第37話 義兄と義弟。俺にとっては頼れる兄さんだっ!! 頼りすぎってよく言われるけどぉ。
「京介くん。こんな所で何をしてるんだい? 帰ったって聞いたけど」
あらら、レイジさん。
俺の本名は言っちゃいけんですよぅ。なるべく言うの避けてんだから。あらあら。
「うん? あ、所長」
「あはは」
レイジさんが見たのは俺に抱っこされながらワイシャツの襟に齧りついている春美ちゃんの姿だった。
ああ。職場の人に見られちゃった。あらあら。
「これは? 京介くん」
「えっとぉ――――」
「うぅうううう、ママぁ。ママ、私、頑張るぅうぅ……」
「ふむ」
戦術歩行兵器研究所の所長。三日月春美。そんな大層な肩書を持つ天才科学者。
そんな彼女が36歳無職のおっさんにしがみつき醜態を晒している。
えっとぉ。ご見解は?
「随分無様な事になっているね。普段の彼女はもっと周りの者全てを見下す狂犬であったのに」
「京介くん。一体何をどうしたらあの狂犬がここまでになるんですかね」
え。えへへ。知らない。あと名前呼ぶの止めて。
ニートって。ニートって言っておくれぇ。
「えっと、レイジさんはなぜこちらに?」
「技術博覧会がストからのクビで中止になったからね。これからどうするか。その話し合いかな」
「俺テストパイロットって事になったんですが」
「聞いてる。でも逃げたんだろう?」
「戻って来ちゃいました。それで労使交渉しようと思って」
「君が? 働く気になったのかいっ!?」
いやん。そんな驚かないで。そう、なんというか。
「えっと、ゲームをしてお金貰えるなら……。そのぉ。得かなって思いまして」
「ゲーム。確かにウォーカーの操作方法はゲームを参考にしてるね」
そうそうっ!! だから、そういう訳って事でぇ。駄目?
「そうか……。君が仕事をねぇ」
「いやぁ、フルタイムは流石に……。週3。5時間くらいの感じで」
「意外と働くね。大丈夫なのかい?」
ま。まぁこのくらいなら……。バイト代も。出たら良いなぁって。
「そうか……。それは良い」
「たかしも、由美も喜ぶよ。きっと」
「あはは」
「京介君。君は俺と共に、あの大戦を生き残った存在だ」
「だから、君が人生に絶望してしまったのは、よく分かる……」
「僕達は……。あまりに多くの人達を失った」
「…………そうですね」
「たかしの事、すまないと思ってる。あんなに色々言って、ね」
「いやいや、たかしくんは可愛いですよ」
「ああ、だが……。君に悪いと思っていてね」
「大丈夫ですよ。ああ見えて俺の事心配してくれてるんですよっ!!」
「ああ。たかしは……」
「たかしは真実を知らないから」
「あ、はい……」
「これで良かったのかって。思ってる」
「あ、あはは」
「由美も記憶処置を受けている。だから今はたかしと一緒になって。まったく由美も酷いもんだ」
「あ、あはは……」
「君のご両親も処置を受けているね。今やあの大戦を生き残った大半が処置を受けている」
「です。ね」
「でも、君は僕と同じだ」
「あはは」
「君はなぜ受けなかった?」
「あの時君も処置を受けていたら」
「たぶん、君はこんな事をしていなかった」
「は、はぁ……」
「君は……。君は整っていると思う。初めて君を見た時思ったよ」
「なんて美しい青年なのか。って」
「お姉ちゃんも可愛いですよ?」
「君が処置を受けていたら、君も普通に就職して結婚して。それでたかしに従弟を……」
「あ、あのレイジさん」
「そ、その……。話が逸れてますんで」
「あ、ああ……」
「そうだったね」
「ううぅん……。ママぁぁ……」
「ママ。か」
「彼女達にちゃんとした両親を作ってやれなかった」
「科学者として、責任を感じている」
「僕達がもっとしっかりしていたら」
「それでも、俺達は生き残りました。レイジさん」
「それで」
「それで、良いじゃないですか」
「この平穏はいつまで続くのだろうか……」
「あ、えっとぉ……」
「本当に、我々は救われたのか?」
「我々は……」
「いまだ、その答えを出せずにいる」
「そう、ですね」
「ともかく君は貴重な「知っている」存在だ」
「僕として、君がそういてくれて、嬉しく思っている」
「あ、はは……」
「でも。君が辛かったら」
「大丈夫」
「俺は、今の俺で大丈夫ですよ」
「そうか」
「はい」
レイジさん。こうなると。話、長いんだよなぁ。
でも久しぶりにレイジさんとしっかり話したな。ふふふ。彼は俺の頼れる義兄だっ!!
これからも元気で居てくれると良いなぁ。
「ううぅん。ママ……」
「さて、しかしこれはどうしようね」
うん? ああ、そうだね。しかしこうしてみると普通の子供だ。
可愛らしい女の子。たかしくんも小さい頃は可愛かったかなぁ。
「あの、俺面倒みますよ」
「そうかい? この子、相当のじゃじゃ馬だよ」
「じゃじゃ馬はたかしくんで慣れてますよ」
なーんてっ!! あははっ!!
「小さい頃はあの子はてんかんの症状があって。妻も働いていたからずっと君に見て貰っていたね」
「そうですねぇ。急にバタっと倒れたりして、色々苦労しました」
「昔はあんなの懐いていたのに。今ではニートニートって。本当、恩知らずな子だよ」
「子供ってそういうものでしょう? 良いじゃないですか。元気に育ちましたよ」
「元気すぎだよ。子供って本当、手間がかかる」
「子供嫌いですか?」
「いや、そうじゃない。でもどうしても前の子を思い出してしまってね」
「そうですか……。綾子さんも……。天国で、元気にしてると良いなぁ」
「今やあっちに居る人の方が多いだろうね。僕達は行き損ねたのさ」
「いつか行けますよ。俺もレイジさんも」
「君はもう少しここに居なさい。次の健康診断も行って貰うよ」
「はええええ。病院って嫌いなんですよね」
「君もそういう年になったんだ。諦めなさい」
「あ、あはは――」
健康診断。嫌いなんだよなぁ。っていうか病院全般が嫌い。
はぁ、でも俺も36。そろそろガタが付く頃か。生活改善、中々難しいよなぁ。
「それじゃあ僕は行くよ」
「あ、はい」
「レイジくん」
「あ、はい?」
「君の事を実の弟のように思っている」
「あ、あはは」
「だから、これからも元気でいてくれ」
「そう」
「君は必要な人間だ」
「君の代わりなど何処にも居ないのだから」
「だから」
「これからも元気でね」
「はい」
「ありがとう。レイジさん」
「ああ、じゃあ僕も行くから。えっと、本当に」
「ママぁぁ……」
「本当に大丈夫かい?」
う――ん。まぁでっかいたかしくんだと思えば大丈夫だろうっ!!
ともかくなんか本格的に就職という道に足引っ張っていかれそう。
それが良いのか悪いのかは分からないけど。
いやぁ。外面的には良いんだろう。両親も俺に働け働けとうるさいからなぁ。
智代さんも新しい人生を送ろうとしている。それなら。
俺も。
変化を受け入れる事は必要かも。
レイジさんが帰っていき、その場には俺と幼児退行した春美ちゃん。そして。
「あの。京介、さま……」
「俺はニートだよ」
「そう呼んで欲しいな」
「えっと。あ、はい……。すいま、せん……」
アニエスさんとコリーヌちゃん。彼女達が残った。
あの場で会話に挟まるとマズイと思ったのだろう。画面の中で動かずに黙っていてくれたらしい。
結果俺の名前が京介だと分かってそっち呼んで来たけど……。
久しく呼ばれてないその名前。もはやレイジさんか両親くらいしか言わない。
でもそれで良いと思った。しかし就職し人との関わりが増えれば自然とそう呼ばれる日も来るだろう。
俺は「うぅううううん……。ママ……。おっぱいぃぃ」
「だから俺からおっぱいは出ないよ。春美ちゃん」
これが正しい行為なのか。なんて先の自分にしか分からない。
でも精いっぱいやってみよう。
精いっぱい。そう。
「じゃあ進もうかっ!! アニエスさん。コリーヌちゃんっ!!」
精いっぱい、ゲーム。してやるぞっ!!
「あ、コリンヌです。コリンヌ」
あ、やっぱり? 正直そうなのかって思ってた。明らかにコリンヌって呼ばれてたから。
いやぁ。最初はコリーヌって聞こえたんだよね。それでなんとなく訂正出来なくて……。
でも本人の口から言われたならコリンヌで良いのだろう。ならっ!!
「でも、コリーヌで良いですよニート様」
「あら」
「そうかい?」
「はい。ですから私達もお呼びします」
「ニート様、っと」
うん。
そうだね、ありがとう。
じゃあ行こうかっ!!
20日以上かけて移動をっ!!
うん。
うん……。
なんとかならんかな。




