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浮気男を損切りしたら、腹黒伯爵令息との政略結婚が決まりました  作者: よし はるか


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2話 想定外の訪問者

 そして翌日。

 意外なことに、浮気相手が己の父親と共に屋敷を訪れた。


「「申し訳ございません!」」


 二人とも息ぴったりに、頭を下げる。わたしは隣に座る父と顔を見合わせた。

 かわいい系令嬢は、ナターシャ・アウデイル様。二代前に叙爵された男爵家のご令嬢だった。

 たった二日で少しやつれて、儚げ要素まで追加されている。


「わたくし、婚約者様とは婚約を解消するご意向で、話が進んでいるとうかがっておりましたの」


 繊細なレースのハンカチを握りしめて、ナターシャ様は声を震わせている。いや、解消し終わってないなら、付き合っちゃ駄目でしょう。


「『すでに婚約解消の手続きは済んでいる。あとは、国に承認されるだけなんだ』と言われて……わたくしの浅慮で傷つけてしまい、本当に申し訳ございません」


 いきなりグレッグ様の真似をされて、声が出るのを慌てて抑えた。発音も言い回しも彼そっくり。ナターシャ様の高い声だけが異質だ。


「グレッグ様の真似がお上手ですね……」

「わたくしの数少ない特技なのです」


 ご令嬢としては使う機会のなさそうな特技だろうに、得意そうにされてしまった。悪気はなさそうだけど、披露する場には少し相応しくない。


「娘の交友範囲を把握していなかった私の責任です。アウデイル家として誠意ある対応はします。だから、おかしなことは考えないでいただきたい」


 平民であるわたしたちに、アウデイル男爵は頭を下げた。

 おかしなこと? と一瞬考えてから、うちの『商品』のせいだろうかと思い当たる。

 ハルパ商会は貴族家で使用される日用品を主に取り扱っているけれど、彼らが必要とするのであれば、形がないもの(じょうほう)だって仕入れて届ける。


「アウデイル男爵、心配なさらずとも言い触らしたりはしませんよ。……手遅れですし」


 サァーとアウデイル男爵の顔から血の気が引いていく。アウデイル領は新しい事業の共同出資者を探している最中。このタイミングの醜聞は都合が悪かろう。


「お相手のグレッグ様が、大勢の前で宣言されていましたからねぇ。ハルパ家としてもヒース家との婚約は破棄する方向で動いています。噂が広がるのは免れないでしょうね」


 わたしは貴族がよく浮かべるアルカイックスマイルを浮かべた。


「……けれど、ナターシャ様はグレッグ様から都合のよい話を聞かされていたご様子。慰謝料などは求めませんが……いかがでしょう? こちらの精神的苦痛を鑑みて、これくらいで噂の訂正を承りますよ」


 さらさらっとテーブルに備え付けていた紙に金額を書いて提示してみる。

 アウデイル男爵は今度はブルブルと震えながら唸り始めた。そして、しばらくのち、がくりと肩を落とした。


「背に腹は代えられん……。頼みます」

「承りました。では、ナターシャ様、しばらくわたしたちはお友達として行動を共にしていただきます」

「え、わたくしとですか?」


 ナターシャ様が自分の顔を指差しながら尋ねてきた。わたしはそれに頷く。


「はい。噂の訂正はうちの商会の者が行います。それに加えて、『騙されたナターシャ様に、同情したわたしが寄り添う』姿を見せることで、誰が加害者なのかを皆様に察していただこうかと」


 当日の困惑している姿を思い出す。わたしと一緒にいれば、あの場にいた人間は『そういうこと』なのだと気づくだろう。


「ナターシャ様に迂闊なところがあったとはいえ、あんな場所で修羅場を繰り広げられた以上、きちんと訂正しないとナターシャ様の今後の縁談に差し障りがありますからね」

「そんな、なぜわたくしのことまで考えてくださるのですか……? あなたの婚約者との仲を壊してしまったのに……」


 そう言いながらナターシャ様の瞳から、ぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちた。レースのハンカチでそっと目を拭いて、わたしを見つめる。


「あの男のために人生を台無しにされるほどの罪だとは思いません。ナターシャ様、どうか泣き止んでください」


 わたしだってあんなのと結婚しなくて済んで助かったわけだし。あと、アウデイル男爵の新事業は面白そうだから一枚噛んでおきたい。

 ナターシャ様は、まだ潤んだ瞳に頬を染め上げてわたしを見つめた。

 まるで、恋する乙女。……え、なんで?


「お優しいのですね……。あの、『お姉様』とお呼びしても?」

「いや、そういうのはちょっと……」


 なんか、グレッグ様に騙された理由がわかった気がした。チョロすぎる。


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