第34話 あらら。喧嘩はいかん。喧嘩はいかんよー
「英雄様がこちらの言葉をっ!! え、英雄様聞こえますかっ!?」
「な、なんとっ!! 英雄様って女の子だったんですかっ!? お、驚きですっ!!」
「あはは、なんか驚いてわ。随分感情豊かなNPCみたいね――」
「お、おお……。で、ですねぇ。あ、あはは」
ゲームに通信機放り投げたら、なんか通信出来るようになってしまった。
これは、もう……。ゲームがどうだなんて言える状況じゃないよね。
だって普通に会話出来るんだから。なんとも……。なんとも……。
なんとも摩訶不思議な状況だぁ。
「英雄様っ!! あ、あのっ!! 聞こえますかっ!! 英雄様っ!!」
「英雄様? なによ英雄様って」
意思疎通出来たのは良いけど、状況は、ちょっと……。変な感じ。
「あはは、あんたこいつ等に英雄って呼ばせてるの?」
「ふ――ん。は――ん」
「ぷぷぷぷぷ」
「所詮ガキって訳ねっ!! あ――おかし――っ!!」
幸い彼女はゲームのNPCだと思ってくれているようだ。
いやまぁ俺もそう思っていたんだけど……。
「しかしテレビの中に物を送るなんて。物質転送の技術、いつのまに民間下りしたのかしら」
うん? あ、この技術あるの?
「あ、あ。凄いですよね――。ゲ、ゲ。ゲームの中に物を送るなんて」
「一般的な物質転送の技術はもう確率してるわ。補給の際にいちいち装填したり武器を持ち換えたりするのは手間だしね」
ええ――。そうなの――? 今はそうなってるんだ。ならこれも別に不思議な現象じゃないのかな。
「ウォーカーもそうやって武器を転送する仕様になってる。ライフル程度なら手にそのまま転送出来るけど、他重火器は流石に無理ね」
「だから裏山とかに転送装置を埋めていざって時にそこから取り出すの」
なるほど、だからウォーカーには「持つ」機能があったのか。
わざわざ持つコマンドが設定されてるのはそうやって武器を持つため。
そういう事だったのかぁ。流石最新兵器。色々考えてる。
「あ、あの――。英雄様、先ほどからなにを」
あ、しまった。そうだった。えっと。ああ、どうしよう。
ゲームって事になってるからあんまり込み入った事は……。うん、う――ん。でも大丈夫だったり?
流石に、こう……。ゲームの中のキャラが現実になんて……。荒唐無稽すぎる状況、だし。
「英雄様だって。あはは、しかし随分はっきり物を言うNPCね」
「は、はぁ。そ、そうですね」
「これが民間のゲームなの? どこ製なのこれ?」
「いや、あのこれは。そのぉおお――」
なんて言う? なんて言う? う――――ん。
「これは。これはぁああああ――」
「レイジさんが作った、ゲームでしてぇええええ」
「レイジが?」
す、すいませんレイジさんっ!! そういう事してお願いっ!!
ほ、他に説明のしようがなくて……。あ、あ。後で説明致しますのでぇえええ。
「これレイジが作ったの?」
「え、ええっ!! レイジさんが……。そのぉ」
「え、え――あいを使って作ったシミュレーションだって」
「AIね。確かにレイジはそういった分類のエキスパートだわね。ふ――ん、こんなの作ってたんだ」
え? そうなのか。へぇー、知らなかった。
「ウォーカーのパーツでは主に姿勢制御方面を担ってるわ。ああいうのは高度な計算が居るから」
「だから計算をAIにさせてるの。レイジはそう言った意味でウォーカー開発の協力者よ」
あ、そういう専門的な事は分からんので。しかしレイジさんはそんな事して働いてたんだ。
へ――。あとでたかしくんに教えてやろ。
「しかしゲーム、ねぇ」
「あ、えっと、そ、そうですねぇ……」
えっと、なんて言うべきか。うーんとぉ。
「レイジのやつ、あの計画まだ未練があるのかしらね」
はい?
「いや、未練が無いからこそゲームって事で放出しのかしら。忘れ去られるくらいなら思い出にってやつ? なるほどね、まぁらしいっちゃ、らしいか」
どういう事だ? 計画って? なんか昔あったのかな。
「なるほどね。はいはいそういう事、理解したわ」
なんか知らんが理解したらしい。変な言い訳考えなくて良くてラッキーっ!
「ともかくあんたはこのゲームのテストプレイをしていると。そういう訳ね」
「え、え。ま、まぁ」
そういう事? う――ん。そういう事でいっかっ!!
他に説明のしようがないし。
「え、えっとぉ。これはレイジさんには内緒でぇええ」
「ふん、まぁ良いわよ。同じ技術者の端くれ。凍結された計画の未練。分からない訳じゃないわ」
凍結された計画って? まぁレイジさんの仕事関係の話か。
あの穏やかなレイジさんにも計画とか作ってチャレンジしてた時期があるんだなぁ。
まぁ偉い技術者なのだから当然か。そう思うと色々と感慨深い。
「ともかくこれがレイジの破れた夢の結晶って訳。あはは、中々面白いじゃない」
「えっと、英雄様。先ほどから何を仰っているのでしょうか……?」
「2人居る? ううーん。どっちが英雄様なのだ?」
あ、俺達の会話に着いて来られず、画面の2人が困惑してる。
まぁそりゃそうだ。今まで無言でソリ引いてた奴が意味不な会話をペチャクチャ続けてんだから。
さて、対話できるようになったとはいえ、何を言えば良いのか分からない。
ともかく、なんだ。自己紹介でもしとくべきか?
「こいつら対話出来るの?」
「え? ああ、はい。まぁ、出来ます、ね」
「ふ――ん。なら」
「おほん、私は超天才の科学者であり技術者。三日月春美博士よ。敬いなさいっ!」
「あ、は、はいっ!! 英雄様の名前はみかづきはるみさまとっ!!」
「あ? 違うわよ。あんた達が英雄だって言ってるのはウチの職員。私はこいつの雇い主よっ!!」
「や、雇い主? あ、あ。つ、つまり英雄様のご主君様であると」
「ご主君? ふんっ!! まぁそういう事になるわねっ!!」
「英雄様の主君だって……。ヤバイよお姉ちゃん。し、失礼のないようにね」
「ば、馬鹿にするな。貴人へのれ、礼はわきまえている」
あらら。雇い主って事になっていつのまにか春美ちゃんが貴人になっちゃった。
まぁこういうのも楽しいかもしれないし、放っておいて、良いかな。
ともかく今はこの場をなんとかこう、切り抜けてだね。
「あんた達、名前は?」
「は、はい私の名はアニエス。この小さいのが」
「だから小さいのは止めてって。わ、私はコリンヌです。ミカヅキハルミ様」
「春美で良いわ。私は春美よ。ふーん。流石、しっかり受け答え出来るのね」
「お、お褒めに預かり光栄です。は、春美様」
「ふん、そうねっ! 私を敬いなさいっ!!」
「は、ははぁ」
貴人として敬られたのが嬉しかったのか、彼女は上機嫌に腕を組む。
女の子3人の会話。男の俺が入り込むよりこっちのが話早かったり?
俺はコントローラーを握り、ゆっくり進む。
せっかくだし3人で会話してもらおう。ずっと無言でソリを引くのには実はちょっと飽きていた。
彼女達の事情とか色々聞いて欲しい。その旨、春美ちゃんに伝えると。
「良いわよ。色々質問すれば良いのね。面白そうだしやったげる」
彼女は快く了承してくれた。意外とノリ良いな。こうなると普通の子供だな。あはは。
「それで、あんた達はどこの誰で何なの?」
「あ、はい。わ、私達はエレノア女王国。王女付きの女王騎士。エレノア・ルディア・アインハルト・アニエスと申します」
「わ、私はエレノア・ルディア・アインハルト・コリンヌと言います。は、春美様どうぞお見知りおきを」
「長い名前ね。なんでそんな事になるのよ」
「え? えっと。名の意味ならば最初にエレノアが出身国名。ルディアが生まれた場所の地域名。アインハルトが家名で、コリンヌが名になります」
「それを合わせてエレノア・ルディア・アインハルト・コリンヌ。エレノアという国で生まれたルディア地方に住むアインハルト家のコリンヌ。そういう事です」
「国? ふ――ん。国、ね……」
「は、はいっ!! そ、そういう訳でして」
「えっと、そちらの名前の由来は?」
「ああ?」
「ああ……えっと。名前の意味は? っと」
「三日月が苗字で春美が名前よ」
「苗字、とは? 国名は名乗らないのですか?」
「国?」
「はい、国です」
「別に……。名乗らないわよ」
「ああ、そうなのですか」
「へ――。名前、短いですね。ふふふ、羨ましいです。こっちの名前はかなり長くて。本名覚えるの大変なんですよ。領地替えだったり、国を変えて嫁いだりすると名前変えたりして大変になったり」
「そうだなぁ。国を変えるだけで名前も変わるからな。ベルリアン帝国だったり、アステール諸国連合だったり、覚えるのが大変だ」
「国を変われば名も変わる。本当、誰がこんな事考えたんでしょう」
「庶民は国名と名だけだが、しかし苗字とはどういう言葉の意味なんだろうな」
「分からないけど、きっと何かあるんだよ。英雄様の国の文化。気になるなぁ」
「そうだ。英雄様の世界ってどんな国とかあるんですかっ!?」
「風習とかやっぱり違うんですか? 英雄様の国はっ!!」「舐めてんのあんたら」
「え?」
あら?
「国? 国ですって?」
「国? はぁ――――――――。国」
あらら。どうしたんだい? ちょ、ちょっと。
「はい……? あの、夏美さま?」
あら? えっと――。あのぉ。
「国? よくも私達にそんな事言えたわね」
「い、いえ……。英雄様の世界はどんな国があるんだろうなって……」
「国? は――――――ん。煽ってるの?」
「え、いや。そんな事は……」
「国っ!? はぁああああ国ねっ!? レイジのやつ、舐めた事をっ!! 何が国よっ!!」
「あ、あの……。何か気に障る事を言ったでしょうか……」
「国っ!? 国ですってっ!! 舐めてんのっ!?」
「国なんてそんなものどこにあるって言うのよっ!!」
「いえ……。国は、複数あるもので……」
「そりゃあ20年前は沢山あったでしょうよっ!! でも今そんなものどこにあるって言うのっ!? 今はどこもかしこも「裏山」になってるわっ!!」
「公園よ公園っ!! 国なんてどこも公園よっ!! 意味分かるっ!?」
「いえ。あの……」
「国ですって? そんなのある訳ある訳ないでしょっ!! 私達の人口分かるっ!?」
「え、いえ……」
「人口400万っ!! 私達はもうそれだけしか居ないのっ!!」
「え、えっと……。それは、多い方。では?」
「20年前は80億居た……。今はもう400万しか居ないのっ!!」
「は。え……」
「それで? あんたは英雄がなんですって? ウチのテストパイロットを? 英雄として呼んだ? そうなのかしら?」
「あ、はい……。英雄として、召喚を……」
「何様のつもり?」
「は。い……。あの」
「それでなくても少なくなった人間をなんであんた達に預けないと駄目なのよ」
「あ。あの……」
「大戦後は30万にしか居なかった。それを「ミクスレイ」の解禁をしながらゆっくり増やしてるの」
「ミクスレイ?」
「人造人間よ事よっ!! あんたが召喚した男は。こいつは貴重な自然分配の人間よ。ミクスレイの子供は生まれにくい。だから将来の為にこいつみたいな「ナチュラル」の存在は絶対に必要なの」
「人1人っ!! それだけで今は大事な人類の資産なのっ!!」
「それなのに軽々しく召喚ですって? なにが召喚よっ!!」
「この泥棒がっ!!」
「どろ……」
「また私達から奪うつもりっ!? 私達は絶滅危惧種なのっ!! 1人だって無駄には出来ないわっ!!」
「たとえ冗談でもっ!!」
「召喚だなんて、そんな事許さないわよっ!!」
「1人も無駄に出来ない。私達は私達の文化を、私達が私達だった証を守らなきゃならないんだっ!!」
「召喚ですって? つまり誘拐でしょう? そういう小説の文化があったって事は承知してる」
「でも」
「不愉快だわ。私達から人を。今後私達が私達で居る為の。大事な資産を奪おうなんて」
「私達は……。そんなつも、りは……」
「貴方達が作り物で良かったわ」
「もし貴方達が本当に召喚なんてしてたのなら」
「私は私の全力を持ってあんた達を一人残らず皆殺しにしてやる」
「っ!!」
「絶対に許さないわ……。絶対に……」
「あ、ああ……」
「殺す……。殺す。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
「あんた達を一匹残らずっ!!「あ――――。よーしよし」
「ちょ、ちょっと何するのよ抱きついて来ないでっ!!」
「ほ、ほら。これはゲームだから。だから、ほら。あんまりカッカしないで」
「うるさいうるさいっ!! たとえゲームとはいえ、召喚なんて、そんな事許されないわっ!!」
「こんな国がどうだなんて言ってる奴等になんで私達の大事な資産を分けなきゃならないのよっ!!」
「国を持てるくらい人が居るならっ!! 自分達でなんとかすれば良いのよっ!!」
「なにが英雄よっ!! 体よく誘拐してるだけの癖にっ!! こんな他力本願なクソ共っ!! 毒ガスなんでも使って皆殺しにしてやれば良いんだわっ!!」
「なにが国よっ!! 国っ!! 国っ!! 私達はもうそんな贅沢なもの望めないのにっ!!」
「こんな頭空っぽな連中、救う価値ないっ!! こんなゲーム早く辞めてしまいなさいっ!!」
「死ねっ!!しねしねしねしねっ!!」「ほ――ら。大丈夫だから。大丈夫だからね――」
「大丈夫。怖いのはもう無いから。そんなに急がなくて良いんだよぉ。ゆっくりで良いから」
「なにをっ!! 脅威は「大丈夫」
「ほーら、大丈夫だから」
「大丈夫」
「君は頑張ってるよ」
「だから」
「そんなに怒らないで」
「俺達はまだ生きてる」
「大丈夫、大丈夫だから」
「私、は……」
「大丈夫。大丈夫だから……」
「もうちょっと」
「ゆっくりで」
「ゆっくりで。良いんだよ」
喧嘩はいかん。喧嘩はいかんよ――。いやぁ、なんか急にカッとなっちゃう人ってたまに居るよね。
女子3人集まれば多少は明るい話題でも出るかと思ったけどまさかこんな事態になるとは。
やっぱりしっかり「教育」受けてる子は不安定だなぁ。
今の学校教育はやっぱり正しかったかな。
たぶんこの子が異常なまでにお仕事お仕事言うのは焦ってたからなのかなって。
別にそんな焦らなくても良いのに。まぁ昔は~~? 色々あったけど。今は。
今は。俺がニート出来るくらい平和だし。
うんうん、そういう訳でっ!!
そういう訳でぇえ。
「えっとぉおおお……」
「ぐすっ……。うう。ひぐっ。ううう… お母さん……。お母さん……」
「…………………………」
「英雄の世界は……。滅亡寸前だった……? そんな……。そんな」
えっと。
この状況どうしよっかな。




