のあの夜会。あの、ルイスの、彼の息子。そして、忌まわしい記憶の中の男でもある。
事の詳細を聞いたのは裁判が終わって数日後の落ち着いた時。あの日に私を襲ったのは、アーシェだ。
彼は父親の前で猫を被って、こちら側だと言っていた。だけど、その後の行動で私は裏切られた気持ちだった。―――でも、それだけじゃなかった。
彼は私と同じだったのだ。その腕に腕環をつけられていた。操られていた彼は私を襲い、クーンさんやその隊の人たちに捕らえられていたけれど、ルイスの死によって呪から解放されたらしい。
それが証明され、彼は亡き父の後当主となり、クーンさんの仕事仲間になった。そんで意外なことに……
「こいつらの言い合いに参加するのか。お前勇者だな。」
「いや、話が進まないから声をかけただけだよ。」
ライトと仲良し。アーシェはパパさんと違って身分とかそういうのは関係ないらしい。気の合う仲間とワイワイするのが好きなんだって言ってた。
二人はよく飲みに行ってるらしい。私も行きたいんだけどねぇ。微笑ましくも口げんかしてるあそこの兄弟に反対されるから行けた試しがない。けち~。そのうち抜け出してやるんだから。
とかいう私の決意はともかく。さあ、ここら辺でどうでもいい話は終わらせましょうか。
『しょうがないから、その宣言はいつか私からします。』
そこで一息貯める。その時のオウサマの顔って言ったら。嬉しそう。だけど。それだけで終わるとか思ってないよね?
『ただし!』
ほら、予想通りの表情。さっきとは違いこわばった顔してる。別に痛めつけようとか思ってないのにー。てゆーか、ここまで怯えられると自分の日ごろの行いを考え直すべきかと思っちゃうじゃないか。
……それについては後で真剣に考えよう。
思考を元に戻した私は、オウサマにお願いをした。
『研究室をください!』
「……は?」
なんだー、その反応。気が抜けたって顔をしてる。後の傍観者たちは表情をまったく変えてない。反応されないっていうのも悲しいよね。
ちょっと拗ねたくなったけど、話が進まないから今は我慢します!
ってな訳で、私の要求を突き付ける。
『ここに来てから2年半以上経つのに、私政治にしか関わってないんですよ。』
だからどうしたって顔やめてよねー。政治以外にも乙女として伝えなきゃって思ってることあるんだから。
みんなの顔を見てみると、各々私が他にやりたいことがあるってわかったらしい。
「ネイ、そうは言っても、まだこの国の政治は完璧とは程遠い。まだ王都以外の僻地ではそれほど改善は進んでいない。」
ライトの言葉はご尤も。全くもってその通りなんだけどさ。それって体制整えてからいったい何年かかるんだって話なんだよねぇ。
私は今、特別顧問的な立ち位置にいて、あれこれ口出しをしてるけど、そのうち反発だって出るだろうし。いつまでもこんな小娘にお偉いさん方が従ってるわけもないと思うんだけど……そういった意味でそろそろ私は政治から遠のくべきだと思うんだよね。
もちろん<最後の乙女>だし、完全に離れることはできないとは思うけど、遅かれ早かれ必要なことだと思うんだよ。
おまけにね、市井の改善とか、この城から出してもらえない私にはできない。そんなこと言うなら出してくれるのって聞いてみたら、みんなの目が痛かったから目を反らした。
ダメって言うって分かってても、質問してみたかったんだよ。特にライトの視線がきつい。ごめん、悪かったって。
この国の人たちが豊かになる方法って他にもあると思うんだ。もちろんそれによって害が出てこないかって言ったらその通りだから、政治と並行してやってく必要があると思うんだよね。