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魔王に囚われて異世界から英雄(ヒーロー)を召喚した王女様。間違えてゲームのキャラを召喚してしまった。  作者: 宮森 英二
悲哀っ!! 正社員激闘編っ!!

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第82話

 

 追われている。

 

 2人は追われていた。

 ただひたすらに逃げる。


 逃げる。逃げる。

 逃げる……。


 が。


 「うぉおお――――――――――い」

 「まぁああああてぇ――――――――」

 「きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」


 追いかけてくる。

 ピエロの恰好をした男に。


 追われているのは……。


 「くそっ!! くそっ!! あいつ遊んでやがるわっ!!」


 1人は少女。名は三日月春美。博士号を持つ高名な技術者だ。

 そしてもう一人。


 「なんだ……。なんなんだよアイツはっ!!」


 もう一人は茂山たかし。11歳の男の子だ。


 2人は追われていた。

 追っているのは一人のピエロ。


 「それ」に見える「何か」だ。


 「きひひひひひひひひひ。ひひ、待て。待ぁああああああてぇえええ」


 ピエロは陽気な声を出し首を左右に振りながら軽快に近づいてくる。

 2人は全速力でそれから逃げようとする。

 ピエロは一見徒歩のように見える。


 しかし、ところどころ瞬間移動するような動きを見せ。

 2人に付かず離れず、一定の距離を保って追いかけている。


 「なんなんだっ!! なんなんだよアイツはっ!!」


 逃げながら、たかしは追っている存在の正体を聞く。

 共に逃げる少女。春美はその正体を知っていた。


 「マリスよっ!!」


 マリス。たかしはその言葉を聞いた事が無かった。

 マリスとは。一体何なのか。


 「マリスはっ!!」

 

 再び問われるだろうと先を読み、春美に語り始める。

 マリスとは。


 「きひひひひひ。ほ~~ら♪」

 

 しかしその答えを阻止するかのように。

 背後のマリスは指をクルクルと回すと、彼らの頭上にあった信号機が落ちてきた。


 「わ、わぁっ!!」

 「ひゃあっ!!」


 それに驚き、尻餅を付く2人。

 マリスが楽しそうに静止しながら語る。


 「きひひ♪ だ~めだめ♪ こういうのは「正体不明」だから楽しいのさ♪」

 「だから余計な事言っちゃだ~~~め♪」


 マリスは楽しそうに首を鳩のように上下させている。

 その様はまさに道化。

 彼は楽しそうに、嬉しそうに。道化のように笑っている。


 「なんだよ……。本当にこいつは……」


 たかしは目の前の存在が分からなかった。

 人間、だと。思う……。時折瞬間移動しながら追いかけているのは知っていた。

 先ほど信号機を落としたのは何の力か。


 疑問は出る。しかしその疑問に答えはある。

 あの男は「PSI保持者」であると。PSIとはつまり超能力。


 そういう力を持つ存在が軍隊に居ると父に聞いた事がある。

 ならばあの男はその力の保持者で。


 「く、くそっ!!」


 たかしは腰のホルスターから銃を取り出し、目の前のピエロに撃った。

 警告などしない。もはや身を守るために撃つしかない。


 1発。2発。そうして何発も銃を撃つが、しかし目の前の存在は倒れなかった。


 「くそっ!! くそっ!! なんでっ!!」

 「止めなさい。弾の無駄よ」


 「でもっ!!」


 焦るたかしをよそに、春美は冷静だ。

 いや。


 諦めていると言って良い。


 春美は、諦めていた。

 

 「うう……。と、ともかく早く逃げようっ!! あいつが追ってくるっ!!」

 

 たかしは春美に手を差し伸べ、共に逃げようと誘った。

 しかし、春美は動かない。


 「駄目よ……」

 「なんでっ!!」


 たかしは声を張る。動かない春美の手を掴み、無理やり逃がそうとする。

 しかし春美は動かない。


 「早く。早く逃げようっ!!」


 一心不乱に春美を逃がそうとするたかしをよそに、春美は告げる。


 「私は、足を怪我したわ。もう歩けない」

 「怪我って……。お。おぶっていくからっ!!」


 たかしは春美に手を差し伸べ、共に。

 

 共に。

 っと差し伸べられた手を春美は振り払った。

 

 「逃げなさいっ!! 早くっ!!」

 「2人では行けないっ!! あんただけでも逃げるのよっ!!」


 「で、でも……」

 「早くっ!!」


 「逃げなさいっ!! 今すぐにっ!!」


 たかしは戸惑う。こんな状況で。

 「ヒーロー」ならどうするか。たかしは考える。


 昔父から聞いた言葉。この世界には。

 ヒーローが居るのだと。そんな事を聞いた事がある。

 

 それはテレビで見るライダーか。それとも戦隊ヒーローか。

 父は言う。

 ヒーローとは誰かを助ける事が出来る存在だと。


 そして俺に言った。

 お前も、そういう人物になりなさいと。


 ヒーロー。

 あんなに真面目で堅物なように思える父が言った。少年のように無邪気なその言葉。

 しっかりとした「大人」である父ですら心酔させるその存在。


 別に表立って言う事はないけれど、彼はそのヒーローに憧れていた。

 誰かを救う事が出来る。

 何かを成す事が出来る。

 そんなヒーローに。


 だから勉強も積極的に取り組み、運動だってしてる。

 クラスの係も率先して行い、それなりに。強くなろうと努力しているつもりだった。


 ヒーロー。英雄。

 そしていま。


 1人の困った女の子を前にして。


 彼は。


 逃げ出していた。


 ヒーローになりたいと願っていた。

 誰かを守れるほどの強い男になりたかった。


 だがそれよりも。


 彼は怖かった。

 「マリス」という存在が。


 訳も分からず、不気味に笑うその存在が。

 だから逃げた。


 立ち止まろうとした。

 それでも君を助ける。そんなかっこいい事を言って。

 彼女を担いで逃げたかった。


 だが出来なかった。

 

 だって怖かったから。

 怖くて。足がすくんで。


 賢い彼は分かっていた。

 この場で同じ年頃の女の子を担いで逃げるほどの。


 余裕はないと分かっていた。

 だから逃げた。

 だから見捨てたのか?


 良心がグルグルと腹の中を駆けずり回る。

 なりたかった。本来するべきだった己の行動と反比例するかのような。

 無様な今の自分を恥じながら。ただひたすらに。


 彼は生きたかった。そして本能のまま。たかしはまっすぐと走り出す。


 「うわあぁあああああああああああああ――っ!!」


 自然と声が出る。自然と涙が出る。自然と鼻水が出る。

 自然と汗が出る。自然と、足が動く。

 そう、全て「自然」がさせている事。


 そんな言葉を言い訳にして。

 

 たかしはただ逃げ出した。自然のまま。

 己が本能のままに。


 「化け物が……」


 足なんて怪我してない。

 ただ。


 なんとなくそうしたかっただけ。


 春美が、その場で立ち止まっている。

 周りに人の居ない。中心区の方を見ればそびえ立っていたビルの姿がない。

 ならばそこで戦闘が行われている事は容易に想像つく。


 彼女は「知っている」から分かっていた。

 マリスは遠隔で様々な事を起こせる。だから。

 

 だから。

 こうして「遊び」に興じていながらも、街の中心は大変になっているだろうと。

 

 街を思う。

 逃げたたかしの事を思う。


 思っても。

 どうする事も出来ない。


 自分が出来る事はいま殆どない。

 ウォーカーは未完成。

 量産化もまだ済ませていない。


 20年でだいぶ国力は回復したものの。

 マリスと本格的に戦う術など。


 いや。

 彼女は分かっていた。


 そもそも最初からそんな術など無かった事を。

 それでも。


 たとえ仮初でも。何か自分は成したのだという。

 そんな証が欲しかった。


 「真実」の歴史は本当におぞましい。

 それを考えれば夜も眠れなくなる。


 怖い。怖い。真実は本当に怖かった。

 だから眠らないようにした。

 自分で出来る事を考えた。


 それで良いと思っていた。

 でも。


 最近は……。


 「36歳の親父だったとは……。10代にしては随分落ち着いてると思った」

 

 春美は。考える。

 だが、その思考を止めて。


 覚悟した。

 最後に。


 「誰か」を救ったのだと言う。

 そんな。


 そんな幻想を信じながら。

 彼女は死にたかった。


 「ほらっ!! 来なさいっ!! 私を殺せば良いわっ!! ほらっ!!」

 「ほら……」


 マリスが春美の前を通り過ぎる。まるで興味がないかのように。

 その場を、堂々と素通りしていたった。


 「な、なに……。ほ、ほら私はここに居るわよっ!!」

 「きひひひひひ。お前みたいなのはつまらない」


 「やっぱり殺すなら……」

 「無様に泣き叫びそうなガキが良いなぁああああああああ――――」


 「きひひひひひひひひひひひひっ!!」

 「ああ、沢山沢山遊んでやろうっ!! 皮を剥いで目を抜いて頭だけにしてやろうっ!!」

 「ああ、そうだ。いっぱいいっぱい苦しめて。いっぱいいっぱい泣かせて」

 「死にたいと言っても殺さない。帰りたいと言っても帰さない」

 「苦しめて苦しめて苦しめて。ああ、そうだ。ガキには親が居る。親を見つけよう」

 「見つけてミキサーで砕いてそれを食べさせるんだ」

 「どんな顔するかな? どんな風に泣くかな」


 「きひひひひひひひっ!! きっと楽しいっ!! 楽しいっ!!」

 「ああ、楽しい。楽しい。そうだ。そうだっ!!」


 「これこそ」

 「これこそ「相互理解なんだっ!!」


 「きひひひひひひひひひひひひひひひぃ――――――――ひひひひっ!!」


 これが。


 話には聞いていたけど。


 これが……。


 マリスという存在か?


 「やめろっ!! 殺すなら私を殺せっ!! やるなら私にやれっ!!」

 「お前みたいなのはつまんない。つまんない奴はやらない」


 「やめろ……。やめろっ!! 民間人に手を出すなっ!!」

 「きひひひひひ。知らない知らないっ!! きひひひひひひひひひひーーっ!!」


 「やめろ……。やめろ……」

 

 心の中で少し安心している自分が居た。

 でも、それを認めたくなくて。彼女は叫んだ。


 自分にやれ。自分にしろ。子供に手を出すな。

 でもそう叫ぶ心の中に。


 やはり安心してしまっている自分が居て。

 彼女は。


 「やめろっ!! やめろっ!! やるなら私にやれっ!! 子供に手を出すなっ!!」

 「やめろっ!! やめろっ!! やめろぉおおおおおおお――っ!!」


 彼女は、ただ叫ぶしか出来なかった。

 本当は歩ける筈の足が動かない。本当は立ち向かっていける体力があるのに動けない。

 動かない。動けない。


 そんな自分に言い訳をするように。

 

 彼女は、ただその場で叫んでいた。


 「うわぁああああああああああああああああああ――――っ!!」


 最後に、思いっきり涙を流して。

 だがその心は。


 安心していた。


 

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