5話 まさかの繋がり
「まあ、そんな顛末があったのですね」
ナターシャ様は、優雅な仕草で頬に手を添えた。
最近人気のカフェテリア。そのテラス席でわたしたちはお茶を楽しんでいた。先日の堂々たる浮気宣言は、予想通り貴族の間で噂が回っていた。
今も、渦中のはずの二人が一緒にいることで周りの視線を集めている。アウデイル男爵との契約に従い、ナターシャ様の名誉を回復するべく人の目の多い場所を選んだ。
意外なことに、ナターシャ様はその視線を気にすることなく、わたしにまっすぐ視線を向けていた。……なんだか熱がこもっているように感じるのが少し怖い。
「ミシェリー様はブラックフェザー家との婚約が調ったとお父様から聞きましたわ。おめでとうございます」
「……話が回るの、早すぎませんか? まだ国から正式な許可は下りてないんですが」
ナターシャ様はわたしの言葉に、「あら?」と首を傾げたあと目に見えて慌てだした。
「困りましたわ。主様に叱られてしまいます」
「主様?」
今度はわたしが首を傾げると。
「やはりアウデイル家に開示したのは早すぎたな」
知っている声がしたほうを見る。なぜかウィリアム様が現れた。
目立つ場所にいたから、通りがかりに気づいたのだろうか。ん? アウデイル家に『開示』?
ウィリアム様の姿に気づいたナターシャ様が立ち上がった。
「主様、申し訳ございません。嬉しくて気が急いてしまいました」
完璧なカーテシーでウィリアム様を迎えるナターシャ様。
わたしはウィリアム様とナターシャ様を見比べた。
「まずは席を移動しようか。この店には個室もあるんだ」
「は、はい」
手を差し出されたので、手を重ねて立ち上がる。そのまま握り込まれてウィリアム様は歩き出した。
平民を伯爵令息がエスコートし、その後ろを男爵令嬢が付き従う。
なんだこれは。周りが明らかにざわつく中を否応なしに突っ切っていく。これでは、明日の噂の主役がわたしになってしまう。
「えーと、ウィリアム様。ナターシャ様とお知り合いだったのですね?」
案内された部屋は二人掛けのソファと、テーブルを挟んで一人掛けのソファが二つ配置されていた。
ウィリアム様は二人掛けのソファへわたしを誘導し、当然のようにわたしの隣に腰掛けた。
「ああ、うちの子飼い。あなたの情報網には届かないだろうから、知らなくても落ち込まないでね。あなたの養子先候補の一つ……だったんだけど、外そうかな」
「そんな! 主様以外で、わたくしほどミシェリー様を大事にできる者はおりません。お考え直しくださいませ」
くらりと頭が揺れる。グレッグ様の浮気相手が、ブラックフェザー伯爵家の一門?
ウィリアム様が用意した証拠の束。あまりに早く訪問した理由。
「まさか……」
「ヒース男爵令息がナターシャを選んだのは偶然だよ。ミシェリー、見てご覧。彼女に腹芸などできると思うかい?」
対面に座ったナターシャ様の顔をじっと見つめる。男爵令嬢としては、言葉も姿勢も洗練されている。しかし、ささいな仕草もふとこぼれる笑顔も、なんというか隙だらけなのだ。加えて先ほどの言動。アンバランスさがナターシャ様の魅力ではあるのだけど、これを演技というには苦しすぎた。
「それは、そう……なんですけれども!」
ナターシャ様はわたしたちの会話を聞いているはずなのに、微笑ましそうにこちらを見ながらお茶を飲んでいる。
「ナターシャは、腹芸などできないかわりに特殊能力があるから。今回もナターシャの報告は重宝したよ」
「待ってください。ナターシャ様の報告?」
「『婚約者は冷たい人で、僕の気持ちを理解してくれなかったんだ』などとおっしゃる内容を報告しておりました」
またグレッグ様の真似。ナターシャ様はにこやかに笑っているけれど、それは。
「ウィリアム様は、ナターシャ様の相手がグレッグ様だと知っていたということですか」
ウィリアム様はただ薄く微笑んだ。
「っ!」
立ち上がろうとするのを、手を掴まれて止められる。そのまま彼は手の甲に唇を寄せた。ピリピリとした感覚が身体を襲う。
「使えるものは使わないと、ね。ちゃんとナターシャが尊厳を守れるように助言はしていたよ」
「それでも! ことが大きくなる前に、わたしにその情報を売りつけるなりできたでしょう?!」
「それでは、確実にあなたが婚約破棄するか、わからないじゃないか」
たしかにまだ浮わついている段階ならば、話し合いで解決したかもしれない。
情報を隠されていたことが悔しい。それ以上に、ウィリアム様を見誤った自分が許せない。
ウィリアム様はいつもわたしを尊重してくれていた。だからといって、常に誠実に接してくれるとは限らないのに。
「離してください」
思ったよりも、低い声が出た。ウィリアム様はきゅっと一度力をこめたけれど、わたしが睨みつけると、ゆっくりと手をはずした。
今は顔を見たくない。立ち上がると、ナターシャ様のほうだけを見て、辞去の挨拶をした。
そのまま部屋から出た。幸いなことに追いかけてはこない。どんどん歩幅が大きくなる。
辻馬車を拾って、家へ走らせた。
「苦しい……」
ウィリアム様の顔を思い浮かべては、涙がこぼれる。
こんなに激しく感情を揺らしたことなんてないのに。抑える方法もわからず、手で顔を覆った。




