第26話 バイト初出勤っ!! あら君は迷子かな?
「ええっ!! バイトですかっ!?」
「そうなんだよ――。ちょっとほら、欲しい物があって」
「欲しい物って?」
「え、ああ……。まぁ、ゲーム機?」
「そ、そうなんですか……。で、でもす、凄いですっ!!」
「社会復帰なさるんですっ!?」
うう……。そういう訳じゃあないんだけど。
朝4時。智代さんが尋ねてきた。
スーツを着込み、ビシっと髪型を決める俺に最初はびっくりして誰ですか? なんて聞いて来たけど。
俺だと気づくと整えた髪を触ったり、剃った髭をジロジロと観察しだした。
「な、なんというか……」
「み、見違えましたねニートさんっ!! こ、こうビシっと決めると……」
「ニ、ニートさんは本当に36歳なんですか? いや、こうしてみると……」
「お若い……。あと」
「か、かっこいいですよ。ニートさん」
そうかなぁ。ふふふ、まぁお世辞でも嬉しいよ。
「バイトする事になっちゃってさ。本当は嫌なんだけど、でもこうでもしないとID取り戻せなくて」
「IDですか? 今まで持ち歩いてなかったんですか?」
「実家にあったんだよねぇ。借金とか勝手にしないよう取り上げられてて」
「あら、あはは」
「そういう訳でバイトして仕事するからって名目でIDを実家から取り戻したの」
「そうなんですか。いや。しかし見違えましたねニートさん」
「あはは、そうかな」
「あ、そうだ。もうニートじゃないんだからニートさん、なんて呼べませんね」
「ニートさん、お名前なんて言うんですか?」
名前、か。
そうだよな。バイトするんだから。
名前くらい、名乗らないとな。
俺の名前は……。
「まぁ」
「ニートで良いよ。短期バイトだし」
「あらら」
「短期って事は、終わったら?」
「またニートっ!!」
「もう」
「だからニートで良いよ。そっちのが呼び慣れてるし」
「駄目ですよ。そんな名前慣れたら」
「あはは、ごめんごめん」
「でもそうですか。ニートさんも、新しい道を進もうとしているんですね」
いやぁ。新しい道って程じゃないと思うけど。
「私も」
うん?
「私も正式に「クビ」の通告が来ました」
あっ。
「今日はその報告に来たんです。ふふふ、そんな日にニートさんの晴れ姿を見られたなんて」
「ちょっとしたサプライズってやつですか?」
あらら、そっか。正式にクビが決まったんだ。そういう話あったもんねぇ。
軍人の道。訓練いっぱい頑張ってた思うけどそれが無駄になっちゃうのか。
それはちょっと、寂しいような。
「今度から政府が設立した学園で学生として過ごす事になりました」
「学生さんに?」
「はい、寮に入って色々と社会生活を学びます。あと勉強も」
「良い事、だと思うけど。やっぱり複雑かな。気分は」
「そうですね。兵器としてお払い箱になった訳ですから、複雑です」
「普通の女の子に戻ります。じゃあ駄目?」
「駄目って訳じゃあないですけど、でもまぁ……」
「なんとかやっていきますよ」
「友達、沢山出来たら良いよねぇ」
「ふふふ、そうですね」
「でも」
「もう、ここには……。来られなくなっちゃうかな。寮生活なので」
「そっか」
あら悲しい。でも。
「でもそれが普通なんだよ。今日から普通の人生を生きよう。君はまだ16歳。まだまだやれること、沢山出来る筈だから。頑張ってね。新生活万歳だっ!」
「そうですね」
「うんうんっ!!」
「最後に、良いですか?」
あら、なんだい?
「えっと。バイトの時間はいつ頃で?」
「えっと、8時だって言ってたな」
「ならまだ時間ありますよね」
「そうだね」
「膝枕」
「膝枕、していって良いですか? 時間まで」
あら。
「じゃあお願いしちゃおうかな。正直まだ眠くって」
「ふふふ、お仕事する訳ですしね。お互いそれぞれ新しい時間出来ましたね」
「そうだねぇ。俺の場合は短期だけど、まぁ思い出として」
「最後に、のんびりしよっか」
「はい、ニートさん」
彼女の膝に座って……。あ、やべ眠……。ちょちょちょ、待てってっ!!
こう、最後みたいな感じだし、ここはもうちょっと粘って……。
あ、眠……。
◇ ◇ ◇
「ニートさん」
うん?
あ……。
「ふふふ」
「ニートさん。もう8時ですよ」
うん?
え?
「もう8時?」
「はい8時です」
「バイト先まで電車で1時間くらいかかるんだけど」
「え」
「……………………」
「……………………」
「うわぁああああああああ――っ!! 遅刻だぁああああああ――っ!!」
「あ、あわわわわっ!! す、すいませんニートさ――んっ!!」
「そ、それじゃあ智代さんっ!! 学校生活楽しんで――っ!!」
「あ、ニートさんもっ!!」
「お仕事、頑張ってくださいね――っ!!」
うぉおおおおお――っ!! 初っ端から遅刻とはこれがニート生活の癖ってやつかっ!!
うわ――んっ!! 時間に追われる生活なんて嫌だよ――っ!! でも、でもここは。
アニエスとコリーヌと為にも頑張らないとっ!!
うおおおおお――――っ!! バイト先に急げ――――っ!!
◇ ◇ ◇
現在9時45分。絶賛遅刻にてございます。
びえええええええっ!! 完全に遅刻したぁあああああ――っ!!
2時間近く遅刻してしまったっ!! うぉおおおおおおおお――んっ!!
これは……。いきなりクビもあり得るぞ……。
あ、ああ。仕事を紹介してくれたレイジさんの顔に泥を塗る事にもなるかもだし……。
ううう。これだから仕事なんて嫌なんだよぅ。
はぁ。なんて話を切り出そうかなぁ。
「おいそこのっ!!」
うん?
「IDを確認した。あんた、スタッフでしょ」
はい? って。あら。
「あら、迷子かな? お母さんどこかな?」
「はぁっ!? てめぇ殺すぞっ!!」
「あら――。大丈夫だよ。俺ここのスタッフだから今迷子センターに」
「だからっ!!」
「まぁ良いっ!!」
良いってなんだぁ? なんか地面スレスレまで髪を伸ばしてる青髪の少女がそこに居た。
おめめクリクリ眼鏡少女。ちょっと顔はキツそうかな。年はたかしくんと同じくらいな感じ。
「ともかくあんたはスタッフねっ!? IDに登録あったわっ!!」
「うん、そうだよ。だから迷子センターに」
「迷子センターはいいっ!! ともかくっ!!」
「手伝えっ!! スタッフでしょっ!!」
うん? まぁスタッフですけども。
「手伝うってなにを?」
「うるさいわねっ!! いちいち質問なんてしてきてんじゃないわよ愚民っ!!」
ぐみん? グミが欲しいって事?
「ともかくこの私に着いて来なさいっ!!」
「この」
「希代の天才少女。三日月春美様にねっ!!」
「三日月春美。それが君の名前かな?」
「そうよっ!! 私はっ!!」
「じゃあ」
「お母さん来るまで、迷子センターに待ってようね。今放送で呼ぶから」
「だから違うつってんでしょっ!!」
「このダボが――――っ!!」
なんか来て早々、迷子を見つけてしまったぞ。
ふふふ、自分の事を天才少女なんて可愛らしい。この年の子って皆こうなのかな?
たかしくんもこんな感じだし。
よーし。来て早々の初お仕事。
迷子をしっかりセンターにお届けするぞ――。
「だから迷子じゃねぇって言ってんだろうがっ!!」
「このクソ愚民がっ!!」
「死ねぇええええええええええええええ――っ!!」
「はいはい、じゃあセンター行こうね。おんぶしてあげるから」
「だから、この、この」
「このやろぉおおおおおおおお――っ!!」
えっと、迷子センターは。
どこだったかな――。




