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魔王に囚われて異世界から英雄(ヒーロー)を召喚した王女様。間違えてゲームのキャラを召喚してしまった。  作者: 宮森 英二
悲哀っ!! 正社員激闘編っ!!

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番外 とある主婦の一幕


 「ええ? テレビの回収、ですか?」

 「はい。実は先日謎の放送事故がありましたでしょう?」


 「え、ええ……。なんか毒ガスがどうとかで」

 「はい、実はアレ。テレビがハッキングを受けまして」


 「はい? ハッキング、ですか?」

 「ええ、それであんな放送が」


 「それはまぁ、おかしいとは思ってたんですが……」

 「あはは、本当おかしい放送でしたよね。それでですね」


 「は、はい……」

 「つまり放送が写ったテレビはウイルスに汚染している状態になっている訳です」


 「ウイルス。そうなんですか」

 「ええ、ですので早急に回収しようとやってきた訳でして」


 「そう、なんですか」


 ある日の朝、ちょうど妙な放送があって翌日、政府の人間だと職員がやってきた。

 なんでもテレビの回収に来たんだとか。


 昨日、確かに妙な放送が流れていた気がする。

 しかしその放送はすぐに切れ、その後何か勇ましい音楽が流れて。

 その後1、2時間したら放送は止み、それから一切番組が流れなくなった。

 

 そして翌日、今の状況に至る。

 

 なんとも。


 なんとも妙な話だと思う。


 テレビがウイルスに感染したから回収する?

 そもそもウイルスってなんだ?

 なんだか、怪しい気がするなぁ。


 「あ、あの……」

 「はい、なんでしょうか」


 「その、すいませんが身分証みたいなのありますか?」

 

 もしかしたら何らかの詐欺かもしれない。だからここは身分証の提示を求めてみた。

 政府のテレビ回収業者にどんな身分証があるかは分からないが。

 ともかく何らかの身分を示してもらわねば。

 

 「ああ、すいません。そういうの携帯してないんですよ。昨日の今日ですから」


 まぁそりゃあそうだろうが。しかし身分証も持たず市民からテレビを回収するって。

 そんな事あるものだろうか。


 ますます怪しい。よし、ここは。


 「えっと、警察に確認取って良いですか?」

 「ああ、今電話は使えませんよ。回線が止められてますから」


 回線が止められてるだって? そんな訳ないだろう。

 やっぱり彼は詐欺師。ウチからテレビを持っていくつもりなのね。


 そうか、昨日のいたずら放送にかこつけてウチのテレビを盗む気で……。

 そんな事許さないんだからっ!!


 「警察を呼びますよっ!! 今電話しますから」

 「はい、ではどうぞ」


 実にあっけらかんと。彼は無表情で私の言葉を受け入れる。

 その様は自信に溢れ、そしてどこか寂し気で。


 その様子を不気味に感じながら、私は警察に電話を掛けてみる。

 実際に警察に通報が行くところを見れば、この男も。


 だけど。


「え、繋がらない……?」


 電話は、繋がらなかった。独特のツーという音も聞こえない。

 完全に「死んだ」ような状態。


 これは……。どういう事?


「今、例のウイルスに関連する一斉調査が行われていまして」


 男が語る。一斉調査って? 電話回線を調べるって事?

 男は笑っている。

 その様子が、どこか不気味だった。


 私はそのまま駆け出して、隣の奥さんの家へと向かう。


 「あのっ!! 前川さん、居るっ!?」


 声を掛けるが、誰も居る様子はない。

 確か昨日家族でノア地区へ食事に行くと話してから見ていない。

 昨日から、帰ってないのか?


 「春奈さん宅は御留守のようで……」


 男が後ろに立っていた。

 春奈。前川さん所の奥さんの本名だ。

 彼女の家を知っているのか?


 「きょ、今日は留守のようね。うん」


 特に言う義務もないのに、変な言葉が出る。

 男は笑っている。


 特にこれといった事もしていないのに、不気味に感じる。

 男は、静かに立っていた。


 テレビを回収するだけですので。

 先ほどと同じように、彼は自らの使命を全うする為の言葉を吐く。

 それが。


 なんとなく怖かった。


 そして不安になる。前川さんが居ない。

 よくバーベキューなどして仲良くしてくれる奥さんだ。


 そういえば子供も見ていない。旦那さんも。

 なんだかちょっと不安になる。


 あ、そうだ。星宮さんのところはどうだ?

 そう思って彼女に家へと走るが、最中気付いた。

 車が無いのだ。

 そういえば昨日家族とナイターを見に行くと出て行った。


 あそこの家の子は大変な野球好きで、だから頻繁にノア地区の球場で野球観戦を……。

 そういえば今日1回も挨拶を交わしていない。


 いつもは、朝の挨拶をしっかりするんだけど。

 そも子供が登校に出ていない。変、だな。


 朝テレビは映らなかった。それは復旧してないと思って気に留めなかった。

 挨拶の件も、そんな日もあるかなと。


 でも。


 「あの」


 男の言葉にびくりと反応する。

 近くに男が立っている。


 笑って。そのままの笑顔で。


 それが。

 なんだか、凄く不気味に感じてきた。

 

 一体何が起きている? ふと昨日の放送が頭をちらつく。

 日本国民尊厳維持放送。


 そんな事を言っていた。放送の内容を思い出す。

 それは、とっても不気味なもので……。


 その時は本気にはしなかったけど。

 でも。

 今の状況って、まさか本当に……。


 「あの――――」

 「わぁあああああっ!!」


 誰かに声をかけられ、思わず大きな声が出てしまう。

 テレビ回収屋の声じゃない。もっとおっとりとした、落ち着いた声だ。


「あ、驚かせてしまってすいません。宮田さん」


 振り向くとそこに見知った顔が居た。

 随分整えて見違えるようになったけど、彼は同じ古都地区に住む。

 えっと、名前は分からない。

 だけど顔見知りの男性だ。年はもう36だと言っていた。


 にしては若々しく見えるが……。確か就職するから一度家を離れると言っていた。

 

 「ああ、えっとニートさん」


 彼の名前は知らなかったため、私は彼をニートさんと呼んでいた。

 自分でそう呼んでくれと言っていたので、遠慮なくそう呼んでいた。


 ニート。つまり働いていないという意味。

 そう、彼は一度も他所で働いた事のない筋金入りのニート中年だ。

 本来ならそんな人物。要注意人物としてマークしてしかるべきだが。


 しかし彼は礼儀正しくおっとりした性格で、挨拶も良くする為付き合いがあった。

 それと、ボサボサの髪と髭に隠れてはいるが。まぁ、顔もかなり良かった。

 彼は古都地区の外れで仙人のような暮らしをしていたが。


 最近バイトをするとかで身なりを整えて出かけたのを覚えている。

 それが、帰ってきたようだ。彼の事を見る。

 見る……。


 う――ん。


 前から元は良いと思っていたけど、こうもしっかり整えると……。

 もの凄く……。良い男じゃないか。


 柔和な笑顔に端正なマスク。おお。美青年だわぁ……。実際には中年だけど。


 「あのぉ――――」

 「あ、は、はい。なにかしら?」


 思わず見とれてしまった。

 まさかこんな美中年だとは。本当に36か? なんかちょっと変な趣味に目覚めそう。

 25歳主婦。 7歳の息子を持つ私がこんな年上のごく潰しにっ!!

 ビクビクっ!! なんて。


 「どうもこんにちは宮田さん」

 「あらご丁寧に、どうもこんにちはニートさん」


 まずは丁寧に頭を下げてご挨拶する。

 彼はニートだが礼儀作法は心得ており、実に美しい挨拶をする。

 ニートではあるが、恐らくかなり良いところのおぼっちゃんだったのだろう。


 ニートさん。久しぶりに見る。

 最近見てなかったが、何をしていたんだろう?

 ああ、仕事か。住み込みの仕事でもしていたのだろうか。

 ニートからバイトへ。彼も少しずつだけど進んでいるんだなぁ。

 

 っとすればいずれは彼女も出来そう。

 こんなに美形なんだから。私も立候補しちゃおうかしらっ!!

 ……冗談冗談。


 「あのぉ宮田さん。こんな事聞くのはアレですが」

 「ああ、はい?」


 ニートさんが何か聞きたげだ。何だろう改まって。

 

 「ここに壊れたテレビとか置いてないですかね?」


 うん?


 「実はテレビがウイルスに感染して回収してるとかで」

 「それでテレビ取られちゃって……」


 え?


 「だから映らないテレビとかで良いから。無いですかねぇ」


 え、テレビがウイルスとか。その話って。


 「ああ、すいません。現在回収中でして」


 傍の回収業者の男が反応した。ニートさんはそれに気づくと残念そうな顔を見せた。


 「ああ……。そうなのか。とほほー。テレビ必要なのに……」

 「ご迷惑おかけします。全市民のテレビを回収しろとの命令でして」


 「あらぁ。大変なお仕事ですねぇ。えっと、テレビ。戻ってくる予定はぁ」

 「今のところありません」


 「あらぁ……。残念ですぅ」

 「申し訳ありません。市民の皆様の安全の為ですので」


 「あうぅん……。はぃい……」


 実に情けない声を出してニートさんがうな垂れる。

 いやほんと良い男……。じゃなかった。

 いやほんとに36か? 見た感じ10代でも通じるような……。

 なんかスキンケアしてるのかしら。


 じゃなかった。


 なんだ。


 しっかり他所も回収されてるのか。

 しかもあんなへき地のニートさんの所まで。


 先ほどまで色々と勘ぐって悪い妄想を巡らしていた自分が恥ずかしくなった。

 テレビの回収。全国規模でやっていたのか。


 「申し訳ありません。ああ、そうだ。回収の暁には」


 男がポケットから何かを出してきた。


 「国からの引き取り賃として10万円分の商品券をお渡ししていて」


 それを早く出せ。

 

 「えっと、それってテレビ1つに付き?」

 「はい勿論です」


 乗ったっ!! そういう話なら預けちゃおうじゃないか。

 テレビ1つとで10万円。ウチのは2万円で買った格安の奴だ。


 それが10万円になるとは。実に効率が良い。


 「えっと、それで回収の方は」

 「はい、持って行ってください」


 隣でニートさんが残念そうな顔をしているけど。

 ここは仕方ない。涙をのんでテレビを渡そう。


 いやぁ、しかしニートさん。本当に。


 良い男だわねぇ。


 

 ◇ ◇ ◇

 


 「では宮田さん。それでは」

 「はいニートさん、ごめんなさいね。テレビ渡せなくて」


 「いやぁ、駄目元で頼んでみただけですので」

 「あはは。10万円には敵わなくて」


 「ふふふ、かくゆう俺も貰いましたからね」

 「そうよねっ!! 今夜は家族とノア地区でお寿司でも食べにいこうかしら」


 その言葉を聞いて、ニートさんの顔が少し暗くなる。

 憂いを秘めた表情……。


 やばいやばい。ごく潰しのニート男性に目移りなんて。

 でも身支度を整えた彼がここまで美形とは。


 もういっそモデルにでも転向したらどうだろうか。

 なんて考えながら去る彼の背を見守る。


 あとで他の家族が戻ってきたら彼の事を教えてやろう。

 ああ驚いた。そうよね。


 みんなが居ないなんて、そんな事ある筈ない。

 だってあのニートさんだって帰ってきたんだから。


 そういえばノア地区に出張していた旦那も今日帰ってくる筈だ。

 息子もノア地区の合宿から帰ってくる。

 今日は皆揃う日。臨時収入も入ったし、豪勢な食事を取るかっ!!


 そう考えて、家に。


 「ちょっとそこのモブ主婦」


 モブ? なんだ?


 声の方を見ればそこには青髪の小さな子供。

 なんだ?


 なんかモブ主婦とか言われた気がしたけど。

 彼女はこちらの返答を待たず、言葉を続ける。


 「この辺りに鷹司京介って男が居る筈だけど、知らないかしら」


 彼女は問う。私は答えた。


 「ごめんなさい。知らないわ」

 

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