笑顔に見惚れる
イーナはブレイブスの制服に着替えに一旦自宅に戻った。俺は先に宿直室に帰り散らかっていた書物を片付けていた。
「しかし何でまた急に…」
一体何の用があっていきなり宿直室に行くなどと言い始めたのか。
夕方になり少しは涼しくなったがそれでもやはり暑いものは暑い。もう少しあの喫茶店で涼んでいたかった…
部屋もだいたい片付け終わった頃に彼女はやって来た。
「あの、一体何用で…?」
「今日は魔力池への補充の他に各魔道具に直接魔力を流していきます。半日動き続けるぐらいは流しますよ。
そして明日から夏休みの間は毎朝魔力池の補充に来ます。それまでに例のオリジナル魔法陣とやらを使っておいて下さいね。」
魔道具に使われている魔法陣の殆どは効果の強弱は一定で流した魔力の量に応じて持続時間が増減する継続型の物である。普段は魔力池から発動に必要な最低限の魔力を常に流しているが強い魔力で一度発動させればそれに応じて持続時間が伸びるのだ。
「いや、しかしそんなに貰ってしまうとかなりイーナさんの負担になってしまうのでは…しかも毎朝って!!そんなに迷惑かけられませんよ!!」
「何言ってるんですか!!このままじゃ栄養不足や熱中症で倒れてしまいますよ!!」
「だけど…イーナさんには村を守るという大事な仕事があるじゃないですか!!僕のせいでいざという時に魔法が使えなかったらどうするんですか!!」
「大丈夫です。そこまでヤワじゃありません。それにこの部屋にある魔道具ぐらいなら魔力池の3分の1も補充すれば夜までは保ちます。夜になったらまた巡回の当番が補充に来るのですから、それまで保てばいいんです。」
イーナはそう言って各魔道具に魔力を流し始めた。暑苦しかった室内が涼しくなっていく。
意外に頑固なんだな、と思ったが俺の為にやってくれているのだ。そんな事は口が裂けても言えない。
「何でここまでしてくれるのですか?
僕としてはとても助かりますがその分申し訳無さも増えてしまう。」
俺が尋ねると彼女は次の魔道具に魔力を流しながら答える。
「先程朝倉さんも言ったようにブレイブスは村を守るのが仕事です。村を守るという事は村の人達を守るという事です。それは朝倉さん、あなたも例外ではありません。私は私のするべき事をしているまでですよ。」
全ての魔道具に魔力を流し終えたイーナは一度深呼吸をして笑顔で更に言う。
「それでもあなたの気が収まらないというならたまにあの喫茶店でご馳走でもして下さい。遅番の日の午後は大抵あそこでお茶していますから。」
とても明るく美しいその笑顔に俺は見惚れてしまっていた。
まるで時の流れが止まってしまったかのような感覚に陥った俺は瞬きも忘れ、彼女の眩しい笑顔に魅了されていたのだ。
「朝倉さん?どうしました?」
イーナに声をかけられ俺はハッと正気に戻る。
「いや、すいません。何でも無いです。それじゃあお言葉に甘えさせて頂きます。勿論お茶だって何杯でもご馳走させて頂きますよ。」
「フフッ、そんなには飲めないですよ。」
その後少し談笑して彼女は魔力池の補充をして巡回に出ていった。
「明日の朝にまた来ます。
ちゃんとご飯食べてゆっくり休んで下さいね。」
自分でも何故かは分からない。
しかし別れ際に言った彼女のこの言葉に俺は、明日の朝が早く来ないかと心躍らせていたのだった。
シルバークラス 出席番号 3
エマ グリント(♀)
13才。シルバークラスの最年少。勉強熱心で生真面目な性格だが融通が効かないところがある。自身の所属する部の部長であるリンに憧れ、敬愛している。




