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魔王に囚われて異世界から英雄(ヒーロー)を召喚した王女様。間違えてゲームのキャラを召喚してしまった。  作者: 宮森 英二
悲哀っ!! 正社員激闘編っ!!

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第81話


 沈黙……。沈黙……。沈黙……。

 場は、静かに、静寂に流れていた。


 結城千鶴。

 結城財閥の次女。そう名乗っている彼女は。


 自社ビルの最上階。その部屋にある個室。

 彼女は今までずっと不思議だった。なぜ父の部屋にこのような空間があるのかと。


 そこは周りが鋼鉄で囲まれた空間。中には水や食料、そしてトイレやシャワー室などがあった。

 だがあるのはそれだけ。

 

 広く豪華な社長室の横。そこにある殺風景な部屋。それがある意味を。

 千鶴はずっと疑問に思っていた。

 

 今、疑問が解かれた。

 

 かつて疑問に感じた場所に、いま数人の人々が押し込められている。

 みな一応に見知った顔。会社の重役。そしてその家族だ。


 「ね。ねぇお母さま……」

 「黙りなさい」


 「うっ……」


 そこで一人の少女が母に問いかけ、それを一蹴された。

 彼女の家庭は知っている。両親共々とても子煩悩で。子供は大変ワガママに育っていた。


 それが。


 先ほど見せ、彼女の母親の目は。相当に暗い。

 その目には何者の拒む独特の凄みが感じられた。いつも彼女が子供に見せているような顔じゃない。

 母に拒まれた彼女が、近くに座る父のスーツの袖を掴む。

 だがその父も。


 「黙れ」


 ドスの効いた低い声で、父親も同様に静止する。


 「あっ……」


 味方を全て失い、少女は黙り込む。

 その様子を同じような年の男子も見ていた。


 彼は本当に悪童で。ワンパクで親のいう事など聞くもんか。

 などと考えているような子供だった。


 それが。


 周囲の空気に圧され、黙っている。

 彼が何か喋る度に、周りの大人が般若の形相で圧をかけてくる。

 それは彼の両親も同様だ。


 一度彼は冗談で大声を出そうとした。

 すると子供を溺愛していた筈の父親が彼の首を思いっきり絞め上げたのだ。


 彼の母親はそんな状態の彼の耳元で。

 

 「だまれ……」


 っと、小さく言った。

 それから、彼も大人しくなった。


 それから。


 誰も、何も言わない。

 

 静かな空間が。静かに流れる。


 ふと千鶴が横を見る。そこには父が居た。

 父は、千鶴の手を静かに握っていた。


 彼は何も言わない。他の者達と同様に。

 千鶴は正面を見た。


 そこには神代美千代。己の忠実なメイドが居た。

 彼女の姿は異様だった。全身黒の戦闘服を着て、刀を持ち立っている。

 その表情は戦闘用のバイザーで隠され、拝む事は出来ない。


 他にもメイドが居る。しかし、同様の処遇で共に座っていた。

 彼女達は一言も発する事はない。


 ただ、じっと。じっとその場に座っている。


 異様な空間。静けさだけが続くその空間が。

 先ほどから1時間以上続いていた。


 静かに。静かに。ただ静かに持続する。

 たまにトイレに立つ人や、水を飲み人などは居る。

 しかし、それ以外はない。


 その場で、皆が静かに「何か」が終わるのを待っている。

 それが何なのか。聞く事は出来ない。


 なぜなら、誰も答えないから。誰も答えないから誰も聞けない。

 そうして声も出せないから。


 誰も、何も言わない……。

 その場に居る人数。50人は居るだろう。


 それだけ居る人々が何も言葉を発しない。

 その異様さを千鶴は感じていた。


 だが感じてもどうする事も出来ないのだ。

 他の子供達と同様。己が父に質問しても……。


 しても、そうすればきっと自分は父の冷たい一面を目の当たりにするだろう。

 だからこそ、聞けなかった。


 千鶴は、他の者と同様。ただ黙ってその場が過ぎるのを待つしかなかった。

 待って。待って。待って……。


 待って。


 「わ、わぁっ!!」


 上の地面から振動。今このビルは地下にある。それは分かる。

 だが上から大きな何かが激突したような。そのような音が聞こえる。


 その意味が分からない。周りの大人達がそこで初めて動く。

 己の子供達をわきに抱え、抱きしめたり動揺したりしている。


 そこで初めて中に居た子供達は親の愛を再確認したのか。

 せきを切ったように騒ぎ出した。

 一体何が起きているのか。どうしてこんな事になっているのか。


 泣きながら、叫びながら親に質問する。

 だけど。


 千鶴の父はそのような振る舞いをしなかった。

 ただ黙って正面を向いて、娘である千鶴の手を握っている。


 千鶴は昔から父より言葉を授かっていた。


 「唯一残る武家の子女として、死地において決して取り乱す事のないように」


 っと。


 それを、ずっと聞かされてきた。

 そして父はそれをいま自ら実行している。

 

 では今ここは。


 死地なのか?


 父に包まれている千鶴の手が震える。

 体がガタガタと震え、唇が痙攣を起こす。


 声は出さなかった。だが、体が限界だった。

 11歳。千鶴の小さな体は未知の恐怖に怯え、震えている。


 それを抑えようとしても、震えが収まらなかった。

 震え、怯える千鶴をよそに。


 千鶴の父はまっすぐを見て、何も動じない。

 その様子を見て、千鶴はその態度に倣おうとしたが。

 やはり体の動悸が収まらなかった。


 阿鼻叫喚の様相を呈する室内で、突如放送が流れる。

 その曲は、聞いた事がある。

 小学校で卒業生を迎える為の曲。「仰げば尊し」


 それが、聞こえてくる。

 

 その時。


 初めて千鶴の父が表情を変えた。

 苦悶とも、悲観とも取れる表情をして。


 彼がその場にうな垂れる。


 「お、お父様……?」


 千鶴は父の傍により、背中に手を寄せる。

 その手を、彼は掴んだ。


 掴んで、千鶴。彼女を優しく抱き寄せた。

 その時になって初めて。


 千鶴は涙を流した。優しかった父が戻ってきてくれたような気がして。

 彼女は嬉しかった。


 父に抱きしめられ、千鶴は静かに泣いた。

 泣いて。その横で。


 己の忠実なメイド。美千代が。

 

 刀を抜いた。


 その事に驚き、千鶴が体を動かそうとするが。

 しかし、その体が動かない。


 父が、彼女の体をがっちりと掴んで離さないのだ。

 千鶴は父に捕らえられた。


 見れば他の家族も同様。捕らえられている。

 そしていずれも。


 刀を持ったメイドに詰め寄られている。


 「美代子……?」


 小さく、千鶴がメイドを呼ぶ。


 だがその声に応じる事なく。


 彼女は己が主君の元へ詰め寄るのだった。


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