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魔王に囚われて異世界から英雄(ヒーロー)を召喚した王女様。間違えてゲームのキャラを召喚してしまった。  作者: 宮森 英二
悲哀っ!! 正社員激闘編っ!!

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第77話


 「はぁ……」


 柊智代。かつて京介の家に入り浸っていた少女。

 彼は「京子」とのレッスンを終えた後、近くの喫茶店で仲間と共にコーヒーを飲んでいた。


 「あらあら。智代ちゃん。まだ落ち込んでるのぉ?」

 

 少し間延びした口調で太田好美。赤色髪の彼女が智代に話しかける。


 「智代ちゃんはさぁ、男の趣味が悪いのよっ!! そんな変な人、さっさと忘れちゃいなよっ!!」


 東川美代子。青色髪の彼女は快活な様子で智代に「乗り換え」を進める。


 「忘れるって……。そんなの。ニートさんは、まだ居るし……」

 「なら会いに行けば良いじゃない」


 大槻涼子。緑髪の彼女が智代に言う。

 彼女達は3人。共にアンノウンズのメンバーだ。その中に。智代が加わった。

 

 そうして4人メンバーとなったアンノウズンが放課後、喫茶店で集まり雑談している。

 話している内容は。


 智代の恋バナだ。


 36歳ニートという明らかに将来性を感じない存在を好きになった智代を飯の種にして。

 彼女達はコーヒーのお供としてパンケーキを食べ、恋バナという。

 なんとも平和的なコンテンツを共に消費していた。


 「まだそんな好きなら、会いに行って押し倒しちゃえば良いじゃんっ!!」

 「そうそうっ!! 女性経験なさそうだし、そりゃあもうむしゃぶりつくように求めてくるんじゃない?」


 彼女達に異性との交際経験を持つ者は居ない。しかしなんとなくノリで。

 彼女達は智代に大胆な提案を続ける。


 「そうそうっ!! どーんと押し倒しちゃいましょ~♪」

 

 一歩遅れてのんびりした好美が腕を上げ音頭を取る。

 しかしそれに乗らず、智代は暗い表情を見せるばかりだ。


 「そんな事をして……。そんなの、違うでしょう?」

 「私は、彼のあの、のんびりとして。それでいて穏やかで」


 「その」


 「優しいところが、好きだったの……」

 「ずっと一緒に居て、落ち着いて……」


 「そうまるで……」

 「お父さん」


 「みたいなところが……」


 「智代ちゃん、里親は?」

 「居ない……。私は薬剤適合が強くて。正規超兵に向いてたから」

 「ずっとラボの職員に育てられてた」


 「その職員さんは男の人?」


 「女性よ。女の子に男の世話役なんて付ける訳ないじゃない」

 「そりゃそうだけど」


 「でも」

 「父親が居たら。あんな感じかなって」


 「それってつまり父親が欲しかったって事?」

 「そんなんじゃない。でも……」


 「一目ぼれだった」

 「一目ぼれねぇ……」


 「あの人が私の剣を没収したのが分かったから。探偵を使ってどこに居るか突き止めて……」

 「探偵……。そりゃあまぁどうも」


 「それから……。訓練するって名目で、お金出して」

 「それから……」


 「それから入り浸ってって訳」

 「うん……」


 「手とか出されなかった?」

 「別に……。ただゲームしてた気がする」


 「なんとも。せっかく目の前に獲物があるのに」

 「そういう……。感じは見せた事ない。ただ遅くなった一緒にご飯を食べて」


 「一緒に、居たの……」

 「一緒に、ねぇ」


 「それだけで、嬉しかった。それだけで良かったんだけど……」


 「でも……」


 「ああ」


 「あのまま、告白すれば良かったのかな」

 「好きですって言えば良かったのか」


 「でも……」

 「でも?」


 「それを言ってしまったら」

 「私は、どんな風に映ったかな」


 「私はどんな風に見られたんだろう」

 「ずっとずっと。優しく笑ってくれて」


 「優しくて。あったかい」

 「そんなあの人に」


 「好きだって、告白したら……」

 「私は」


 「受け入れて、貰えたかな……」

 

 「え、えっと」


 あまりにも真剣な相談に3人は焦り出す。もっと軽く感じていたから。

 しかし智代の意外にも本気な態度に、3人は顔を見合わせ思案する。


 思案して。しかし何も思いつかず。


 「ともかく、あ、貴方はどうしたいの?」


 結果、智代にバトンを渡す形で乗り切った。


 「あの人を養ってあげたい」

 「う、うん……」


 「でも……。私、もう仕事首になっちゃったし」

 「無一文だもん。一緒にはなれないよね」


 「は、はぁ……。そ、そっか」

 「これから3年近くも学生しなきゃって。バイトするって選択もあるけど」

 

 「学校を辞めてバイトするって選択もあるけど……」

 「それだと、子供が生まれてから苦労するでしょう?」


 「子供っ!? そ、そこまで考えてたの?」

 「そうよ。夫婦になるんだから。それは当然でしょ?」


 「夫婦……。ねぇ」

 「私は、彼と一緒になりたかった」


 「でも彼は私に、学生になって「青春」しなさいって」

 「そう言って、この指輪をくれたの」


 「は、はぁ……」


 「わたし、わたし……。その言葉を聞いて」

 「分からなくなった」


 「分からないって?」

 「私が彼と一緒に居て良いのかって」


 「は、はぁ……。えっと」

 「あの人は、たぶん私を女として見てないんだ」


 「う、うん……」

 「私を、実の子供のように思ってて」


 「お、おう……」

 「そんなわたしが……」


 「恋人になって、良いのかなって」

 「き」


 「近親相姦になるって感じ?」

 「うん……」


 「なんか、そんな感じを感じて」

 「私はただ」


 「彼に父親っていう幻想を求めていただけなんじゃって」

 「そう思ったの……」


 「お、おう。ははは」


 あまりにも真剣な悩みに3人は相槌を打つしかない。

 智代の独白は止まらない。


 「そう思って、身を引いたけど」

 「でも」


 「離れてしまってからも。ずっと焦がれてる」

 「忘れて、青春を謳歌しなきゃって思うけど」


 「でも」


 「あの頃の、静かに剣を振りながら、あの人と居た時の方が」

 「何をするよりも、楽しくて。安心した」


 「だから、いちいち青春って言葉に乗れなくて」

 「な、なるほど……」


 「私はやっぱり」

 「あの人の事が好きだったのかな?」


 「どう、なんだろう……」


 その言葉を最後に、智代の口は閉じる。

 全てを言い終え、ただ静かにコーヒーを飲んだ。


 そうして、パスを出された3人組も共にコーヒーを飲み。

 さて、どう返すべきかと考える。


 他者と恋をした経験などない。

 そんなおのれ等に。


 こんな熱烈な恋愛を行っている智代に返せる言葉があるのかと。

 思案した。


 そうして考え付いた言葉が。


 「も、もういっその事」

 「なに?」


 「もういっその事、また「戦争」が起こってくれれば」

 

 「貴方の望みも叶うのにな――。なんてっ!!」


 「あ、あはははははははははっ!!」


 3人の中でもっともムードメーカーな涼子が後頭部に手をやりながら朗らかに笑う。

 また戦争など。


 そんな事、きっと起きないだろう。軽い気持ちでそう冗談を言う。

 智代は一瞬沈黙したが。その言葉を聞いて。


 「そうだね」


 っと短く呟き笑った。

 

 「戦争か」

 「ふふふ、確かにね。戦争が起きたら……」


 その言葉を言い終えるより早く。

 店の外からけたたましい警報が鳴り響いた。


 「な、なに? どうしたの?」

 「警報? 地震かな」


 彼女らもたまに来る地震にはある程度慣れていた。

 しかし地震でこれほどの警報が鳴った事はない。


 そもこの街の構造を考えれば。


 「この警報、地震じゃない……」


 智代が「何か」に気付き、警戒する。「何か」が起きている。

 しかしその「何か」の正体が分からず、彼女達はキョロキョロと回りを見渡すだけだった。


 一体何が起きているのか。警報は鳴りやまない。

 一体何が。

 その答えはすぐにやってきた。


 隣のビルに落雷が落ち、そこから。


 大きな。


 怪獣が現れたのだ。


 「え……」


 喫茶店の窓からその様子は見られた。ビルはガラガラと崩れ、その瓦礫が。

 歩いていた人々に直撃する。

 人々の悲鳴が聞こえる。人々が逃げ惑う。


 声が。声が。声が。


 仕事終わり。学校帰り。そんなまったりとした午後の時間。

 それを切り裂いて、怪獣という非日常が街を闊歩している。


 少女達は意味が分からなかった。

 今ある現状をどう表せば良いか分からなかった。


 先ほどまで「人生」の中での先行きの話をしていた。

 なのに。


 急にその日常が切断された気分で。

 彼女達はその場で固まる。


 「逃げろっ!!」


 「え?」


 「逃げろっ!! 怪獣だっ!! 殺されるぞっ!!」

 「逃げろっ!!」


 「逃げるんだよぉおおおおおおおおおお――っ!!」


 50代の店主が客の若者達へと声を張る。

 それからドアを開け、中の客たちを外に誘導せんと手招きする。


 「早くっ!! 早く逃げろっ!! はや」


 ふと、声が止む。

 止んだ時と同時に、大きな音が聞こえていた。


 窓の景色が見えない。

 外は真っ暗。だと思ったら、途端に明るくなる。


 何かが降りてきて、そして上がっていった。

 そうして残された先に。


 赤いシミが。所々広がっていた。


 みな固まる。先ほどまで居た店長は、何処に行った?

 開かれたドアは跡形もなくべしゃんこに潰れ、そして散らばるガラス片と共に。


 何か赤い物が散らばっている。それは……。


 ドシン。ドシンと。何かが通り過ぎる音。

 建物が「何か」に当たり、崩れ去るような音。


 悲鳴。悲鳴。怒号。慟哭。誰かが泣いている。誰かが叫んでいる。

 しかし。

 喫茶店の中は静寂だった。


 まるで外の景色が嘘のように。

 それは先程までの穏やかな午後のように。


 何も変わらない日常が広がっていた。

 ただ違うのは。


 潰されたドアと。

 そこにあった「何か」


 それに気づいていたけど。

 皆、それに気づくよりも。


 現実を。隅に追いやった。

 この場に居ればその全てが「冗談」になるような気がして。


 皆、そこから動かなかった。

 学生街の近くと言う事で、皆学生ばかり。


 指示してくれていた大人は先程「消えた」


 だから。

 

 それで、良いと思った。


 しかし。


 智代が店の外へ向かう。

 

 「何か」が起こっている。

 それに対応せねばと駆け出した。


 しかしその手を涼子が掴む。


 「危ないよっ!!」

 

 血の気が引き、真っ青になった顔で。

 涼子は智代を掴む。


 「ここに居る方がずっと危険だよっ!!」


 しかし智代はその手を振り解き、潰れた店のドアを踏みながら外へと向かう。

 道中、割れたガラスと共に。「何か」を踏み抜いたが。


 智代はそれを気にする余裕が無かった。

 そうして店の外に出て、中に居る仲間達へと叫ぶ。

 

 「ほらっ!! 早く店の外から出てっ!!」

 「そこに居たら危ないっ!!」


 「危ないからっ!!」


 叫ぶ智代の姿を、中の学生達はただ黙って見ていた。

 まるで外の世界が「幻想」である事を信じているかのように。


 学生達は、その場を離れる事が出来なかった。

 そんな彼女達に智代が叫ぶ。いや。


 叫ぼうとした瞬間に。落雷と共に、目の前のビルが崩れ去った。

 テナントとして入っていた喫茶店は共に沈み。


 窓の外から見えていた彼女達が瓦礫と共に消えた。


 「あっ」


 短い声をあげ、智代はその光景を目にする。

 先ほどまで話していた学友達は消え去った。


 代わりに見えるものは。


 咆哮を上げる大きな。


 怪獣だ。


 怪獣が、歩いている。


 学友たちを潰した怪獣はのしりのしりとビルを壊しながら街へ向かっていく。

 智代が、その光景を見る。


 街が。


 街が、怪獣たちに蹂躙されていた。


 あちこちで火の手が。人々の声が。響いては擦れていく。

 そうして何かを壊す音がだけが残るのだ。


 壊れた世界がただそこに広がって。広がって……。


 「何をやっているっ!!」


 背後から智代に声がかかる。

 

 声の方向に、女性物のワンピースを来た男性が立っていた。

 その非日常な光景は目の前で起きた更なる非日常にかき消されて。

 智代は黙って彼を見るしかなかった。何も。疑問に持つ事が出来なかった。


 放心する智代に彼が語る。


 「怪獣が来た……。貴方、超兵ねっ!!」

 「一緒に街を守ってちょうだいっ!!」


 そういって、智代に1つの薬剤を手渡した。それは。


 「これを使って一緒に戦ってっ!!」


 言い終えるや否や、男性は薬を打ちながら目の前の道路を走っていく。

 それから。


 男性の体が徐々に大きくなり、4、5m程度の大きさになって智代の前に立っていた。

 それは「超兵」の特徴。

 超兵とは。巨大化して怪獣と戦う事が出来る存在の事だ。


 となれば、目の前の男性は元超兵なのだろうと智代は推測した。

 男性が道路脇の歩道の電信柱を掴むと、それを上からずるりと引き上げる。

 引き揚げられた歩道には様々な武器が。大剣。ライフル。

 巨大な超兵用武器が様々取り揃えられていた。


 男性はそこから巨大な剣とライフルを担いで、恐らく怪獣が居る方向へだろう。

 向かっていく。


 「この私が街を守るっ!!」

 「私が」


 「守って見せるんだからぁああああああああああ――っ!!」


 巨大化した男性が、のしのしと向かっていく。

 そうして智代は残された。


 手渡された薬を一瞬チラリと一瞥したのち。

 

 残された彼女は。


 その場で薬剤を打ち。


 「街を……」

 「私達の街を守るっ!!」


 先ほど向かった男性と同じように。

 共に。


 死地へと向っていった。


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