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魔王に囚われて異世界から英雄(ヒーロー)を召喚した王女様。間違えてゲームのキャラを召喚してしまった。  作者: 宮森 英二
悲哀っ!! 正社員激闘編っ!!

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第75話 予兆。


 「へぇ――っ!! 本当に「ママ」だったんだ京子ちゃんっ!!」

 「はい。春美ちゃんって言うんですよ。可愛らしいでしょう?」


 「そうだねっ!! えっと、髪は、青……。そっか」

 「へ――――。その歳で里親なんだ。京子ちゃん」


 「ええ、春美ちゃんって言うんですよ。仲良くしてくださいね」

 「うんっ!! えっと、この子は?」


 「春美ちゃんのお友達のたかしくんですわ」

 「お友達っ!! へ――。春美ちゃんの彼女とか?」


 「はぁ違うわよっ!! 誰がこんなクソガキなんてっ!!」

 「あははっ。親に似ず結構が我が強いっ!! まぁ良いや。よろしくね春美ちゃんっ!!」


 「あ? ああ、まぁ……」

 「こう見えても甘えん坊なんですよ? ねぇ春美ちゃん」

 「う、うるさいっ!!」


 っと言う訳で。

 

 ノリで博士を里親だって事にしちゃったっ!!

 あはは、本当は里親じゃなくて雇い主なんだけど。


 でも博士もまんざらでなさそうだし、この場ではそれで良いだろう。

 そういう訳で博士は俺の養子って事で話を進めていこう。


 しかしギターの講習とは……。えっと今は何時だ?

 見れば時計の針は3時半……。3時間近くも眠ってたのか。


 「学校終わってすぐ来ちゃったっ!! すぐギター弾きたくてっ!!」


 天真爛漫を絵に表したかのような顔で緑の子が笑う。

 うん。緑の子っ!! 緑、の子……。


 えーっと名前はなんだったけ?


 「まったく……。ギターの練習に付き合うなんて。どこまで人が良いんだか」

 「それで? あんた名前は?」


 おっ!! 博士ナイスっ!! そうそう名前、名前だよっ!!


 「おっと。私の名前は大槻涼子。よろしくね春美ちゃんっ!!」

 「ふん、まぁ名前くらい覚えてあげるわよ」


 うんうんっ!! 名前くらい覚えて頂戴ねっ!!

 しかし涼子ちゃんか。そういえばそんな名前だった。気がする。

 ともかく名前思い出してよかった。次からのレッスンは博士を連れて行こうかな。

 頭の良い子だから人の名前くらいは軽々と憶えてくれるだろう。


 「涼子さま、今日はよろしくお願いします。それで、他の皆は?」

 「他の皆は電車だからまだまだかかるわよ」


 「電車? 貴方も電車で来たのでは?」


 まるで自分は電車では来なかったような口振り。電車で来なかったのなら。

 何に乗って来たのだろうか。


 「ちょっと屋根をね」

 「屋根?」


 「そ、ほら入ってきてっ!!」

 「智代ちゃんっ!!」


 智代ちゃん? 智代ちゃんって……。


 「い、いやぁどうもどうもぉ」


 頭を掻きながら入ってきたのは。

 「あの」智代ちゃんだった。青髪セミロング。とっても活発な。

 とっても可愛い女の子の……。


 「あはは、どうも私。智代って言うの」

 「えっと。貴方が京子……こ。こ……」


 あらぁ。


 智代ちゃんじゃないかぁ。

 まさかこんな所で再開するとはっ!! 嬉しいなぁっ!!

 あ、彼女の手に……。


 俺があげた金の指輪も付けてくれているっ!!

 お――。まぁ綺麗な指輪だしねっ!! ふふふ。でも金メッキよ金メッキっ!!


 「ニート、さん……?」


 あら?


 「違うわよ。どう考えても女の子じゃないの」

 「え、ああ……。そ、そうだけど……」


 どうやら俺の事を知る彼女はm面影がある今の「京子」を見て一瞬混乱したらしい。

 まぁ正直間違ってはいない。だって本物の俺だし。


 ふふふ。しかしまさか智子ちゃんが居るとは……。でもここに居るって事は。

 智代ちゃんも楽器を……?


 「この子、地方勤務してた「本物」の超兵の子なの」

 「本物? へぇ。つまり薬害適合をクリアしたエリート兵って訳」


 「あら春美ちゃん。詳しいねっ!! そうっ!! まぁ今は一緒に軍縮で学生してるんだけど」

 「そう。せっかく出世コースに昇ったと思ったのにさ。あはは、参っちゃうよね――」


 やれやれ。といった手草で不満を表す智代ちゃん。

 ああ、敬語を使わない智代ちゃんってこんな感じなんだ……。


 誰にでも敬語を使う訳ではないのか。そういえば最初はそんな感じだったからなぁ。

 俺の前ではいつも敬語を使っていたから、なんだか新鮮だ。


 「って訳で元正規超兵の力を借りて、屋根伝いに飛んできちゃったっ!!」

 

 涼子ちゃんが下をペロッと出して悪びれながら言う。

 屋根伝い。そんな事も出来るのか。


 「あはは、他の子おいて来ちゃったけどね。まったく電車でゆっくり来ても良いのに」

 「こういうのはインパクトってのが大事なのよっ!! って訳で」


 「ふふふ。そう言う訳でこの子が我がアンノウンズの新メンバー」

 「柊智代ちゃんなのでした――っ!!」


 新メンバー? アンノウンズの?


 「新メンバーですか? 彼女が?」

 

 智代ちゃん。音楽、するのかい?


 「そうっ!! 誘ってみちゃったっ!! 色々落ち込んでたからっ!!」

 

 落ち込む? どういう事だ?


 「落ち込む。とはどういう事なのです?」


 落ち込む……。智代ちゃんに落ち込む事なんてあったのか?

 ううむ。なんだろうか。


 「智代ちゃんさぁ」

 「失恋しちゃったみたいでさぁ」


 「馬鹿、もう……」


 失恋。あらら。そうか彼女も年頃の女の子。そんな事もあったのか。

 しかし失恋とは。何とも青春らしい響き。そうかぁ失恋か。

 不躾ながら相手は誰だろう。

 まぁ聞くのは不躾になるから聞かないけどさ。


 ふふふ。でも失恋の為に音楽を。か。そういう事もあるのか。

 う――ん。なんだか凄まじい青春圧力を感じるぞぉ。


 青春っ!! おお、青春だっ!!


 「この子、浮浪者の男性を好きになって」

 「でも仕事首になって養えなくなったからって振られた感じになったのよ~」

 

 うん?


 「ちょっとっ!! 浮浪者じゃないっ!! ニートでしょっ!!」

 「どっちも同じようなもんでしょ」


 「ち、違うもんっ!! ニートさんは働いてなかったけど家はあったもんっ!!」


 え……。


 「あはは。そんでさ――。この子そのニートに一目ぼれしたとかで」

 「ここ半年くらい通い妻してたらしくて」

 「でもさ。仕事首になって学生になってから行けなくなったって」


 「それからそのニートも仕事始めるとかで。そんな感じで色々お互い道が出来てさ」

 「だから、なんか振られた形になって」


 「それからずっと落ち込んでるのよ。毎日そいつから貰ったおもちゃ指輪見ながら」

 「毎日ため息三昧って訳っ!!」


 「ため息三昧ってなによ……」

 「そうでしょ――。毎日ニートさんニートさんって泣いてたじゃんっ!!」


 「そ、それはぁ――」


  ……………………。

 


 「別に……。振られたって訳じゃないわよ……」

 「ただ、お金貯めて。私が貴方を養いますっ!! ってやろうと思ったのに」


 「仕事首になって……。学生しろって事になって……」

 「それで、それから……」


 「離れ離れになったんでしょ? 寮にも入れられちゃったし」

 「………………まぁ」


 「この子、古い知り合いなんだけどさ。それからずっと泣いたりして落ち込んでさ」

 「だから」


 「こうやって楽器でもしようって誘ったって訳」


 「へ――――。失恋ね。まぁ私にはどうでも良い話だけど」

 「あはは、まぁ春美ちゃんには早い話だしねっ!!」


 「ニートって……。っていうかあんた」

 「うん、あ」


 「あ、あ……。き、君は……ニートさん所の……。あ。あ……」

 「え。あんたアイツの所に来てた学生だよな? 好きな人って……」


 「わ、わわっ!!」


 「わぁあああああああ―――っ!! ニートさんには言わないでっ!! お願いお願いぃいいいいっ!!」


 

  ……………………。


 

 

 ◇ ◇ ◇



 

 「へぇ――――。あんたにそんな叔父さんが居たの」

 「そうなんだよ。今までずっと何もしないで。ゲームばっかりしてるんだ」


 「今までって? 今何歳なの?」

 「36だよ」


 「36。「世代」か……。調整は受けてるの?」

 「調整? 知らないけど父さんは何も受けてないって言ってたよ」


 「あ、そう……」

 「なら。仕方ないんじゃないの……。叔父さんの意思も組んであげなさい」


 「意思ってなんだよっ!! みんなそうやってあいつを甘やかしてさっ!!」

 「それじゃあ駄目だろっ!! あいつはさ。もっと頑張らなきゃ駄目なんだっ!!」


 「頑張るって言ったってね……。色々あるんでしょ。忘れたくないものとか……」


 「なんだよそれっ!! だからって何もしないで毎日ゲーム三昧で良いのかよっ!!」

 「他の大人はみんな働いて家族を持ったりしてるのにっ!! あいつだけは」


 「あいつだけは……。いっつもゲームばっかりして……」

 

 「昔は」


 「昔は……。あいつの事が大好きだった」

 「優しくて。物静かで。俺の面倒も見てくれて」


 「父さん母さん。結構忙しくて。だから、ずっとあいつの家に居た」

 「俺が病気で倒れたりした時も、あいつは俺を看病してくれて」


 「友達も、あいつは救ってくれた」

 「小さい頃は、あいつが俺のヒーローだった」


 「でも」

 「大きくなったら気付くんだ」


 「叔父さんは」


 「寂しい人だって」


 「ずっと家にこもって、ゲームばかりして」

 「仕事もせずに、ただ家でじっとゲームを……」


 「だから嫌いになった?」

 「そんなんじゃない」


 「ならどうしてそう悪く言うのよ」

 「それは」


 「そうでもしないと……。あいつ何もしないじゃんか」

 「馬鹿にされてもへらへら笑うだけで……。俺は」


 「俺は、あいつがあのままじゃ嫌だったんだ」

 「だから、発破をかけるつもりで。ニート。ニートって」


 「そうなんだ」

 「昔。なんか悪い事があったって事は分かってる」


 「それで、あいつが傷ついてるだって事も、分かってるさ」

 

 「そうよね。大人の世代は、皆何かしら傷を抱えているわ」

 「でも、他の人達は……。きっちり立ち直ってるのにっ!!」


 「あいつだけは……」


 「だから」


 「だから発破をかけて、あいつに」


 「あいつに、人生を取り戻して欲しかった」


 「大好きだったから……」

 「そして」


 「これからも大好きで居たかったから」

 「だから」


 「悪い事だって、言った……」

 「そうなの……」


 「ああ、その甲斐あってさ」

 「最近、バイトを始めたんだよっ!!」


 「バイトを?」

 「うんっ!! あんたん所でさっ!!」


 「はぁ?」

 「バイトで。正規じゃないみたいだけど」


 「でも」

 「このまま、あいつが人生を取り戻してくれれば」


 「俺もしっかり言えると思うんだ」


 「京介叔父さんって」


 「きょうすけ……。ね」

 「叔父は」


 「上手く、やれてるか? 春美ちゃん」

 「……………………」


 「ええ」

 「上手くやれてるわよ」


 「そっか……」

 「このまま正規就職でもしてくれたら良いけど」


 「きっと大丈夫よ」

 「そうか。だと良いなぁ」


 「ともかく」

 「昔、色々あったのかもしれないけど」


 「俺は、大人ってのは」

 「みんな、前を向いて欲しいと思ってるんだよ」


 「時々居るだろ? 黙って空ばっかり眺めてる大人」

 「まぁ、居るわね」


 「俺は、あんまりアレが好きじゃない」

 「でも、あいつはそんな好きじゃない大人の1人だった」


 「あいつも空ばっかり見てた」

 「でも考えれば父さんも母さんも」


 「ずっと空ばかり見てるんだ」

 「みんな、みんな」


 「その時ばかりは俺を見てくれない……」

 「俺はそれが嫌だった」


 「だから」

 「だから、さ……」


 ………………。


 夕暮れ時の河川敷。その傾斜の芝生で、俺達は川の流れる音を聞きながら会話を続ける。

 内容は。俺の事。


 それはたかしくんが俺に感じていた本音だった。


 彼が俺の為を思って怒ってくれていた事。本当はまだ俺の事を叔父として好きでいてくれた事。

 全部、全部博士が聞いてくれた。


 いや。

 京子にも、話しているのだと思う。


 彼の独白を、俺達はただ黙って聞いていた。

 今まで、ずっと気付かなかった。


 たかしくんがずっと色々言いながらずっと俺の傍に居てくれた訳も。

 智代ちゃんの気持ちも。

 よく考えれば好意がある、以外にあんなに頻繁に男の家に出入りしないだろう。

 でも俺はそんな訳ないなんて思って……。


 俺は。


 俺はこんなにも鈍感な人間になってしまっていたのか。

 人と人との関係を絶ち、最低限の生活をして日々過ごしてきた。


 その結果、俺はこんなにも人の機微に鈍くなっていた。

 昔は、もっと過敏に反応出来ていたと思う。


 年月を重ね。中年となっていく中で。

 俺は大事なものをどんどんと忘れてしまっていた。


 たかしくんの言葉。


 前を向いて欲しい。


 それは、ずっと彼が俺に抱いていた不満。

 それは至極当然で。


 まっすぐで正しく……。


 俺は。


 俺は、もう。


 もう良いんだろうか。


 俺は、人生を取り戻して良いんだろうか。


 もう。


 前を向いて生きて良いんだろうか。


 俺は……。


 「たかしくん。春美ちゃん」


 「おうち」


 「帰りましょうか」


 2人に、手を向ける。


 最初は博士が。


 俺の手をギュッと握ってくれた。

 握ってくれた彼女の瞳は。


 とても、優しそうだった。


 次、たかしくんは……。


 相変わらず、照れたような顔をして。

 静かに。優しく握ってくれた。


 そうして俺は立ち上がり、共に河川敷を歩く。

 駅とは、反対側の方向だ。


 もうだいぶ時間は遅い。でも。

 なんとなく、このオレンジ色の空の下を。


 一緒に、歩いていたかった。

 この先に。


 俺の新しい人生があるような気がして。

 なんだか。とてもとても嬉しかった。


 俺は。


 俺は、もう前を向いて良いのかな。


 京子……。



 俺達は進む。

 進む。最中に。


 誰かが。道の真ん中に立っている。

 誰か。


 誰かが……。


 「きひひひひひひひひひ」

 「人間。人間……。きひひひひひひひ」


 「ああ、感じる。感じる、ここは……」

 「ああ、ここは……」


 「故郷っ」


 「だっ!!」


 誰かが。

 そこには「誰か」が居た。


 「マリス……」



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