第88話 決戦 (2)
「きひひひひひひひひひっ!! ひひ、ひひひっ!!」
「そうだ。僕は強いっ!! 僕は」
「僕は誰よりも強いっ!! 僕がマリスの中でもナンバーワンなんだっ!!」
「だから恐れる必要はないっ!! 僕がマリスっ!! ひひ」
「そうだっ!! 僕が一番強いっ!! 僕こそがっ!!」
「僕こそがマリスっ!!」
「だからっ!!」
「全てを「相互理解」してやるっ!! 相互理解してっ!!」
「この世の楽園を築き上げるんだっ!!」
マリス。宇宙に飛ばされた彼は。来るべき「友」と語り合う為に準備をしていた。
己の中の全てを使い、体内の全てを「要素」を解放して。
彼は宇宙にあってその力の限りを尽くし、ありったけの怪獣を作り続ける。
「きひひひっ!! 良いねぇ。「魔力」 これは便利だっ!!」
「いくらでも湧いてくるっ!! いくらでもあの世界にあったっ!!」
「魔力。これがあるからこうやって地上にも帰ってこれたっ!!」
「きひひひひ。魔法。魔力。力が抑制する作用はあるが、魔力がない「ここ」では無問題だっ!!」
「これで全盛期の力を取り戻せるっ!! ひひひひひ。皆に良い報告をしてやろうっ!!」
「宇宙は。世界は。この世全て」
「全て、マリスの物だっ!! マリスこそが全ての生命の頂点っ!!」
「この世をマリスで満たすのだっ!! きひひひひひひひ、きひひひひひひひひっ!!」
「だから」
「だから俺の心を騒がせるのはやめろっ!!」
「アンノウン・ゼロっ!!」
マリスは見る。地球の傍にある小さなステーション。
その上に立ち、こちらを見据える「奴」の姿を。
こちらの数は出せる限りの怪獣を出して、もはやどれだけ出したか数える事すら出来ない。
そもそも。
なぜこんなに出した?
マリスはなぜこれほどまで自身が「アレ」を警戒するのか分からなかった。
だが最初に対峙した時の。
あの背中を駆け巡る、冷ややかな感情の発露は。
今まで一度だって感じた事の無い。
気持ち悪く、ゾッとするような激しい悪寒だった。
それがあるから?
いや違う……。
自分はただ。
「きひひひひひひひひっ!! なんでも良いやっ!! ともかくだっ!!」
「僕は強いっ!!」
「僕はどこまでも強いっ!!」
「なぜなら僕はマリスだからっ!! マリスこそが世界の頂点っ!!」
「マリスこそが、この世から争いを無くす救世主なのだっ!!」
「だから、貴様等弱き種族は……」
「我らマリスに従い、そして朽ちろぉおおおおおおおおおおお――――っ!!」
マリスが出現させた全ての怪獣を一斉にステーション上の。
「奴」へと向かわせる。
正直やりすぎかな? っと思う程の戦力差。マリスとは本来遊び、楽しむ事こそが矜持。
そんな矜持を捨ててまでこんな事を。
っと思いつつも、彼は全力を挙げて目の前の敵を屠ろうとする。
圧倒的な優位を持って。
自分の中にあるしこりを取り除きたかった。
そういえば地上に出る際、言われた言葉があったのを彼は思い出した。
さてそれはなんだっけ? なんて考えながら。
彼は目前の殺戮ショーを楽しむつもりだった。
圧倒的な戦力で個人を撃ち滅ぼす。そんなのも良いな。
そうニヤリと笑い事の次第を見守って。
結果、向かわせた怪獣の一陣が消え去った。
「きひ……?」
マリスは見た。
ステーションの屋上。その上に立つ「奴」が。
地球よりも大きい光刃の刀身を出して向かう怪獣全てを切り払ったのだ。
「きひ……? きひ?」
状況を把握するのにしばらくかかった。
数で言えばもはや「兆」はくだらないであろう数。その数の怪獣があっという間に消滅した。
たった1人の。あんな小さな人間に。
圧倒的な数の怪獣が瞬時に消滅させられたのだ。
あんな簡単に?
「きひ……。きひ……」
「きひひひひひひひっ!! な、舐めるなよ人間がっ!!」
「生意気っ!! 生意気っ!! 生意気なんだよ人間がっ!!」
「俺はマリスっ!! 俺達こそ宇宙最強っ!! 貴様等は俺達マリスに恐れおののき死んでいくのが」
「正解なんだあぁあああああああああああ――――っ!!」
今度は本気。とばかりマリスが今まで待機させていた分併せ、全ての怪獣を向かわせる。
宇宙を彩った数々の色がたった1つの黒を塗りつぶそうと向かっていく。
その様子をステーションの内の彼女も見ていた。
「ひぃっ!! ひぃいいいいっ!! て、敵怪獣っ!! 一気に」
「一気にこっち向かってきますっ!! こんなの、こんなのぉおおおっ!!」
(大丈夫、そちらにはアンノウンが居る)
(ならば、全てを任せなさい)
またそれだっ!! 彼女は憤っていた。
声を上げ、抗議してもあちらはアンノウンが居るの一点張り。
恐らくステーションの上に居るのがアンノウンという存在なのだろう。
先ほど何か大きな光を出して敵怪獣の一部を消滅させたのは知っている。
だが。
いま対峙している敵。それは全てだ。
その総数110兆。その規模の怪獣が一斉にこちらに向かってくるのだ。
ステーションのガラス越しに見える光景は何かしらの映画を見ているかのようだ。
無数の色の怪獣がこの小さな宇宙ステーションに集結してくる。
宇宙の黒を鮮やかな色の羅列へと変色させた。
怪獣という色達が一斉にこちらの向かってくる。「その先」の光景は……。
ああ、終わりに決まってるっ!!
「やだぁあああっ!! 恋人も出来ないで死ぬのはヤダぁあああああっ!!」
「素敵な恋人との楽しい夜も結婚生活も出来ないなんてぇえええええ」
「今まで貯めた貯金で思いっきり贅沢するつもりだったのにぃいいいいいい――っ!!」
「私、私の人生設計が……。やだ。やだ……」
「こんなところで死にたくないぁあああああああああ――いっ!!」
彼女は泣き叫ぶ。恐れおののく。ジタバタとステーション内部でのたうち回る。
感じる死の恐怖。
近くに人が居るのを知っている。だが尚、彼女は無様に慟哭するのを止めない。
死にたくない。生きていたい。
そんな思いを爆発させて彼女はその場で騒ぎ続ける。
喚き立つ彼女の事など我関せずと向かってくる怪獣と。
同じくそれを迎え撃つアンノウン。
敵が来る。アンノウンがそれを迎え撃つ。彼は片手をまっすぐ正面に向けた。
それだけだった。
向かってきて怪獣の大勢は小さなブラックホールのような球体に吸い付かれ。
次々と。次々とその球体に吸い込まれていく。
幾千万の星々のように宇宙を彩っていた怪獣達は、大きな1つの惑星のように固まり丸まっていく。
それは星々が消えた太陽系の新たな星として加わったかのように。
混ぜ合わされた沢山の色の束となってそこに押し込められていた。
「な、に……?」
彼女がそれを見る。もう騒いでいない。だって先ほど居た怪獣達は……。
どこに行った? 先ほどまであった筈なのに。
なにも、なにも……。
全てが消えた。先ほどまであったのに。
それが、全て消えて……。
アンノウンが。
ふわりと、ステーションから離れる。
そして。
そのままその怪獣の球の方へと向っていった。
「きひ……?」
その様をマリスが見る。
あれほど居た怪獣はどこに行った?
全ての怪獣が急に吸い込まれて、大きな球になった。
それで。
それで……?
前に球がある。
おっきな球。
その球が弾けて。
弾けて。
拳を上げた「何か」が急速に向かってきた。
「きひ………」
「きひぃいいいいいいいいいいいいいい――――っ!!」
とっさに残された力で巨大な怪獣を出す。それは地球よりも大きい。
だがそんな大きな怪獣もあっという間に爆散し、その爆風の中を。
アンノウンが。向かってくる。
再び怪獣を出そうとマリスが気を張るが。もはや目前のそれは止まる事が無かった。
「来るなっ!! 来るなっ!! 来るなぁああああああああ――っ!!」
思わず無様に声を出す。マリスの自分が、このような無様を晒すとは思ってもみなかった。
アンノウンが近づいて。
マリスのどてっぱらに一発。拳をぶち込んだ。
「ぎぃいいいいいいいいいい――――――っ!?」
体の中にある全ての防御機能が吹き飛ばされた。
マリスの体に中には「芯」がある。
その芯が壊されない限りマリスは不滅だ。
芯は幾多の防御機能に包まれ、それは核兵器の連発を喰らって芯まで届くような事は無かった。
それがマリスの強さ。
この世に「物質」がある限りマリスは防御機能をいくらでも回復させ命を保つ事が出来た。
全ての生物を、物質を取り込んで。いくらでも再生。復元する。
それがマリスという生命体。
そのマリスの心臓部たる芯を守る防御機能。
それが全て破壊され、彼の芯に傷が付く。
一撃で。
本来なら。
宇宙艦隊の一斉砲撃を浴びても傷つかない芯の防御部が。
「きひ……。きひぃいいいいいいいいいいいいい――――っ!!」
自らを守ろうと新たな怪獣を出し向かわせたが、既に多くの力を失っていた。
出した怪獣は今までよりもだいぶ小さい。
と言っても4、5万mはあろうかという巨体。
だがそれがどうしたとばかりにアンノウンの張り手を喰らい。
明後日の方向へ弾け飛んだ。
マリスはその様を見て慌てて新手を繰り出すが、もはや出す全てが小勢でしかなかった。
その全ての手ごまを破壊され、彼の眼前にアンノウンが。
居た。
「き。きひぃいいいいいっ!!」
アンノウンの強力な一撃が彼の顔面に直撃する。
「ぐぎゃああああああああああああああ――――っ!!」
マリスは。
殴られて、どこかに飛んで行った。
「えっと……」
ステーションの彼女がその光景を見る。
先ほどまで計算機が悲鳴を上げんほど怪獣が居たその場は。
ほんの数分前と同じように。
何もない静寂な宇宙へと戻っていた。
まるで全てが幻想であったかのように。
そこには、何もない。
「は……。あれ?」
夢を見ていたような面持ちで、彼女はその光景を見る。
一瞬長くまばたきをしてから……。また、見る。
見るが。やはり何もない。
計測器で怪獣を計測しても、そこには。
「怪獣数。0」っと空しく表示されるだけだった。
何も。もう本当に何もない。
兆の数を提示していた筈の戦場は。
ほんの数分の決着で、元の更地の宇宙に戻っていった。
その様子を。
やはり、彼女は見る。
見るが何にも変わらない。
先ほどの事は……。
「ゆめ、だった?」
(観測所。状況は?)
司令部から連絡が来る。
どう。と言われても、彼女には1つしか言う言葉がなかった。
「えっと……。敵怪獣。えっと、その……」
「全滅、しました」
先ほどまで狼狽し慌てふためいてた癖に、急に敵は全滅、などと。
なんて言われるか。そんな事を考えいた彼女だった。
しかし言われた方はあっけらかんとしたもので。
(そう。他残存マリスの様子はない?)
マリス? マリスとは何だろうか。
しかし今は深く考える余裕がなく、彼女はただ。
「て、敵残存はありません……」
(そう。なら敵マリスは1匹。いくらS級クラスといえたかだか1匹なら)
(アンノウンの敵ではない)
敵。ではない? あれほどの数の怪獣が?
いや、でも。
その言葉は、真実であろう。と彼女は思った。
だってもうそこに怪獣は……。
(ご苦労。貴方は通常の業務に戻って良いわ)
「え、あの……。なにがあって……?」
(ごめんなさい。いま立て込んでるの。話はあとで)
(敵残党がまだ残ってる。その相手をしないとね)
敵残党? ならば地上にも敵が?
(大丈夫)
(アンノウンが居るなら)
(英雄が居るなら)
(我々は生き残るわ)
それだけ言って、声は届かなくなった。
通常の業務に戻って良い。
あれだけの事があったのに?
でもよく考えてみればもうそこに脅威なんて無くて。
無くて……。
無い。もう、全てが終わり?
実感が湧かず。ぼーっと放心しながら。
彼女は。
取っておいたアイスを取り出して、その場で食べだした。
◇ ◇ ◇
「きひひ……。ひ、ひひ……。ぐ、あ……」
「ようやく大人しくなったか」
「さぁ久しぶりのお客様」
「話し合いをしようか」
「そう。あんたらの大好きな」
「相互理解ってのをな」




