第2話 森を彷徨う
どうも、俺はニート。36歳。
今現在大人気ゲームソフト。ブラックソウル5を絶賛ゲームプレイ中なんだ。
プレイ時間はかれこれ2時間くらい。
でも残念ながら今のところ初期スポーン地点の森から出られる気配はない。
スポーン地点にはスライムの他に巨大猪や狂暴そうな巨大トカゲが出てくる。
そういうモンスターを倒して、なんとか森から出ようとしてるんだけど……。
また一撃っ!! 自キャラが一撃でやられてしまった。
さっきからそうだ。もう20回近くリスポーンしてるが、どうにもこうにも。
リスポーンして何度も敵と遭遇して、それから何度もやられてる。
ともかく敵の攻撃がべらぼうに強い。こちらがペチペチと打撃を加えてもびくともしない。
にも関わらず、あちらの攻撃は一撃必殺。
ほんのちょっと爪がかすっただけで死んでしまう。
こんな事ある? しかもアイテムも無いし回復アイテムもないっ!!
今回のブラックソウル5は随分と……。
玄人仕様じゃないかぁ。へへへ、燃えて来たぜっ!!
うお――っ!! やってやるぞーっ!!
◇ ◇ ◇
ああ――。駄目だっ!! もう何回? 何度やっても敵が倒せない。
これはどういう事だ? これ本当にブラックソウル5だよな?
パッケージを見てもそう書いてあるし、ソフトを見てもしっかり明記されてる。
え、ちょっと……。森1つ抜け出せないんだけど?
う――ん。分からん。ともかくここは一旦落ち着いてご飯を食べるか。
俺は台所の米びつから米を取り出すと、生米を取り出してそのまま噛り付いた。
ボリボリという小気味いい音を立てながら生米を咀嚼し、冷蔵庫から卵を取り出して口に放り込んだ。
それから最後の仕上げとばかりに醤油入れを掴んで上から口に醤油をドボドボと注ぎ込むのだ。
うん、今日の夕ご飯は卵かけご飯。大変美味しいっ!!
「あ、ジジイニートっ!! また馬鹿飯食ってるっ!!」
うん、縁側から何者かの声。この声は。
「あ、やぁたかしくん。遊びに来てくれたのかい?」
たかしくん。どうやらたかし君が来てくれたようだ。
たかしくんとは俺の姉の子供。つまり甥っ子という訳だ。
大変利発な子で良い子なのだ。クラスで一番成績が良くてスポーツも出来る。
まるで絵にかいたような完璧少年。ついでに顔も良い。
姉に聞いた話では大変モテるらしい。流石我が甥っ子だ。誇らしい。
「また変な食い方してっ!! なんで生米食ってんだよ働けニートっ!!」
「米炊くの面倒で。まぁ栄養になるから良しっ!!」
「良くないわこの馬鹿っ!!」
たかしくんとは生まれた時からの付き合いだ。
ちなみに小学校5年生の11歳。もうそんなになったのか。時が経つのは早いなぁ。
「ところでたかしくん、なんの用だい?」
「お母さんがこれ持ってけって」
たかしくんの母さん。つまり俺の姉さんだ。
姉さんはずっとニート生活をしてる俺を心配したまに食事を持ってきてくれる。
弟がこんなになっても見捨てない。良き姉なのだ。
「生米食いはやめろって言ってるだろっ!! まったく米なら炊いてやるからそこに座ってろっ!!」
「え――。いや流石にそれはいいよ。姉さんに怒られる」
「怒られるなら生米食いなんてするなこの馬鹿ニートっ!!」
「あらら。手厳しい」
怒られてしまった。たかしくんも11歳。思春期突入という訳だ。
小さい頃はよく家に預かったりして懐いていたのだが、最近は色々と言ってくる。
何と言うか成長したなぁって感じ。
言われて怒らないのかと言われれば。まぁ言われて当然の状況な訳だからしょうがない。
たかしくんは台所でお米を研いでいる。小学生に米を研がせるなんてなんとも罪深い。
自分がこんな生活を続ける事を憐れんで、たまにたかしくんは料理を作ってくれる。
賢い子だから自分の叔父がどういう人物なのかもすぐ理解した。
しかしそれでもあれこれ言いながら付き合ってくれる。止めとけば良いのに、なんて思うが。
家族以外の交友関係がない自分にとってたかしくんは良い友であり。
良い甥っ子だ。まあ俺自身は良い叔父ではないが……。
「今日は炒飯でも作るか。母さんサバ味噌煮作ってきたし」
「炒飯か。たかしくんは食べてかないのかい?」
「昔と違うんだよ。最近は父さんも早く帰ってくるし、一緒に食べる」
「そうなのか。一時期は忙しそうにしてたのにねぇ」
「それだけ平和になったって事だよ。母さん達が忙しくないって事は良い事なんだ」
「そうなのかもね」
「ともかく米炊いてる間ゲームでもするかな。ジジイ、スマプラする?」
「お、良いのかい? なら一緒にやろうか」
「次こそ絶対勝つっ!! 糞ニートを倒して正社員にしてやるっ!!」
「あはは、頑張っておくれー」
◇ ◇ ◇
「こんのクソニートがっ!! ガキ相手に本気出しやがってっ!! 就職しろくそぉ――っ!!」
たかしくんはスポーツ万能で成績も良くモテるけど。
まだまだゲームの腕は俺の方が上だな。わっはっはっ!!
スマプラでたかしくんをボコボコにしながら米が炊くのを持つ。
たかしくんは大変負けず嫌いで負かしても何度だって立ち上がり向かってくる。
曰く正義は諦めない。だそうだ。小学生らしい真っ直ぐな気持ちが心地よい。
そういう訳で俺も全力でたかしくんの相手をする。
そうして時間がしばらく、たかしくんが俺のプレイしていたブラックソウル5の存在に気付いた。
「あ、ブラックソウル5だ」
「ああ、気付いた? いや――。やっと買えたんだよ。ずっと欲しかったからねー」
「買ったって? えっと、これプレイしたの?」
「え、ああ――。ちょっと」
あまりにもクソゲーすぎて投げました。なんて言えず、俺はしばらく固まってしまった。
それを見てたかしくんは深いため息を付いた。
きっとネットではボロクソに言われてたんだろう。ああ、これで結城くんの態度の理由が分かった。
あまりにもクソゲーすぎてがっかりする。
彼の「出来たらだけど」っという言葉にそういう意味が。
「これネット接続しないと出来ないじゃん。バッカだな――。ここネット環境無いのに」
なに?
「そのゲームネット専用だよ? まったくしっかり裏面見ないから」
え? でもさっき普通にゲーム出来てたような……。
「ウィンチ同士ならハードで通信対戦くらい出来るけど、プレプレはそういうの出来ないじゃん」
うん? うん、でもさっきプレイして……。
「俺もそれ買ったけどネット専用だからジジイにあげなかったのに。まぁ次また別のゲーム飽きたら貸してやるから気を落とすなって」
アレ? このゲームが出来ないのなら、さっきのゲームって……。
「まぁ良いや」
「ともかく続きやろうぜジジイっ!!」
◇ ◇ ◇
あれから時間が経って、たかしくんは帰っていった。
彼の作った炒飯はとても美味しく、僕は彼にお礼を言って家に帰らせた。
「じゃあなクソジジイ。早く就職しろよ」
いつもの挨拶を交わしながら、彼は帰っていく。
その背に手を振り帰路を見守る。そうして彼がしっかり帰ったのを確認し。
俺はまた例のゲームを起動した。
テレビの電源がゆっくりと付き、それから。
ゲーム機の電源を付けていないにも関わらず、ゲームが共に起動した。
ゲーム機の電源を付けてもホーム画面に切り替わらない。
チャンネルを変えようとしても無反応。テレビは例のゲームの画面を映し続けている。
テレビの画面には三人称の主人公が映し出されている。
ふと。
俺はゲームのカメラを操作し、その主人公の顔を覗いてみる事にした。
そこには。
「俺の顔だ……」
覗き込んだ顔は間違いなく自分。鏡で毎日見るすっかり中年になった自分の顔。
それが。それがあった。
再びゲームのカメラを動かし周囲を見る。
最新のゲームだと思って気にしていなかったが、あまりにも……。
「画面が綺麗すぎる……」
ゲームの画面があまりにもリアルすぎるのだ。そんじょそこらの「リアル」とは違う。
風のざわめき。虫の声。木々の揺らめいている状況すらしっかり描写され。
よく見ると虫が這い、アリが巣に餌を運んでいる。
完全に再現された森の生態系。たかだかゲームにここまで細かな描写を?
そうだ。そもそも会ってきたモンスター。それだってやけにリアルで……。
ふとある事に気付く。そう。
「日が少し落ちてる?」
気づいて、縁側越しに空を見た。オレンジ色濃くなる夕方の空。
そしてそれは画面の空も同じで……。
「最初は普通に晴れだったよな? 昼くらいの」
疑問に口にし訝しむ。しかしそんな事を考えるよりも。
「続けた方が、早いよな」
俺はコントローラーを握った。




