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第2話 強力な魔法は詠唱も長くなるんです

 ピーターの勤務初日の夕方――。



「池に魔物出現だそうです!」


 ピーターは依頼の内容をハンスに告げる。


「数は?」

「中型の魔物が一体だけです」 

「なら、それほど難しくはないな。手が空いている魔法使いを探して、むかわせてくれ」

「それが、いないんです……」

「いない?」


 ハンスは書類から顔を上げると、目を細めた。


「トレバーは?」

「火災現場で対応中です」

「ジョンは?」

「ボブさんとともに、別の場所で魔物の退治にあたっています」

「誰か、いないか……?」


 ハンスは髪をくしゃっと掴む。

 ピーターはなんとか人員を確保できないかと連絡を取り続けた。そして、一人見つかった。



「あの。彼女なら……、ルリさんなら、先ほどの任務が一段落したので、あいているそうですが……」


 ハンスだけでなく、マーサの顔も曇った。


「待ってくれ……。他に誰も、いないのか……?」

「はい……。手を尽くしましたが……」

「本当に?」

「はい」

「誰か、いるんじゃないのか? ニコラスは?」 

「いません」

「ケイトは?」

「いません」

「バンジーは?」


 ピーターは首を振った。


「すぐに向かえるのは、彼女だけです」


 ハンスは目に涙をためている。


「いないのか……?」

「本当に、いません」


 ハンスは両手で顔を覆い、数秒沈黙した。



「彼女に…………連絡をっ……」


 消え入りそうな声で、ピーターに指示をだした。




「あの、マーサさん」

「なんだい?」


 池に向かった彼女と報告係ポールからの連絡を待つ間、ピーターはマーサに声をかけた。


「ルリさんの魔法、加減していただくことはできないんですか?」

「はんっ。それができりゃ、苦労しないよ」


 マーサはものすごい勢いで書類を仕分けしていく。ちゃんと読んでいるのだろうかとピーターは気になったが、長年働いていれば、こういう技も身につくのかもしれない。


「あの娘はね、大技しか使えないのさ。たった一匹の魔物を倒すためだけに、小さな村を吹き飛ばしたこともある。今回も何をしでかすのやら」

「それはなんとも、小回りのきかない力ですね。せっかく強くても、それでは……」

「まあ、残念としか言いようがないね。あの娘は、いてほしい時にいなくて、いなくていい時にいるのさ。何もかもうまくいかないよ、まったく……」


 マーサがため息をつくと、ピーターもつられてため息がでた。




 しばらくしてポールから連絡がきた。


『池に現れた魔物の討伐は、無事、成功しました』

「承知しました! ありがとうございます!」

『ただ……』


 ポールが言葉に詰まると、ハンスは耳をふさいだ。


「あー、あー、知らない聞こえない帰りたいいやだいやだいやだ。あーあー」

「また壊れだしたか」


 マーサがハンスに冷ややかな視線を送る。



『池が――ザザッ……』

「すみません! もう一度お願いします」

『ルリさんが使用した魔法は、炎の魔法だったんですが、尋常ではないほどの威力でして……。魔物にあたっただけではおさまらず、池の水を、すべて、蒸発させてしまったんです……』


「なんだってえ!?」

「なんだってえ!?」


 ハンスとマーサが同時に椅子から立ち上がり、叫んだ。



「ハンス! あそこの池は共同のため池だろ? あのへん一帯の生活水だ!」

「まずい! まずすきる!」


 ハンスは頭を抱えて部屋を右往左往し始めた。



「どうしよう! どうしよう? いっそもう黙っていようか?」

「はあ!? 何バカなこと言ってるんだい! すぐにバレるに決まってるだろう! しっかりしな!」

「だって! そんな賠償金払えるわけないじゃないか! 周辺住民への給水の手配にどれだけの費用がかかるか! あそこは近くに水路がないんだ! だからため池を作ったのに。せっかくこつこつ貯めた水を、一瞬で蒸発させるなんて……」


 話の途中で、ハンスの動きがピタッと止まった。


「一瞬で? 一瞬って……は……ははっ…。それはすごいな。すごいすごい。もはや笑えてくる。くくくっ……」


 ハンスが肩を揺らし不気味に微笑むのをみて、ピーターはもうこの人はダメかもしれないと思った。

 マーサも同じことを考えていたのか、やれやれと首をふる。


「とりあえず、いつものように状況を確認だ。ピーター、ポールに聞いてくれ」


 使い物にならないハンスのかわりに、マーサが指示をだしてくれた。

 ピーターは、倒した魔物の特徴、干からびた池の状態、そして例のごとく使用魔法を尋ねた。



『来たれ白銀の調停者、天を灼き地を焦がす熱禍の主。深淵に潜む不浄なる影を、今ここに永遠の煉獄へと葬り去らん。

神罰極光ゴッド・オーラ・プロメテウス天焦灼熱インフェルノ・バースト焔魔黒縄煉獄(エグゼキューション)



「ありがとうございます。『オーラ』って言葉を聞くの、今日で三回目です。ははっ。技名の部分だけで結構ですので、すみませんがもう一度お願いできますか?」

『これが技名だそうです』

「……どれがですか?」

『いまお伝えした全部が、です……』



「……全部……?」

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