第80話
「現在、戦力は?」
「通常戦力は全滅。現隊復帰させた超兵でなんとか持ち堪えています」
「数は?」
「13名。予備超兵を合わせれば30人程度かと」
「小隊として運用できる規模だな。一か所に集中させろ。指揮権限が一番高い者は?」
「みな除隊していますので階級がありません。しかし中に古参兵が残っています」
「古参兵……。重治さんか。よし、彼を中尉に任命し他を少尉扱いとする」
「座標特定し好若剤を投与させろ。住人の避難はどれくらい進んでいる?」
「現在継続中。大戦経験者を徴発し現在避難指示に当たらせています」
「避難者が居るビルはただちに地下に降ろせ」
「ジオフロント、ですか。意外と便利なものですね」
「そうだな。なんでも使ってみるもんだ。ビルを下ろしたら避難所に収容させろ」
「了解。ああ……彼は処置を受けてる。記憶はないか」
「年寄りを見つけても処置を受けていて頼れない人多いですね」
「あれから20年だ。仕方ない事さ。ともかく出来る限りの事をしよう」
「了解しました」
事が起こってから1時間。少しずつ事態の対応が出来てきた。敵怪獣の数は少数。
ゾンビ等の二次災害も沈静化しつつあり、悪い状況であるが「最悪」を脱しつつある。
人々はそれぞれ精いっぱいの行動を行っていた。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお――――っ!!」
超兵の少女。柊智代。彼女は怪獣の足めがけて長刀を振るう。
対格差10倍以上の怪獣の足元を駆けながら通り際に切り裂いていく。
赤い鮮血が噴き出し、周囲の地面を汚していく。
周辺地区は既に更地となり。何もないコンクリートの大地で30人程度が戦っていた。
「ジオフロントっ!! 便利な物じゃないっ!! これは戦いやすいわんっ!!」
同じく長刀を振るいながら、先ほど中尉に昇進した街の美容師。
元超兵の重治が感心している。
「街が更地に……。建物がないとここまで寂しいものなんですね」
智代は中尉の下に付きながら慣れ親しんだ街のあり様を呟く。
周辺の建物は全て地中へと下り、その場には鼠色のコンクリートの大地が広がっていた。
ジオフロント。それはノア地区の地下に作られた。
指揮。及び避難用に作られた巨大な地下空間。
智代は現役時代。たまに見学などで訪れた事があるが、しかし実働稼働しているのは初めて見る。
ノア地区のビル群は怪獣などの「災害」の際にはビルが下る事は知っていた。
年に何度かメンテナンスとしてビルが下りていく様は見た事がある。
しかしそれが周辺丸々下りると、ここまで更地になるものなのか。
戦場の最中とはいえ、智代は慣れ親しんだ街の「防災都市」としての面を見て感心する。
そして、共に恐怖も。つまり現在の状況は予見されていたもので……。
「危ないっ!!」
顔も名前も知らない同僚の叫び声で我に返る。
それから腹部に衝撃。怪獣の尻尾の一撃が直撃した。
衝撃で後ろに飛び、地面に倒れる。
あばらがイカれた。再生剤による臓器の再生が始まり、みるみる傷が再生する。
その場から立ち上がり、智代は復帰しようとした。
が、その隙を見逃さず怪獣が大きく口を開け。火を吐いて智代を焼き殺さんとする。
「火がっ!!」
正面からブレスが近づき、智代は逃げ出そうと駆け出した。
(そのままっ!!)
しかし途中テレパシーによって止められ、その場に停止する。
噴射される火炎ブレスがいざ届かんというその時、地下から鋼鉄製の障壁が素早く上がってくる。
ブレスはその障壁に阻まれ、智代を焼く事は無かった。
(大丈夫っ!?)
「は、はい……。ありがとうございます」
テレパシーによる通信に礼を言って智代は立ち上がった。
そして再び長刀を持ち、怪獣と対峙する。
改めて見るとデカい。5m程度の己と50mの相手。
超兵となり体格の差が小さくなったとはいえ、これほどの差とは。
「あ、足元ばかり切ってっ!! ほ、本当にこれで怪獣を倒せるんですかっ!?」
智代の知らない同僚。女性だ。彼女は焦った表情で上官たる重治に質問する。
智代も実は彼女と同じ疑問を感じていた。
先ほどから足元ばかり長刀で傷つけている。
本当に、これで倒せるのか?
「敵怪獣は二足タイプよっ!! つまり片足を落とせば倒れるわっ!!」
「だから徹底的に足を狙うのよっ!!」
「ら、ライフルであ、頭とか狙った方が……」
「そうやって見上げてる間に尻尾でやられるのよっ!! まずは足を狙いなさいっ!!」
「りょ、了解……っ!!」
納得したのかしていないのか。今だ疑問が残るような口調で彼女は長刀を構え怪獣に突撃する。
どうあれ彼は「上官」なのだ。それも実戦を知る……。ならば従う他無いだろう。
我々には上官が居る。それは現状でもっとも幸福な事の1つだろう。
智代達は戦う。そんな戦う正規超兵達の足元で。
薬害適正が弱く2m.弱程度にしか大きくなれなかった予備超兵達も戦っていた。
「ひぃっ!! ひぃいいいいっ!!」
「いやだっ!! 来るなっ!! 来るなぁああああっ!!」
彼らは怪獣とはまた違う脅威と戦っていた。
「なんだっ!! なんなんだよこいつはぁあああああ――っ!!」
予備超兵隊の1人が「敵」と対峙している。
その敵の姿は異様で。
黒の長髪。その髪で顔を隠し、まるで人間の姿をしたようなそれは。
長い手足を蜘蛛のように這わせながら予備兵達を翻弄していた。
1匹の怪獣に対し、奴等は2、300の数。中尉曰く。
「貞子には銃撃による攻撃が最適よっ!! 射撃訓練の要領を思い出しなさいっ!!」
奴等は「貞子」と言うらしい。古いホラーゲームの登場人物らしいが自分は知らない。
貞子の他には真っ白な姿をした少年型や、それに付きそう貞子と同様の女性の形。
他は顔だけの化け物。白い妙なマスクを被った男など。多種多様な者達が彼らに襲い掛かっていた。
「これは……。これは何なんですかっ!! うわ。うわぁああああああっ!!」
怪獣以外の連中は正規兵を襲わず、予備超兵達を中心に襲い掛かっている。
予備兵達もライフルや長刀で相手しようとするが、数も多く、苦戦しているようだ。
時折肉体を食われ再生状態に陥ってる兵達を見かける。
「小勢もこんなに……。やはりマリスが地区の中に入り込んでるっ!!」
またマリス。それが敵の正体なのだろうという事は分かる。
しかしそのマリスという敵はなぜこのような敵を出してくるのか。
それが分からなかった。
「上官殿っ!! 上申しますっ!!」
智代とは違う。賢そうな顔をした男性超兵が上官に意見する。
「なぁにっ!? いまそんな余裕は無いのよっ!!」
「怪獣を足止めしてる障壁がいつ突破されるか分からないの。早くこいつを倒さないとっ!!」
上官は彼の言葉を一蹴しようとするが、しかし彼は止まらない。
「て、敵がマリスという存在であるならっ!! そのマリスを撃破して事態の収拾を図るべきではっ!?」
その言葉。智代も思わず賛成する。そうだ。敵の親玉がマリスと言うなら、それを叩けば。
「……………………………………」
今までこちらの質問をなんでも答えてくれた上官が口黙る。
マリスを撃破する。それが現状打破の一番の手だと思うのだが。
「マリスを倒せばっ!! この戦いが終わるっ!! それならマリス捜索をするべきでっ!!」
「わ、私がマリス捜索を志願しますっ!! マリスを倒せばっ!!」
「駄目よ」
彼の上申はすぐさま否定された。
その批判に反発し、仲間の幾人かは彼に反発した。
「なぜですっ!! マリスを倒せばっ!! それで貴方達も生き残ってきたんでしょうっ!?」
「それならっ!!」
「御託は良いの。ともかく今は怪獣の討伐に当たりなさい」
「しかしっ!! マリスを倒せばっ!!」
倒せば。そうマリスを倒せば。智代もそう思った。
しかし、上官は何も言わない。なぜだろうか。
皆が口々にマリス撃破の上申を述べる。
しかし上官はそれを許可する事なく、敵怪獣の討伐を命じるのみだった。
その場が紛糾する。
敵と対峙しなければならない局面だが、しかし初めての実戦を経験する若い兵達は。
「ボス」の撃破をすれば全てが終わるという情報を拠り所に上官へ抗議を続けていた。
それだけ現状は彼らにとって耐えきれないものだった。
ほんの数時間前までは「学生」として成り立ち、青春を謳歌していた彼らにとって。
そこは地獄だった。
故にその地獄から早く抜け出すべきとマリス撃破を上申する。
しかし、上官たる彼は知っていた。
マリスを撃破するなどと言う事は……。
敵怪獣が迫る。彼らの上官、美容師の重治。彼は長刀を構え、敵に向かわんと一息付く。
そんな彼の真後ろに、大きな落雷が。
そしてそこから……。
「敵怪獣、新たなに出現っ!! これは……」
「どうしたっ!? 敵怪獣の規模はっ!?」
司令室。そこで対応に当たる司令官が叫んだ。
状況は落ち着きつつあった。しかしそれを裂く状況。
それは。
「敵怪獣……。1000m.級。出現……」
「1000m……だと?」
「投影、画に起こします」
オペレーターの1人。宮内あかね。
PSIによって映像を転写する能力を持つ彼女が、司令室正面にその映像を映し出した。
そこに映っていたものは。
「これは……」
それは更地の大地に。
戦う超兵の意思を砕くかのように現れた。
超巨大の怪獣だった。
50m級に怪獣が豆粒のように思える。
1000m.級の怪獣。
智代がその光景を見る。目の前に現れた存在を見上げる。
そこで、上官の意図を理解した。
マリスとは……。
横目で上官を見る。上官は。
呆けていた。
剣を床に落とし、膝から崩れ落ちた。
状況を把握した仲間達が上官に問う。
「じょ、上官殿っ!! こ、これは……。どうすれば良いんですかっ!?」
「こいつは……。この、このでっかい奴の弱点はなんですかっ!?」
「これは……。倒せるんですかっ!? 上官殿っ!! 上官殿っ!!」
彼は答えない。ただじっと目の前の巨大存在を見上げ。
静かに、涙した。
司令室から。
彼らもその光景に言葉を失う。
希望を持った。
敵がマリス本体としても。
大幅に弱体化した「残党」が相手であろうと。
そうであろうと願った。
そうであろうと想定した。
しかし。
「目標マリスの等級Sクラスと定義……」
オペレーターの1人が静かに宣言する。
その言葉に応える者は誰も居ない。
S等級のマリス。それは現状の彼らにとって。
死刑宣告に等しかった。
「これより……」
重い口を開けて、司令が言葉を紡ぐ。
「これより、全地区に致死性ガスの散布を行う……」
「住民たちをこれ以上苦しめる訳にはいかない」
「我らはこれより」
「滅亡を……」
その言葉を。言い終える事が出来ず。
司令は黙ってその場で静止する。
その差し迫った状況の中で。
誰かが、静かに漏らした。
「アンノウン……」




