第54話 ニート最後の朝。せっかくだしちょっと散歩しに行こうかなぁ。
「ふわぁ」
起きた。おお、知らない天井だぁ。えっと、ここは何処だったっけ?
ああそうだ。研究所の応接室だ。そこに布団を敷いて寝たんだっけ。
隣でまだ博士が寝ている。
寝息を立てて、スゥスゥと。うんうん、こうしてみると普通の子供だなぁ。
さて、お腹が空いたけど。
「この場所、炊飯器も冷蔵庫も電子レンジも無いのよねぇ」
戦術歩行兵器研究所。ここには生活に必要な家電は何1つなく。
朝起きてお腹が空いたとなっても何も口にする事が出来なかった。
「またコンビニに……。でも毎回コンビニ行くってのもねぇ」
やはりここを職場というか。
住処にするという話ならもっと色々と生活に必要な物資が欲しい。
「水飲むのにわざわざトイレ行かないといけないからなぁ。食堂欲しいんだけど無いし……」
ここで働いていた職員が全員ストライキをして辞めていったという話。
施設の福利厚生の無さを思えば当然と思える。
シャワールームも無いし給湯室みたいなところもない。
これじゃあまぁ、辞めるだろう。
博士はあんな調子だし、きっと陳情しても受け入れて貰えなかったのだろう。
この戦術歩行兵器研究所は博士のワーカホリックというか。
人心無視の意思がこれでもかと見て取れる。
結城くんのお父さんが言っていた言葉。人材を増やしてくれるかもって話。
そうなったのだしたら、まずこの不便な所内に一番の非難が届くだろう。
せめて自動販売機と。あとは。
食堂欲しい……。給湯器欲しい……。他には他には……。
ああ、なんでも欲しい。でも今ともかく欲しいのは。
ガスレンジ、欲しいなぁ。
あと炊飯器っ!!
よし、ここは博士にお願いしてみよう。
「博士博士、起きてください博士」
「うう――ん……。なによ、いったい……」
「ガスレンジと炊飯器買ってくるのでお金くださいな」
「ああ~ん……。金ぇ?」
「うぅん……。そこに金庫あるから。そこから勝手に出しなさい」
「番号分からないですけど」
「番号は12345678よ。そうすれば開くから……」
あらぁ。こういう所本当に適当だな博士は。
まぁいいや。金庫金庫と。あった。えっとコードを入力して。
おお、かなり入ってるっ!! 現金がいっぱいだぁ。
現金か。昔は電子決済なんてのがあったけど、今はどこも現金だなぁ。
まぁ電子決済は社会が不安定になると使えなくなるから仕方がない事だけど。
でも今は多少電子決済も復活してるって聞いたぞ。
若い世代が利便性を求めて使用しているらしい。
あれから20年。やはり世代交代って感じだぁ。
良い事なんだけど、ちょっと寂しいかな。
博士はそんな感じ無いみたいだけど。金庫にはびっしりと現金。あとは金塊。
まぁ「歴史」を学んでいる彼女からすれば電子決済など信用に値しないか。
あとは銀行も。いやぁ懐かしい。
かつては銀行から現金を引き出して金塊などを買い漁る民衆でごった煮だった。
今はその煮物も涅槃に旅立っていったけど。
ふふふ、かつて見た日常の一コマ。
行動のひとつひとつ。そこから「過去」が現れるのも年を取った証拠だなぁ。
ともかく10万円くらいあれば良いかな。
他にも足りない物があったら買って来よう。
「博士。今から買い物に行ってきますけど、何か欲しい物はありますか?」
「うう~ん……。プリン……」
プリンか。あら子供らしい。よーしプリンね。分かったぞいっ!!
よし、そう言う訳で。
街ブラ開始と行きますかっ!!
いずれ来るであろう新人さんの為に、色々揃えておかなくっちゃっ!!
「じゃあ博士、行ってきますね――」
「ううぅん……。行ってらっしゃいママ……」
ママか。人造的に作られた筈の彼女のママ……。どんな人物なんだろうか。
やっぱり教育ママだったりしたのかな。
懐いているみたいだし、あんまり酷い事はしてないみたいだけど。
でも12歳の娘を自宅で養育せず……。
おっと。
深入りしすぎか。
ともかく。
久しぶりの街。見て回ろう。
◇ ◇ ◇
ガタンゴトン。電車で揺られ~~窓の外。
見えるのは。
「ママ~~。ほら、鳥さんだよ~。可愛いね~」
「そうね。自然がいっぱいで楽しいね――」
窓の外は一面の森。つまりは「裏山」だ。
あれから20年。整備されていない地区はすっかり自然に堕ちた。
その為地区と地区を移動する際には必ずその裏山を目撃する事になる。
時折見かける、人為的に作られたビル群が自然の草花に覆われている姿。
悲哀と共に儚げな美しさを感じる。その朽ちたビルの窓から見える光景。
沢山のデスクと古びたパソコンが並んでいる。あ
あ、そこでかつて誰かが働き、そして誰かを育てのだろうか。
「ほら、ママ。あそこ。ビルさんにお花が咲いてるよ~」
「本当だ。綺麗だねぇ」
環境整備の名の元に、ああやってビル群に花を飾って悲壮感を薄めている。
しかしよく見ればそこにある花は。
シオン。ワスレナグサ。デージー。ヒガンバナなど。
込められた花言葉の意味を知れば、なぜそこにそれがあるのか。
気付く人は気づくだろう。
「ねぇ、お兄さん」
「うん?」
「お花、綺麗だねぇ」
「あら」
「そうだねぇ。綺麗だねぇ」
あら。向かいの席の女の子に話しかけられちゃった。
そうだねぇ。お花綺麗だねぇ。
子供の発言を聞いて母親がこちらを見る。最初は笑顔だった。
しかし俺を見た瞬間、ギョッとした顔をしてその場を離れた。
あらら。一体どうしたのかな?
何が自分に不都合でもあったかな。なんて思い自分の恰好を確認してみると。
ああ。そうか。戦闘服着たまま来ちゃったのか。
ピッチリ戦闘スーツを着たまま外に出てきてしまった。
たぶんこれを見た事で母親がビックリしたのだろう。
だがちょっとピッチリ戦闘スーツ着たくらいでそんなに驚くかぁ?
見た感じ。30代くらいの女性だったなぁ。30代。
ああ。
そっかぁ。
うん。えっとぉ。
どこかで服買える所あるかなぁ。
電車がノア地区に近づく。
それから電車はドーム外装のトンネルに吸い込まれ、しばらく灰色の景色が続く。
そうしてトンネルを抜けた先に。
損壊した巨大な宇宙船。それを囲うように作られた街が現れた。
宇宙船の全長は2000mを超えるだろう。
よく見ればそこらかしこに穴が開いている。
何かしらの攻撃を受けて開いたような穴。
穴はそこらかしこに広がっており、大変痛々しい。
しかしその穴には今はガラス窓が付けられ、中で人々が下界の景色を眺めていた。
人類救済船ノア。かつて1000機以上作られ。
そして1機しか残らなかった。
そんな。過去の遺物。
先端がとんがりトゲっと末広がりに。
そう、まるで某とんがり〇ーンみたいな見た目。
銀色に輝く外装がキラキラしていて美しい。きっと沢山磨かれてるんだろうな。
とんがりの先端、実は前ちょっと凹んでた。
でも今は修復してしっかりとんがりだ。
修復した部分の色がちょっと違うのはご愛嬌って事で。
定員100万人の超巨大船。ううーん。とってもSFじゃないっ!?
それから景色はホームに移り、人々が降りてくる。
降りる人はぁ。まぁまばらかな。
最近はみんな首都方面に集まっているって聞く。
ちょっと前は誰もが集まるのを嫌がってたって言うのに。
そんな訳で、俺も首都に降り立つ。駅を出て外を見ると流石に人が沢山居る。
髪色はピンクだったり青だったり。やっぱり昔と比べて色付きが多くなってるな。
世代さんが変わってるねぇ。ふふふ。
よーし。今日は楽しい首都ショッピングだ。軍資金も結構あるっ!!
今日は沢山。
沢山、遊んじゃうもんねっ!! うわ――はっはっーっ!!




