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魔王に囚われて異世界から英雄(ヒーロー)を召喚した王女様。間違えてゲームのキャラを召喚してしまった。  作者: 宮森 英二
悲哀っ!! 正社員激闘編っ!!

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第71話 どうもーー。京子叔母さんだよっ!! なんて言えないけど~。


 「うわ……。あ……。あ……」


 そこに天使が居た。


 身長は高く180センチ以上の長身で。

 綺麗で長い黒い長髪がカーテンコールのように重力に従い垂れている。

 目元は優しく温和な印象を与え、形の良い唇で柔和な表情を作りこちらを見ている。

 白いワンピースを着こなし、その姿は清楚でいて神秘的なまでの美しさを誇る。


 端的に言うならば。


 「綺麗だ……」


 「え?」


 「あ、うわっ!!」


 思わず声に出てしまい狼狽する。ともかく凄く綺麗な人が俺の前に現れた。

 こんな綺麗な人見た事ないっ!! こんな綺麗な人がこの世に居るのかっ!?


 ずっと見ているとその瞳に吸い込まれてしまいそうになる……。

 とっても優しそうで……。そう、その姿はまるで古い書物で見たような……。

 

 「天使、さま……」

 「あら、どうしたのです? どこか悪い所でも?」


 目の前の天使が膝を付き、こちらに目線を合わせる。

 近い近いっ!! 彼女のその大きな瞳が間近に迫る。

 近くで見たら……。本当に美しくて……。


 「あら、顔が赤い。熱でもあるのかしら? 僕、大丈夫?」

 「え、あ、いや……」


 「だ、大丈夫ですっ!!」


 貴方の事を見ていたから赤くなった。なんてそんな事言えない。

 ともかくあまりにも美人すぎる……。なんだ……。本当、なんだ?


 こんな美人がなぜ……。なんでこんな人が……。こんな所に?


 「本当に大丈夫ですか? 横になった方が良くないでしょうか」

 「いや、本当に大丈夫ですっ!! お、俺元気ですからっ!!」


 「そうなのですか?」

 「ならば良いのですけど。でも体調が悪くなったら言ってくださいな」


 彼女が笑う。本当に優しそうに。優雅に……。その様は母さんの実家のばあちゃんに似ていた。

 しかしばあちゃんとは違い、このお姉さんがやると……。

 優雅で、煌びやかな印象を与える。


 綺麗だ……。本当に綺麗だ……。


 なんだか胸の動悸が収まらない。ドクンドクンと心臓の鼓動が激しくなる。

 唇が渇く。呼吸が早くなる。彼女を眺める視線を動かす事が出来ない。


 「あらあら」


 「本当に大丈夫ですか?」


 彼女の手が……。俺の、額に当たる。


 それから。

 俺の意識は途絶えた。


 

 ◇ ◇ ◇


 

 ハっ!!っと。意識が戻る。

 

 己の意識が覚醒する。そして覚醒した先に……。

 あのお姉さんが居た。お姉さんが俺の顔をじっと眺めている。


 「っ!!」


 その光景に驚き声を出そうとするが、しかし体が動かない。

 俺は室内に設置されていた長椅子の上でお姉さんに膝枕されながら横になっていた。

 

 お姉さんが、俺の顔を覗き込んでいる。


 「大丈夫ですか? 急に倒れてしまい心配しましたわ」

 「あ、ああ……」


 俺の顔を覗き込みながらお姉さんが笑う。

 

 「あらまた顔が赤くなって。本当に大丈夫ですか?」


 「い、いや大丈夫ですっ!! その……。その……」

 「しばらく……。こうしていれば……」


 俺はなんて事を言っているんだっ!! そんな無粋な事をっ!!


 「そうなのですね。良かった」

 「元気になったら仰ってください。それまで」


 「こうしていましょう……。ゆっくりと、時を刻みましょう」

 「ほら、ご覧になって。今日は良い日和ですわ」


 彼女が向く方を見ると、そこには大きなガラス張りの室内から見える空が。

 今日は快晴。とろこどころ雲がかかっていて、綺麗な。青空だ……。


 「良き空ですわ。貴方もそう思いませんか?」

 「はい……。俺も、そう思います……」


 彼女の問いに答えると、彼女はその手を俺の頭に乗せ、静かに、優しく撫でた。

 そして笑う。


 柔和に。優しく。


 でも。


 その顔はどこかで寂しげで。やっぱり。


 綺麗だった。


 それから彼女は何も言わない。ただ空を見上げ、優しく微笑んでいる。

 その様子は見覚えがあった。あのクソニートも。たまにそうやって空を見上げていたっけ。


 お父さんもお母さんも。おばあちゃんもおじいちゃんも。

 学校の先生も。用務員の叔父さんも。

 よく行く床屋さんの店主さんも。ゲームショップの店員も。スーパーのレジ係りの人も。


 誰も彼も。みんなみんな。皆そうやって空を見る。


 その先には何にも無いのに。たまにみんなそうやって空を見上げるのだ。

 俺はそれが嫌いだった。

 その時だけ、皆そこに俺を居るのを忘れるんだ。父さんも母さんも。


 その時だけ。皆俺ではない誰かを見る。

 きっと失くしてしまった。誰かを。

 だから俺は、空が嫌いだった。


 嫌いだ。嫌いだけど……。


 このお姉さんの立ち姿は……。


 ああ、なんて綺麗なんだろう。


 俺は空なんて見ない。空を見るのは嫌いだ。空なんて空と雲しかない。

 そんなもの見たって何1つ楽しくないのに。

 

 楽しくないのに……。


 ああ、綺麗だ……。


 空って。


 こんな綺麗に見られるんだな。


 俺は空を見るお姉さんの横顔を。

 ただじっと眺めていた。


 優しく撫でる彼女の指の感触を感じながら。

 恥も外面もなく。ただ、じっと彼女の姿だけを見ていた。


 綺麗だ。ずっと、見ていたい……。

 

 思わず生唾を飲み込む。


 俺は何をしているんだ? 俺は何をしようとしていたんだっけ……。


 俺は。俺は……。


 体が、動かない。この状況から逃れられない。

 声が出せない。出したら全て終わってしまうような気がしたから。


 だから、その状況をただ続けていた。

 ただ。ただ。ずっと……。逃れる事が出来なかった。


 「大丈夫?」


 彼女の横顔が、正面に戻る。

 

 優しそうに微笑んで、俺の顔を覗く。

 本当に。綺麗だなって思う……。


 ふと彼女に問われているのだと気づく。

 そこで。


 大丈夫です。なんて言えなくて……。

 俺はただ、その顔をじっと眺めているしかなかった。


 答えれば、今の瞬間が終わってしまう。

 それが、嫌だった。だから黙った。


 俺のその様子を見て。


 彼女は、静かに俺を撫でるのを続ける。


 そして空を見上げるんだ。


 彼女も、誰でもない。「何か」を見ているのだろうか。


 その事に少し嫉妬を覚えた。

 初対面の筈なのに。なんとなく、悔しかった。


 でも。


 そうしている彼女は綺麗で。可憐で。美しくて……。

 だから。


 ずっとこうして空を見上げていてくれたら。


 なんて。


 そんな事を思いながら。


 俺は……。


 俺は……。


 「ママ――――っ!! お――いママどこ――っ!?」

 「マ、うお」


 なんだ? 施設の奥から、誰か現れた。

 髪色は青。つまりは混合種。ミクスレイの子供だろう。

 まぁ今時ミクスレイなんて珍しくない。でも。


 ママって?


 「あら」


 「春美ちゃん」


 春美ちゃんって……。こいつの名前か?


 「ちょっとあんた、そのガキはなに?」

 「ああ、えっと……」


 「あの、貴方はだあれ?」


 問われた。あ、ああ、答えなければ、ならないだろう。

 

 「お、俺はここで働いてる」


 名前。アイツは名前を呼ばれるのを酷く嫌っていた。でもここでは。


 「京介おじ、京介さんの親戚で」

 「京介の? ふ――――ん」


 目の前の少女が意地悪気に笑う。なんかむかつく態度。

 っていうかこいつは誰なんだよ。なんでこんな所に子供がいる?

 それにママって?


 「あら、えっと……。そうなの京介さんの。な、なるほどなるほど~」

 「えっと、それで~その」


 「あいつなら今買い出しに行かせて今は居ないわ。行き違いになったわね」

 

 買い出し。あのクソニートは居ないのか。

 ならこの女性は。


 「ねぇ、ママ。私、お腹が空いたのだけど?」

 「え? ああ、そ、そうね。朝食の時間よね」


 え、ママっ!? つまりこの女性はこの女の子の里親って事で……。

 こんな若い人がっ!? いや、まぁ里親に若いもクソもないが。でも……。


 「ほら、ガキっ!! 今から親子水入らずで食事するんだから出ていきなさいっ!!」

 「ご飯ですか。あら~~。そうですねぇ、君も一緒に食べて」

 

 「駄目っ!! 親子水入らずなんだからっ!!」

 「こんな部外者のガキはいらないのっ!! ほら、クソガキっ!!」


 「さっさと出ていきなさいっ!!」


 な、なんだこのガキっ!! 失礼なガキだなっ!!

 どこ小だこいつっ!! なんでこんな失礼なガキがこんな綺麗な人の子供でっ!!


 「春美ちゃんも」

 「あん?」


 「一緒に空を見ていきましょう。今日の空は」


 「本当に、綺麗ですよ」


 彼女が笑う。本当に。本当に優しそうな顔をする女性だ。

 少し、クソニートに似ているかな。なんて思う。でもあいつは髭面の汚らしいおっさんだ。

 そんなおっさんと、こんな可憐な女性とでは似ても似つかない。


 似ても似つかないが……。 でもどこか、似ていると思う。

 だから、懐かしさも感じてしまうのだろうか。


 「…………………………」


 青髪のガキがしばらく沈黙した後、こちらにスタスタと歩いてきて。

 反対側の膝に無理やり座って。


 「そいつ撫でるの禁止ね。あんたは私のママなんだから。私を優先する事」


 なんて、妙な事を言いだした。

 なんだこいつっ!! このお姉さんは……。このお姉さんは……。


 ああ、そっか。


 俺は赤の他人なんだった。


 それがなんだか無性に寂しく感じ、思わず涙を流しそうになった。

 今会ったばかりの知らない女の人になぜこんな不躾な感情を抱くのか。

 それは分からなかった。でも、やっぱりなんだか悲しくて。


 精いっぱい涙も流さないよう唇を噛んだ。

 そんな俺の頭を。


 彼女はそっと触れて、静かに撫でる。


 見れば、隣の青髪も撫でられている。

 彼女の顔を見れば、隣の青髪の方を見ている。


 それは仕方ないと思う。だってあいつはこの人のママなのだから。

 悔しいなんて思うのは筋違いだ。


 でも悔しい。なんで、なんだろう……。

 悔しい。だけど、その状況で唯一、良い事はあった。


 お姉さんの横顔を。

 眺める事が許されたから。


 俺は。


 ああ、俺は……。


 ただ、その時を静かに楽しんでいた。


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