第94話 市街戦。市街戦は苦手だぁ。でもウォーカー君となら……。行けるかな?
「くそっ!! 来るな来るなっ!! ぐぁっ!!」
「なんで、なんでこんな倒れないんだよぉおっ!! このぉっ!!」
「ああ……。射撃訓練じゃなくて剣の訓練の方が長かったのはこれで原因か……」
「くそっ!! 近づいて斬れっ!! 離れると尻尾で吹き飛ばされるぞっ!!」
「ブレスの兆候……。お、オペレーターさんっ!! こっちに障壁をっ!!」
「ああくそっ!! 銃身が溶けてったっ!! 弾が転送されるからって撃ちすぎたっ!!」
「なによ銃なんて、てんで役に立たないじゃないっ!! 切った方が早いわっ!!」
「ともかく攻撃だっ!! 攻撃をし続けろっ!!」
「足だっ!! 足を徹底的に狙えぇえええええ————っ!!」
市街中心部。宇宙船ノア付近で現在激しい戦闘が続いていた。
殆どの戦闘員には実戦経験はない。それでもなんとかやってこれてるのは。
「オペレーターからの連絡っ!! 増援来るぞっ!!」
「増援っ!? 次はどこの店員っ!?」
「近くの商店街からの義勇兵だっ!! 少ないけど「経験者」だっ!!」
「よしっ!! 少なくとも逃げる心配はないわねっ!!」
それは定期的に増援が来る事と。
「頭を狙っても意味ないぞっ!! まずは足っ!! 徹底的に足を狙うんだっ!!」
「再生しても怯まないでっ!! 限度はあるっ!! 攻撃し続けてっ!!」
「10人規模で小隊を組んでっ!! オペレーターの数が少ないっ!! 指示要請は控えめにっ!!」
「大人」が頑張ってくれているから。
何らかの薬剤で身体を若返らせた大人達が薬を使って巨大化し共に戦ってくれている。
薬に対しての耐性が無い為そのサイズは2、3メートルと小さいが。
ともかく怯まず戦いに参加するので大変重宝していた。
同じ規模の予備超兵は半分以上が逃亡する為使えるかは微妙だが。
義勇兵としてやってきた大人達は絶対に逃げない。
それが分かってから援軍がやってくる時、大人がくれば皆喜ぶようになった。
「ランチャー撃つっ!! 近接隊は離れてっ!!」
あれは確かラーメン屋の店主さん。随分若々しく見える。
彼も薬を使ってきてくれたのか。彼のロケットランチャーの一撃が怪獣にヒットする。
狙った部位は露出した足の骨。仲間の攻撃で骨を露出するのに成功したのだ。
ランチャーが骨に直撃する。
そして怪獣の骨が砕け。
「倒れたっ!!」
怪獣が倒れるっ!! やっと一匹っ!!
「怪獣が倒れたわっ!! 皆で突撃よぉおおおおおおお————っ!!」
倒れた怪獣に群がりながら一斉に攻撃する。
剣でその体に傷を付け、肉を抉っていく。敵怪獣が悲鳴を上げる。
それが「効いている」事を思わせ、周囲の兵士達の攻撃を苛烈にさせる。
まるで得物に群がる肉食獣のように。
皆々、醜悪な顔をしながら怪獣の体を傷つける。その中に、私も居た。
柊智代 私もその中の1人だ。
ようやく得たチャンスを掴もうと、一心不乱に怪獣の体を切り続ける。
体は既に怪獣の血肉で真っ赤に汚れている。
しかしそんな事気にしている暇はない。
こいつ等を。怪獣を……。なんとか倒さないとっ!!
(怪獣討伐1っ!! ご苦労様、その怪獣は死亡したわっ!!)
頭の中から声……。やったっ!! 怪獣を……。やっと怪獣を倒したっ!!
やっと。ああ。やっと1匹を……。
「司令室っ!! 怪獣はあと何匹居るのっ!?」
部隊指揮官の重治中尉がオペレーターに尋ねる。他の隊も、誰か倒していてくれない、かな……。
(怪獣総数38っ!! おめでとう貴方達が討伐一番よっ!!)
オペレーターの言葉。恐らくこちらの士気向上を狙っての言葉だろうが。
戦闘前の総数が39だと言う事から考えれば。
あれから1しか討伐出来ていないという訳で……。
その事実に気付いていたであろう他同僚もため息を付いている。
あれから……。どれだけ戦っただろうか。
かなりの時間戦っている筈だ。にも関わらず討伐1とは……。
「20分戦って討伐1。とは。幸先が良いじゃないっ!! 貴方達優秀ねっ!!」
20分っ!? 嘘っ!! もっと戦ってると思ったのにっ!!
「まだまだ怪獣は残ってるわっ!! 見つけて討伐していくわよっ!!」
「これだけ攻撃してやっと1匹……。これがあと38匹ですか?」
現状にうんざりした同僚が隊長に問う。
私だってそう思ってる。あと、38匹も怪獣を……?
「これでも少ない方よっ!! 2桁である事を幸福に思いなさいっ!!」
2桁で喜べ。つまり全盛期は3桁以上来ていたという事か……。
こんな。こんな戦場が……。
(待って。そっちに貞子の群れが迫ってるっ!! 地下から来るっ!!)
(7時の咆哮っ!! 地下マンホールからっ!! 接敵まで10秒。気を付けてっ!!)
オペレーターからの宣言。皆武器を剣から銃に持ち替えて構える。
近くの2m級部隊が拠り固まって臨戦態勢を取る。
若返った大人で構成された義勇兵。
予備にもかからない超兵未満という事もあり、そのサイズは予備兵より小さい。
しかし彼らは「慣れている」
貞子襲来の報告を聞いて、接敵予定に銃を向けて準備をする。
義勇兵に合わせて予備超兵の3m部隊も持ち場に付く。
義勇兵に比べて、練度が低いのは明らかだ。
それを見て一瞬恥ずかしくなった。だが今はそんな事考えてる暇はない。
(接敵まで5、4、3、2、1。貞子来るわっ!!)
「撃て撃てぇええええええええ————っ!!」
隊長の号令と共に一斉射撃が始まる。
地下マンホールから這い出てきた貞子の軍団は出た瞬間銃撃を浴びせられ細切れになる。
何匹に、何匹も現れては退治される。しかし何匹倒しても湧き出てくる。
数が多い。100体以上は居るんじゃないか?
こんなのが地下から? もしやまた湧いているんじゃないのか?
そんな疑問が浮かんだが、歴戦の大人達曰く。
「数が少ない……。マリスは倒されと思って良いわね。流石アンノウン手際が良いわ」
彼らからすればこれはかなり少ない。らしい。
100体以上の数が少ない。とは……。ならば「本来」はどうだったんだ?
過去の事情を考えて、一瞬背中に悪寒が走る。
これ以上の戦場など……。想像できない。
人類の9割を死滅させた戦争。今でも大変なのにこれ以上の戦いなど……。
想像が出来なかった。
(貞子。まだ来るわっ!! 反対側っ!! 地下隔壁を押してる……)
(地下の人達を殺したやつね……。数多いっ!! 気を付けてっ!!)
「お、多いって……。ど。どれくらいですかっ!?」
(約2千っ!! 近くに武器ポッドを射出するわっ!! 使ってちょうだいっ!!)
オペレータの声と共に近くのポストがせり上がり、武器入りコンテナがせり出した。
それぞれそこから武器を取り出して貞子の襲撃に備える。
(武器の弾は自動で銃に転送されるけど撃ちすぎると銃身は溶けるわ)
(だから傍に予備の武器を用意しておいて。貞子、来るっ!! カウントダウンっ!!)
(5、4、3、2、1……。来るわっ!!)
声と共に地下から多数の貞子、他多数の化け物達が湧いてきてその場にあふれ出す。
わらわらと長い手足の目隠れの化け物やホッケーマスクの怪人。
脳が露出した舌の長い四足や顔だけの化け物。
まさに百鬼夜行とばかりに、おぞましい化け物が次々と湧き出てくる。
「数が多い……。こんな、こんなのっ!!」
その多さに動揺が広がるが、しかし大人達は我関せずとばかりに銃を撃ち続ける。
新平達もその空気に流され、無心で銃を撃ち続ける。
貞子達はまず小さい方を狙う。
だから私達のような正規超兵は横から口径の大きい銃を撃って支援する。
狙われない。という安心感からやや気持ちに余裕があるが。
しかしこれがもし予備兵側だったらと思うとぞっとする。
だがそんな事を気にせず、大人達は弱音すら吐かず最前で銃を撃ち続ける。
新兵達にはそれにおっかなびっくり合わせ、なんとか着いていっている。
大人達は、みんなどこか見知った顔。
美容院の店主だったりタコ焼き屋の店主だったり。
それが若返って精悍な顔で銃を撃ち続ける。
頼もしいっ!! っと思う反面。
若返った彼らは、今後どう生きるのか?
ともよぎる。
経験も実力も、何もかも現役世代より勝る彼らが再び社会に復帰したら……。
だが今はそんな事を考える暇はない。
敵を……。敵を倒さなければ。
「銃口が溶けたっ!! くそっ!! くそっ!! つ、次っ!!」
「わ、わ。多い……。多いよぉおう……」
予備兵側を見ればじりじりとだが若年兵が後退している。
後退する彼らを他所に老兵たちが秩序良く銃撃を続けていた。
「歴戦」その名に相応しい動きぶり。これが「30万」の内に残った人々の実力か。
自分達の世界は……。
薄氷の上に成り立った奇跡。そうずっと思っていたが。
だけど。
その薄氷の上に降り立つだけでも、やはり苦労はあったんだ。
って。
今更ながら、大人達の苦労が分かり出した。
そしてその苦労は過去、もっと酷く……。
みんな、みんな苦労して、生き残ってって……。
みんな。
みんな?
それなら……。
あの人も?
(貞子掃討完了っ!! ご苦労様っ!! 他怪獣の討伐に戻って頂戴っ!!)
どうやら考え事をしている間に終わったような。
ただ黙って撃っていただけだったが、なんとかなった。
義勇兵の活躍もさることながらオペレーターの補佐を見事だった。
聞こえる声から一人で回している事を思わせる。
しかしそれでも的確に指示を出しこちらをサポートしてくれる。
私達の同年代だろうに、こんな優秀な子も居たんだ。
頼もしい……。
良かった、私達世代も捨てたもんじゃない。
ちょっと気分が回復してきた。この子の為にも恥の無い戦いをしないと。
時間はかかるだろうが、一匹ずつ確実に倒していけば……。
(ごめんっ!! 悪いけどっ!!)
なんだ?
(援軍に向かって頂戴っ!! データーにないタイプが居るっ!!)
「データにないってどういう事かしら?」
(こちらの攻撃が効いてない? バリアのようなものを張っている注意してっ!!)
バリア? 今までは攻撃だけは通じていたが、バリアとは……。
ともかく現場に向かわないとっ!!
◇ ◇ ◇
「なんだこいつっ!! 銃が通じないっ!!」
「薄いバリアみたいなのがあって……。剣も通さないっ!!」
「なんだこいつっ!! 司令部っ!! 司令部こいつは何なんですっ!?」
現場の超兵達が敵と対峙している。
彼らが戦っているのは何の変哲もない50m級の大型怪獣。
サイズも形も他とあまり変わらない。
だが唯一違うところは。
「攻撃が通じない個体……」
「まったくの新手です。今までこんなの種は居なかった」
司令室。そこで面々が議論する。新手の怪獣、攻撃が通じない。
今までどんな攻撃も通じてはいた。
しかしその攻撃すら通じないとは……。
「マリス復活に際して、新たな特性を得てやってきた。そういう事か?」
「どうなんでしょうか。アンノウンは普通に戦っていましたが」
「特性を得たけど、彼の攻撃を弾くには至らなかった。そういう事でしょうか」
「さぁな。ともかく今はありったけを与える」
「部隊を集中させろっ!! 他は良いっ!! まずは奴を倒すんだっ!!」
「良いのですか? 陣形を崩せば挟み撃ちにあう可能性も」
「他地区から兵を集め大規模部隊を形成中だ。今ある部隊が全滅しても」
「…………了解しました」
司令の意図を理解し、オペレーターがその指示を伝えようと。
しかし。
「待ってください。何かが……。これは、えっと援軍?」
「どうした?」
「映像、映します」
「これは?」
司令が見たものは卵型をした5m規模のロボットだった。
「機動兵器か? 識別は?」
「機体から識別コードを読み取り。これは」
「ウォーカー。戦術歩行兵器研究所の試作兵器です」
「そんなもの……。早く下がらせろっ!! 平時に作られた子供のおもちゃなどっ!!」
「あ、待ってくださいっ!! ウォーカーっ!! え……」
「ウォーカー……」
敵怪獣。
討伐数1っ!!
よ――しっ!!
ウォーカー君、さぁ一緒に頑張ろうねーっ!!




