番外 とある清掃業者達の一幕。
「なんだこりゃあ……」
「これを、片付けろって言うのか?」
「う、うう……」
「うげぇええええええええええええっ!!」
「おい、吐くなよ」
「んな事言ったって……。こ、こんなのっ!!」
とある清掃業者達が現場入りした。
ノア地区で起きた「事件」の後処理をする為に雇われた清掃業者の一団。
その数1万人以上。国中の業者が集まったのでは思うくらい大規模な人間が集められ。
「清掃」の為に首都の大地に降り立った。
現在ノア地区は立ち入り禁止となり他地域からの出入りは出来ない状態となっていた。
今そこに立ち入れるのは清掃業者だけだ。
国中。大小の掃除業者が招集され、こうして一斉清掃の為に呼び出された。
その報酬は驚くほど高い。
末端の従業員にも3桁クラスの報酬が支払われる大変美味しい仕事。
だと思ったのだが。
「なんだよぉ……。こりゃあ」
彼らが見たのはかつて街だったであろう通り。
そこにはびっしりと……。
びっしりと「赤」だった。赤くない場所を探すのも大変なくらいに。
赤。赤。赤。
そりゃあ。もう。赤かった。
そして焼き肉屋でしか見られないようなものがそこらに……。
「うげぇええええええええ――っ!!」
「うわ、お前も吐くなよっ!! 仕事が増えるだろっ!!」
「だってよっ!! これってっ!!」
「まぁ……」
「モツ。だよなぁ」
そこには大量の「モツ」が。サイズだけでも乗ってきた車より大きい。
いや。車なんて比べ物にならないだろう。
そのモツは首にかける花のように、ビルに覆いかぶさっていたり……。
「何があったんだよいったい……」
「おいっ!! ビルの中も……。酷いぞ」
「なんだこれ……。うげっ!!」
「これは……。血、だよな?」
「腕とか転がってる。でも人間の腕にしてはデカすぎないか?」
「これは女の顔か? うわぁ。醜い顔……。なんだ。こりゃあ目が見開いてるぜ」
「こっちには……。脳みそ露出してる。化け物、か……?」
「それだけじゃねぇ」
「人……。これ人じゃねぇかっ!?」
わぁわぁ。と地区に入り込んだ業者達がその惨状に色めき立つ。
いずれも若い業者達。
そんな若い彼らをよそに中年業者達は慣れた様子でトングで「残骸」をゴミ袋に入れていく。
「ちょ、ちょちょちょ、清原さんっ!!」
その様子に若い衆は驚いた様子を見せるが、若くない者達は次々と残骸を袋に入れていく。
黙々と。黙々と。
まるで「一度」経験した事があるかのような仕草に、若年者達は少し背筋が冷たくなった。
彼らは何も言うでなく残骸を拾い、床を高圧洗浄機で洗浄する。
「あ、あの……」
若者達は何かしら言おうとするが、テキパキと作業を進める年長者達に何も言えなくなる。
そうして。
静かな清掃の時間が始まった。
黙々と目の前の「ブツ」を清掃していく。
長い間その場に居た事で匂いも次第に慣れてきた。
皆がその作業に慣れ始めた頃、突如大きな音が聞こえる。
何事かと若い衆が音の方へと向かう。そこは会議室のようだった。
そこにあったテレビを、業者の1人がハンマーを使って破壊している。
「宮田さん。何やってるんですか?」
「テレビは見た瞬間壊して運んでおけ。一台1万の臨時収入があるぞ」
「1台1万円っ!? そりゃあ美味しいっ!!」
「でも」
なんでそんな事を。っと言う間も見せずに、まるで親の仇が如く。
テレビは粉々になっていく。
「そこまでしないと駄目なんですか?」
「いや」
「ただ、画面を壊しておけ」
「画面……。はぁ」
テレビの画面を壊す。一体どんな理由があるのだろう。
だが1台壊して1万円は美味しい。
あれ? でも壊すよりそのまま持ってって換金した方が。
「そのまま持って行って換金しようなんて思うなよ」
「今は中古業者にテレビの売買はするなと通達が来てる」
「だから持って行っても売れんぞ」
「ええ……?」
テレビが売れないとはどういう事だ? テレビが一体何をしたって言うんだ?
国はテレビになにか恨みでもあるのか?
そもそも。そもそもだ。
街の住人はどこに行った? 避難したって話だけど。
街の人達が避難したなら、この惨状はなんだ? この赤いのは?
そこら中真っ赤で。色々と転がっていて……。
本当に、住人は避難、したのか?
「アンノウン……」
「は、はい?」
「来てくれて良かった……。ああ、なんとか首の皮一枚」
「え?」
アンノウン。アンノウン、とは……?
「あの、アンノウンって」
発言の意味を探ろうと声をかけるが、相手は既に別の作業に移った為出来なかった。
アンノウン。その意味を考える。
アンノウン。えっと、言葉の感じから英語か?
英語……。
英語、ねぇ。
「分からんわ。英語なんて」
彼にその意味は分からなかった。
彼自身に学がない事に加え、英語圏の国は既に絶滅している。
英語を習う意味など皆無に等しい。
今はただカタカナ語の一種として残っているだけに過ぎない。
だから彼がその意味を知る事は無かった。ただなんとなく。
言葉の感じはカッコいい。そんな風に軽く考えながら。
彼らはビルの清掃に勤しむのだった。
勤しむのだったが。
「このモツって結局何のモツなんだよ……」
その答えが出る事は……。これからずっと先の出来事だ。




